ボルネオ島サラワク洲における削りかけ状祭具の調査

ブラワンの削りかけ
客人歓迎のための装飾
カヤンの削りかけ
焼畑の際に削って立てる

 6月下旬、ボルネオ島サラワク州において日本の「削りかけ」に酷似した木製具の調査を行ないました。削りかけは、日本では小正月に飾る慣習が広く認められるほか、アイヌ民族における最も重要な祭具(イナウ)でもあります。削りかけに酷似する祭具がボルネオでも見られることはこれまでも知られていましたが、専門家による現地調査や比較研究は従来ほとんど行なわれてきませんでした。そこで今回は、アイヌ文化やイナウ研究を専門とする北海道大学アイヌ・先住民研究センターの先生方と共同で、将来的な比較研究のための予備調査を行ないました。
 現地ではいくつかの民族に話を聞く機会を得たほか、製作も見せていただくことができ、その習俗についておおよその概要を知ることができました。民族により、削りかけ状祭具の名称、用途、形態、素材等は少しずつ異なりますが、例えばイバンではBungaiJaraw(bungaiは花を意味する)などと呼ばれ、現在では客人を歓迎するための単なる装飾と捉えられることが一般的のようでした。しかし、かつては首狩り習俗や伝統的な祭りに際して重要な役割を果たすなど、より象徴的、宗教的な意味合いを持たされていた痕跡も見受けられ、さらに踏み込んだ調査が必要と言えます。
 今後もボルネオをはじめとする国外の削りかけ状祭具の調査を進めることで、日本列島における削りかけ習俗や製作技術についての理解を深め、その文化史的、文化財的な位置づけを究明していきたいと考えています。

to page top