東日本大震災の被災地における無形民俗文化財の調査

津波に流され、被災した「うごく七夕」の山車(長砂組)。家々が流されて更地になった場所に卒塔婆を立て、その前に並べてあった(陸前高田市)
野鍛冶の技術によって作られたアワビ鉤。三陸一帯で使われている。自宅兼工場は津波による被災を免れたが、昨年は多くの漁師が被災したためアワビの口開けがなく、鉤も出荷できなかった(陸前高田市)。

 5月中旬、東北沿岸被災地において、無形民俗文化財の被災・復興状況の調査を行いました。東日本大震災より1年以上たった現在も、有形文化財に比べ、無形民俗文化財に対する調査や復興支援は立ち遅れています。もちろん、関連団体や個人の尽力により、被災情報の収集・発信や、支援者と支援される側を繋ぐ活動などが行われており、大きな力となっていますが、活動全体を繋ぐネットワークがないために、支援のニーズが噛み合わなかったり、支援に大きな偏りが出るなど、種々の問題も浮上しています。
 また特に民俗技術に関しては、震災以前から所在の確認すらなされていなかったケースが多く、未だに被災の全容や必要な支援の情報は掴めていません。樹木や土などの自然素材を原材料とする多くの民俗技術は、津波による物理的被害のみならず、原発事故による材料の汚染や風評被害とも対峙していかなければならない状況にあるはずですが、そうした現状も、把握が困難な状況にあります。
 そうした問題の一方、特に祭りや芸能の場合、鎮魂や供養の意味合いが地域の人々によって強く認識されたり、仮設住宅に入ってバラバラとなった地域を繋ぐ重要な絆として作用するなど、これらの文化が持つ力が改めて見出され、見直される例も多く聞かれます。
 無形文化遺産部では被災地域のこうした状況を注視し、情報収集に努めるとともに、被災地支援のため、また今後起こりうる様々な災害に対応するための、新たなネットワーク作りに着手しています。

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