アンコール遺跡群での現地調査と覚書の更新

石材上の生物の種類と環境条件に関する調査
覚書への調印

 平成23年12月、カンボジアのアンコール遺跡群での現地調査と、東文研・奈良文化財研究所(奈文研)およびアンコール地域遺跡整備機構(APSARA機構)との覚書の更新を実施しました。
 アンコール遺跡群での活動の目的は、石材の保存にとって適切な環境条件を解明することです。石材の生物による劣化はアンコール遺跡群における共通の課題であり、生物の種類によって石材に及ぼす影響は異なると考えられます。しかし、環境と生物の種類との関連について、分類学的な内容を含む調査研究を行っている団体は少ないのが現状です。東文研では、環境条件と石材表面に生育する地衣類、蘚苔類、藻類などの種類との関連を明らかにし、それらの生物が石材に及ぼす影響を定性的・定量的に評価するための調査研究を実施しています。今回、日本および韓国から地衣類の分類学的研究の専門家、イタリアから植物生態学および文化財の生物劣化の専門家にも参加していただき、これまで継続的に調査を行っているタ・ネイ遺跡をはじめ、タ・ケオ、タ・プローム、バイヨンなど、環境が異なる周辺のいくつかの遺跡で調査を行いました。現在は各研究者が現地調査で得られた情報の解析を行っています。また、タ・ネイ遺跡では、付近の採石場から切り出した石材試料を遺跡に長期間設置して表面状態の変化の観察を行ったり、過去の保存処理実験の経過観察を行ったりしています。
 現地調査に引き続き、アンコール遺跡群での共同研究に関するAPSARA機構との覚書を更新しました。従来、覚書は東文研と奈文研がAPSARA機構との間でそれぞれ取り交わしていました。今回から、同じ地域で活動する両文化財研究所の連携を深めるため、三者の間で締結することとなり、シエムリアップにあるAPSARA機構の本部で東文研の亀井所長、奈文研の井上副所長とAPSARA機構のブン・ナリット総裁による調印式を実施しました。今後は、修理事業が予定されている西トップ遺跡でも保存整備のための調査研究を行います。

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