研究所の業務の一部をご紹介します。各年度の活動を網羅的に記載する『年報』や、研究所の組織や年次計画にもとづいた研究活動を視覚的にわかりやすくお知らせする『概要』、そしてさまざまな研究活動と関連するニュースの中から、速報性と公共性の高い情報を記事にしてお知らせする『東文研ニュース』と合わせてご覧いだければ幸いです。なおタイトルの下線は、それぞれの部のイメージカラーを表しています。

東京文化財研究所 保存科学研究センター
文化財情報資料部 文化遺産国際協力センター
無形文化遺産部


「活動報告」をホームページへ掲載

 東京文化財研究所では今年度から「活動報告」を毎月、ホームページに掲載することといたしました。「活動報告」では研究所全体、あるいは各部・センターのさまざまな活動を素早く伝えることを目指しています。例えば3月25日、能登半島地震の発生から1ヶ月も経たないうちに行った被災文化財調査や高松塚古墳壁画の保存に向けたさまざまな取り組みなどの記事を研究者の眼から報告していきます。


東京文化財研究所の特集が『日本の美術』から刊行

『日本の美術 No.492 文化財と科学技術 東京文化財研究所のしごと』

 『日本の美術 No.492 文化財と科学技術 東京文化財研究所のしごと』(2007年、至文堂、定価1,650円税込み)が出版されました。本書は、科学技術を活用した実践的な調査・研究の事例をあげながら、作品の科学的調査、保存環境と劣化、修復材料・技術の評価と改良、開発、近代遺産の保存修復、国際的な文化財保存協力と科学技術、無形の文化財・記録の手法と技術を解説しています。『日本の美術』はお近くの書店でお求めいただけます。


所蔵和雑誌情報の公開と、閲覧方法の改善

マイクロフィルム・エクスプローラー

 当研究所は美術雑誌を数多く所蔵しており、その目録を刊行物としては公にしておりましたが、 4月より「研究資料データベース検索システム」に所蔵和雑誌の情報を加えて、ウェブ上で公開し、検索に供しております。当所の蔵書は、明治から昭和前期にかけて刊行された美術雑誌が多数含まれる点を特色のひとつとしています。これらの雑誌は、用いられている紙、印刷技術などにも各時代の歴史的情報を読み込むことができる貴重な資料です。多くの文化財がそうであるように、こうした資料も、一方で保存を、他方で活用を考えていかなくてはなりません。当所では、これらの美術雑誌を保存するため、劣化の度合いと使用頻度等に鑑みて、資料のマイクロフィルム化・CD-ROM化を進め、一般的な利用に関しては、これら複製を皆様に提供し、原本は貴重書扱いとして特別な申請に対して対応しております。
 4月からの所蔵情報のウェブ上での公開にあわせて、より広くご利用いただけるよう、資料閲覧室ではマイクロフィルム・エクスプローラーを設置いたしました。この機器はパソコンのモニター上でマイクロフィルムが閲覧でき、プリントアウトも可能です。従来のマイクロフィルムリーダープリンターとあわせて、ご利用いただければ幸いです。


東京国立博物館における「黒田記念館 黒田清輝の作品Ⅰ」展示

黒田記念館 黒田清輝の作品Ⅰ

 今年度 4月、文化財研究所と国立博物館の両独立行政法人は、統合して独立行政法人国立文化財機構になりました。これにともない黒田記念館所蔵の作品を、平成館1階企画展示室にて展示しました。内容は、洋画家黒田清輝の代表作であり、もっともひろく親しまれている「湖畔」(国指定重要文化財)をはじめ、フランス留学時代から晩年までの作品(油彩画14点素描8点)によって構成しました。これによってリベラルな思想に裏づけられた、外光と色彩を意識した新しい視覚表現によって、明治中期の日本の洋画界に変革をもたらした黒田清輝の芸術のエッセンスを紹介しました。(会期:4月10日から5月6日まで)。会期中、同博物館では「レオナルド・ダ・ヴィンチ―天才の実像」展開催と重なったため来館者も記録的に多いなか、そうした方々にも黒田作品をも鑑賞していただくことができ、作品公開の機会拡大となりました。一方黒田記念館では、これまで同様に毎週木、土曜日に公開を継続し、あわせて画家、及び作品等の研究成果を一般の方々に見ていただくようにつとめていきます。なお、今年度における第2回の同博物館での公開は、11月6日から12月2日までを予定しています。

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ユネスコ「無形文化遺産保護条約に関する専門家会議」

無形文化遺産 「クッティヤッタム」

 去る 4月2日から3日間、ユネスコ・インド政府主催による上記会議が、各国 29名の無形文化遺産専門家の参加により、インドのニューデリーで開催されました。当研究所からは、無形文化遺産部の宮田が参加しました。
 この会議は、 5月の第1回臨時政府間委員会(中国、成都)及び9月の第2回政府間委員会(日本、東京)に向けた重要な会議として位置づけられるものです。討議は、条約の中心となる無形文化遺産の「代表リスト」と「危機リスト」に関して、その関係性やそれぞれの登録基準等をテーマに行われ、そこでの専門家の意見をユネスコ事務局が今後の作業指針原案作りに活かしていくことが目的とされました。しかし、参加した専門家間で、「代表性」や「緊急の保護」といった共通概念が十分でなかったため、やや抽象的議論に終始した感が否めず、結局の所会議としての勧告等の採択には至らずに終了しました。
 このように当初の目的からは必ずしも成功とはいえない会議でしたが、様々な文化プログラムなど、ホスト国のインドが示した無形文化遺産保護への意欲は並々ならぬものがありました。今後無形文化遺産部としても、インドとの交流を図っていく必要性を強く感じました。


高松塚古墳石室解体時の断熱覆屋内の空調制御

断熱覆屋内の空調制御装置の外観

 石室の解体修理のため、墳丘部の発掘が進み、石室が外気に接しますと石室内の温湿度は、外気の温湿度変化の影響を受けて大きく変化することが予想されます。そのため、石室内の温湿度を一定に保つために内部断熱覆屋を墳丘部に設置し、内部の空調を行いました。カビは一般に暖かくなるほど発育が盛んになりますので、墳丘部を冷却管により冷やした温度と同じ 10℃になるよう温度を設定しました。また、湿度に関しては、90%を目標に制御をしました。
 湿度制御は、スクラバーと呼ばれる水を噴霧している容器内に空気を通すことにより加湿し、ファンコイルと呼ばれる熱交換器部分の温度を調整して湿度の制御を行いました。 10℃という低温では、わずかな温度変化で、相対湿度が大きく変わってしまうため、断熱覆屋内の温湿度の測定値をコンピューターに入力し、フィードバック制御を行いました。内部断熱覆屋内の空調制御に関しましては、京都大学の鉾井修一教授らのご協力を頂き、当初の目的通りの制御を行うことができました。


2007年能登半島地震における被災文化財調査

能登半島地震で被災した門前町の角海家住宅と土蔵(石川県指定有形文化財)

 2007年3月25日午前9時42分、能登半島にてM6.9、最大震度6強の地震(平成19年(2007年)能登半島地震)が発生しました。その結果、震源近くでは家屋の全半壊、ライフラインの寸断など大規模な被害をもたらしました。文化財も例外ではなく、石川県内で21件の文化財被害が報告されています(石川県教育委員会調べ、2007年4月4日)。  今回、保存修復科学センターでは、能登半島地震における文化財被害について、被害状況や被害要因を早急に把握し、応急措置や将来の修復計画に関する助言を行うことを目的に現地調査を行いました。調査期間は2007年4月16日(月)から18日(水)まで、輪島市内の文化財展示施設、文化財建造物を対象に行いました。
 ある文化財展示施設については、漆芸品パネルの吊り展示を行っていましたが、吊り金具の破損による落下被害状況を目の当たりにしました。また、震源地近くに位置する門前町黒島地区では、母屋や土蔵がほぼ全壊という状況のなか、資料館の収蔵庫が焼失するという二次被害の現場を実見することとなりました。
 阪神・淡路大震災以後、文化財の防災について様々な調査研究、政策が採られましたが、今回の調査地のように、その情報が全国に行き渡っていない現状があります。東京文化財研究所では今後、文化財の防災に関する研究を推し進めてゆくとともに、積極的な情報公開により、文化財防災についてより多くの方に知って頂くよう努力してゆく所存です。


シルクロード沿線人材育成プログラム

屋外での授業

 中国文物研究所と共同で実施する「シルクロード沿線文化財保存修復人材育成プログラム」は 2年目を迎えました。今年は、春からの3ヶ月間、土遺跡保存修復班( 3年計画の第2年目)と考古発掘現場保存修復班を実施し、秋からの3ヶ月間で博物館館蔵品保存修復班の「紙の文化財」コースを実施する予定です。その春のコースの開講式が、張栢国家文物局副局長をはじめ担当各部門の責任者が出席する中、4月16日研修場所となる陝西省韓城市梁帯村において盛大に行われ、3ヶ月間の研修が開始されました。韓城市は、宋元明3代の建築物が遺されている歴史名城地区であり、近くには秦時代の万里の長城があり、また司馬遷の墓があるなど、文化遺産の宝庫とも言える土地ですが、2004年秋には近在の梁帯村で、西周末から東周早期と推定される墓が大量に発見されました。その大部分が未盗掘であり、しかも多くの墓から朱砂が崩落した痕跡が認められることから、それらが貴族級の被葬者のものであると推定されています。とくに、M27号墓からは大量の金器、漆鼓、石磬などが出土していて、これを含む4つの墓は当時の諸侯級のものであろうと言われています。私たちの研修コースは、陝西省文物局の全面的な支援を得て、この梁帯村で現在発掘作業が行われている大型墓を現場実習に使うことになりました。3ヶ月の期間中、日本側講師13名が参加し、中国側講師とともに指導にあたります。

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タジキスタン、アジナ・テパ仏教遺跡保護プロジェクト

日干レンガで造られた北側の壁の一部
焼けて変色したプラスターが残存する北壁

 文化遺産国際協力センターは、4月12日から5月18日にかけて、ユネスコ文化遺産保存日本信託基金による「タジキスタン、アジナ・テパ仏教遺跡保護プロジェクト」の第2次ミッションを派遣しました。
 アジナ・テパは、7世紀から8世紀に機能していた仏教寺院で、大型のストゥーパ(仏塔)や復元長12.8mという巨大な涅槃仏の塑像が出土したことで知られています。本事業の目的は、日干レンガや練り土といった土構造物で構築された仏教寺院を保存することであり、センターは、タジク人の若手考古学者と共同して、過去の発掘調査以後に堆積した土砂や雑草を除去し、仏教寺院本来の壁および床面の位置と構造を明らかにする考古学的清掃作業を行っています。
 今回の調査の結果、仏教寺院の壁が、日干レンガと練り土を併用して構築されていること、場所によっては日干レンガのみで作られた壁も存在することなどが分かりました。また、寺院の床面を検出するために一部で発掘を行ったところ、いくつかの壁画片や彩色塑像片と思われるものが出土しました。
 現地の若手考古学者との共同作業は、われわれ日本人にとっても非常に刺激的なもので、こうした調査が、今後も現地専門家の人材育成に貢献することを希望しています。


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