研究所の業務の一部をご紹介します。各年度の活動を網羅的に記載する『年報』や、研究所の組織や年次計画にもとづいた研究活動を視覚的にわかりやすくお知らせする『概要』、そしてさまざまな研究活動と関連するニュースの中から、速報性と公共性の高い情報を記事にしてお知らせする『TOBUNKEN NEWS (東文研ニュース)』と合わせてご覧いだければ幸いです。なおタイトルの下線は、それぞれの部のイメージカラーを表しています。

東京文化財研究所 保存科学研究センター
文化財情報資料部 文化遺産国際協力センター
無形文化遺産部


公開研究会「航空資料の保存と活用」の開催

講演の様子
パネルディスカッションの様子
展示の様子

 保存科学研究センターでは、令和6(2024)年1月23日に日本航空協会との共催で公開研究会「航空資料の保存と活用」を東京文化財研究所地下セミナー室にて開催致しました。
 航空機そのものに加え、図面や写真等も含めた航空資料は、我が国の近現代史におけるかけがえのない文化財ですが、従来の文化財とは資料の材質や規模などにおいて異なる点も多く、文化財としての保存と活用には新たな手法が求められる場面が多々あります。この度の公開研究会は、文化財、文化遺産としての航空資料の現状と課題について改めて考えることを目的として開催致しました。
 初めに、当研究所長・齊藤孝正および日本航空協会副会長・清水信三氏の開会挨拶と保存科学研究センター特任研究員・中山俊介の趣旨説明がありました。講演では、日本航空協会・苅田重賀氏、中山、保存科学研究センターアソシエイトフェロー・中村舞が「航空史資料の保存と課題」と題し、日本航空協会と当研究所が平成16(2004)年度より実施している共同研究「航空資料保存の研究」の成果や課題を報告致しました。元日本航空協会・長島宏行氏からは「三式戦闘機「飛燕」の羽布の修復」のタイトルで、長島氏が携わった三式戦闘機「飛燕」(日本航空協会所蔵、岐阜かかみがはら航空宇宙博物館にて展示)の羽布の修理について、詳細な事例のご報告を頂きました。南九州市の知覧特攻平和会館・八巻聡氏からは「四式戦闘機「疾風(1446号機)」の来歴と保存の取り組み」と題し、四式戦闘機「疾風(1446号機)」(同館所蔵)について、ご所蔵に至るまでの経緯と、取組まれている調査活動についてご報告を頂きました。併せまして、保存科学研究センター研究員・千葉毅、同研究員芳賀文絵より「南九州市近代文化遺産に関する東京文化財研究所の取り組み」として、日本における航空機の文化財としての指定状況と、南九州市と当研究所が共同で実施している調査研究の紹介を致しました。その後、これらの講演を受け、保存科学研究センター長・建石徹をファシリテーターとして、苅田氏、長島氏、八巻氏、中山を交えて行ったパネルディスカッションでは、文化財、文化遺産としての航空資料を取り巻く現状や課題について活発な意見交換がなされました。最後に建石が閉会挨拶を行い、盛会のうちに終了しました。
 また、当日は会場のホワイエにて、日本航空協会と当研究所との共同研究に関連する資料として、同協会所有の山崎式第一型グライダー「わかもと号」の水平尾翼、伊藤式A2型グライダーの垂直尾翼、山路真護作「朝風」号油絵、ジーメンス・シュッケルト D.IV 胴体パネル等を展示致しました。
 総勢77名の方にご参加頂き、終了後のアンケートにおいても、航空機を含めた近代文化遺産の保存と活用に関する調査研究が期待されていることが実感されました。本研究会の内容は、来年度報告書として刊行予定です。

第29回近代の文化遺産の保存修復に関する研究会「近代文化遺産の保存理念と修復理念」

当日の発表の様子

 保存修復科学センター近代文化遺産研究室では、1月15日(金)に当研究所セミナー室において「近代文化遺産の保存理念と修復理念」を開催しました。当日は、ドイツ産業考古学事務所長のロルフ・フーマン氏、産業考古学会会長の伊東孝氏、長岡造形大学教授の木村勉先生、東京大学教授の鈴木淳先生の4氏をお招きし、ご講演いただきました。フーマン氏からはドイツにおける産業遺産の保存理念と修復理念に関するご講演を頂きました。伊東氏からは建築遺産、土木遺産、産業遺産という3つのカテゴリーに分かれた近代文化遺産のそれぞれに体する保存理念と修復理念のお話を伺いました。木村先生からは、近代洋風建築の保存と修復を通して近代解散の現状と課題に関するお話をいただきました。鈴木先生からはご専門の産業技術史の観点から、残されている遺産から、当時の技術の変遷等も窺い知ることが出来るので、そのような支店から遺産を保存する必要もあるというお話をいただきました。皆様それぞれ実践を踏まえたお話であっただけに説得力が有り聴衆の方々も熱心に耳を傾けていました。終了後のアンケートにもありましたが、保存理念と修復理念の問題はこの1回で終わることなく、さらに深めた議論が必要だと感じました。再度、より深めた議論が行えるよう更なる調査研究を実施して参ります。

第28回近代の文化遺産の保存修復に関する研究会「洋紙の保存と修復」

研究会の様子

 保存修復科学センター近代文化遺産研究室では、11月21日(金)に当研究所セミナー室において「洋紙の保存と修復」を開催しました。当日は、元国立国会図書館副館長、現学習院大学非常勤講師をされておられる安江明夫氏、(株)プリザベーションテクノロジーズジャパン専務取締役横島文夫氏、(株)修護の主任技師小笠原温氏、メキシコ国立公文書館修復部門責任者アレハンドラ・オドア・チャベス氏、カナダ国立図書館公文書館紙美術品、地図文書修復部門主任アン・メイヒュー氏の5氏をお招きし、ご講演いただきました。安江氏からはアーカイブの視点から資料保存の取り組みに関する変遷等のお話を頂きました。横島氏からは大量脱酸処理に関するお話を伺いました。小笠原氏からは、現在携わっておられるノートの修復に関して問題点等を紹介頂きました。アレハンドラ・オドア・チャベス氏からは没食子インクによる劣化の状態と対処の方法についてのお話を頂きました。アン・メイヒュー氏からは酸性紙や没食子インクに対する処置に加えて、ゲランガムと呼ばれる材料を使った修復手法のご紹介が有りました。皆様それぞれ実践を踏まえたお話であっただけに説得力が有り聴衆の方々も熱心に耳を傾けていました。当日は予想したよりも多くの129名に上る方々がご参加下さり熱気に満ちた研究会となりました。

ドイツ及びポーランドの近代文化遺産の保存状態に関する現地調査について

露天掘りで石炭を採掘しながら掘り出した跡を埋めて行くための全長500mを超える長大な鉄構造物。(トランスポーターブリッジF60)
ドイツ軍により爆破されたガス室と焼却施設。爆破当時のままの状態で保存されている。(アウシュビッツ/国立オフィシエンチム博物館)

 近代文化遺産研究室は、5月24日(金)から6月4日(火)まで、ドイツ及びポーランドにおいて近代文化遺産に関係する7カ所の世界遺産及び世界遺産候補を含む地域、鉄道や産業遺産の保存・修復に関する現地調査を実施しました。ドイツでは、世界遺産に登録されているベルリンのモダニズム集合住宅群、登録抹消されたドレスデンとエルベ川渓谷、登録を目指すベルリン・エレクトロポリス(重電産業発祥地)やフライブルグ地方の炭坑と景観、また、長さが500mを超える長大なトランスポーターブリッジ「F60」(石炭の露天掘りに使用)、エルベ川を航行する蒸気外輪船や蒸気機関車を運行している保存鉄道等の調査を行いました。それぞれ特徴があり、工夫を凝らした手法を用いて保存活用されていました。ベルリンの集合住宅は、見た目は地味ですが、居住者と管理者が一体となって文化財である建物を守って行こうとしている事がよく分かりました。ポーランドでは世界遺産であるクラクフの旧市街及びアウシュビッツ強制収容所(国立オフィシエンチム博物館)を調査しました。アウシュビッツは、その歴史的特殊性から博物館として保存する事自体も議論の対象となったようですが、現在では多くの人々が訪れています。公開施設の中で、ドイツ軍が撤退時に爆破して逃げたガス室と焼却施設について、現状のまま保存されていますが、煉瓦造モルタル塗りであり保存手法が問題となっています。これは広島の原爆ドームも似たような状況であり、情報共有する事でお互いにとって有益ではないかと感じました。

第26回近代の文化遺産の保存修復に関する研究会「御料車の保存と修復」開催

図面を使っての発表

 「御料車(ごりょうしゃ)」とは、天皇を始めとする皇族方が乗車する専用の鉄道車両や自動車を指します。明治時代に我が国に鉄道が導入されて以来、多数の鉄道車両が御料車として製作され、その第1号は現在国の重要文化財に指定される等、文化財としての価値が認められているものの、一般にはなかなかその詳しい様子を知る事が出来ませんでした。そこで保存修復科学センターでは、11月30日(金)に、東京文化財研究所地階セミナー室において「御料車の保存と修復」と題する研究会を開催しました。
 「動く美術工芸の粋」とも、「明治時代の文化を凝縮した世界」とも言われる御料車は、皇族方の専用車両というその特殊な性格ゆえに、内装その他も製作された時代の先端をいく特別なものです。現在、展示公開されているものとしては、鉄道博物館に6両、博物館明治村に2両がありますが、いずれもガラス越しの鑑賞であり、内部の細かい装飾や造作までは直接見る事が出来ません。今回は、はじめに御料車の技術的な側面から、日本の鉄道の発展との関わりや技術的な特徴の解説があり、次いで御料車を保存展示している両博物館の担当者からそれぞれの御料車内部の特徴有る装飾や造作を紹介して頂くと共に、日々のメンテナンスや展示方法に関する苦労や工夫をお話し頂きました。また、鉄道博物館で展示されている御料車の修理に携わった2人の技術者からは実際に御料車の修復作業を実施したときの話を伺いました。更に、台湾に残されている日本統治時代に製作された御料車に関する話が台湾の専門家によって紹介された事も今回の特筆すべき内容でした。
 御料車に対して、鉄道車両の保存という技術的な捉え方だけではなく、美術史的・工芸史的な文化財としての価値をも意識した保存が必要だという事を気づかされた研究会でした。当日の参加者は53名を数え、最後に発表者との活発な質疑応答も行われました。

第25回近代の文化遺産の保存修復に関する研究会「近代建築に使用されている油性塗料に関して」開催

明治村の修復事例発表
ドイツ技術博物館の化学部門修復者の発表

 保存修復科学センターでは、2月10日(金)に、東京文化財研究所地階セミナー室にて表記研究会を実施しました。近代の建築物には当時油性塗料が使用されており、近年近代建築物の修復を実施する際に、塗装された材料の特定が難しいことやたとえ特定出来たとしても入手が難しかったりという理由から他の素材が塗装されている事が多く有ります。そのような現状を踏まえて、現在文化財として近代建築物にどのような塗装がなされているのか、どのようにして特定しようとしているのかあるいは特定出来るのか、油性塗料が入手困難な理由はなぜなのか、それをどのようにすれば改善出来るのか等について、文化庁、博物館、塗装施工者、化学の研究者等を交えて、劣化してしまった塗膜片から材料を特定する手法やその難しさ、油性塗料の特性である乾きの遅さゆえに塗料として使われなくなって来た歴史等、発表が行われそれに関する質疑応答も活発に交わされました。当日は45名の参加者を迎え、発表者に対する活発な質疑応答も行われ、有意義な研究会となりました。

フランス、スイス及びドイツの近代文化遺産の保存状態に関する現地調査について

大戦中、レジスタンスの破壊工作により脱線したという状態を再現した展示(フランス・ミュールーズ国立鉄道博物館)
修復作業中の観光潜水船(スイス・ルツェルン交通博物館)
整然と並んだ自動車(フランス・ミュールーズ国立自動車博物館)
道路標識を外壁のアクセサリーとしている(スイス・ルツェルン交通博物館)

 保存修復科学センターでは、3月8日(火)から14日(月)まで、フランス及びスイスにおいて鉄道、自動車、及び航空機等の保存、修復に関する現地調査を、またドイツにおいて、溶鉱炉の保存現場の調査を実施しました。フランスにおいては、ミュールーズにて国立鉄道博物館及び国立自動車博物館の調査を実施しました。ともに収蔵している鉄道車両及び自動車の数は相当数に及びその多さは目を見張るものが有ります。鉄道車両に関しては、展示環境も余裕を持った配置になっており、鉄道関連博物館によく見られる狭苦しさが感じられませんでした。各鉄道車両に関しては、屋内に保存されている事もあり、保存状態は良好でした。塗装については、やはり来館者の目を意識してかきれいに塗り直されており、その点は多少残念では有りました。しかしながら展示の仕方にも種々の工夫が見受けられ、リピーターを呼べる施設だと感じました。自動車博物館については、元々個人所蔵の自動車がベースになっているせいか、どれもきれいで自動車好きの人にはたまらない博物館という感じです。もちろん保存状態もかなり良いのですが一点だけ、タイヤの保存状態に関して、かなりの車が直接タイヤで支持している状態が見受けられタイヤの傷みが気になりました。スイスでは、ルツェルン湖のほとりに立地する交通博物館の調査を実施しました。2000平米を超える敷地の中央に子供達が遊べる広場を配し、周りに展示館を廻らせた博物館で、交通に関する事物を収蔵しており、かなり見応えのある博物館です。ただ、全体としては、やや雑多な感じは否めませんが、一カ所でこれだけのものを見る事が出来るのは幸せな事だと思います。展示物に関しては、やはり鉄製のものが多く、来館者が触る部分の防錆に苦労しているようです。最後にドイツにおいて製鉄所を調査しました。ヨーロッパでよく見るスタイルですが、ほとんど操業を終えたそのままの状態なので、ある意味非常に興味深い施設ではあります。唯一手を入れているのは観覧者の安全の為の施設(手すり、エレベーター、歩廊)であり、その他は手つかずの状態で見る事が出来るのは非常に興味深いし、面白いものだと感じます。日本ではやはり、火災等の避難経路等、法律上の制約が多く難しい部分が多々有ります。その辺、保存の仕方や法制度などなお、検討の余地が多いと感じました。

在外日本古美術品保存修復協力事業におけるベルリンの紙の修復に関するワークショップ開催

ベルリン技術博物館内紙の修復工房内部

 保存修復科学センターでは、10月5日(火)から13日(水)にかけて、ベルリンの国立ベルリンアジア美術館の講義室において、在外日本古美術品保存修復協力事業の一環として、紙の修復に関するワークショップを実施しました。今年度実施したワークショップは巻物(掛け軸)について、基礎編(20名)、初級(12名)、中級(7名)と3つのコースに分けて、美術館、博物館の保存担当者,紙関係の修復家を対象に行いました。基礎編では材料としての「紙」「接着剤」、「装こう」についての講義を、初級では掛け軸のモデルを使った構造説明、掛け軸の取り扱い等に加え、実技として絹本の作成を、中級では上、下軸の取り外し、取り付け、紐付け等の実技を実施しました。参加者からは充実したワークショップであったと好評頂きました。

所沢飛行場における、日本航空史の黎明期の写真の公開

日本陸軍 会式一号飛行機(1911年)

 保存修復科学センターでは、2009年1月に所沢の喜多川方暢氏より寄贈を受けた、所沢飛行場における日本の航空の黎明期のファルマン他の飛行機関連の写真を東京文化財研究所のホームページ上にて公開を始めました。これらの写真は喜多川方暢氏の父君である故喜多川秀男氏が主に所沢飛行場にて撮影した写真であり記録メディアはガラス乾板が主な物です。このガラス乾板の保存をすると供に、デジタル化した写真を日本航空100年の記念すべき年に公開を始められたのはひとえに喜多川方暢氏及び関係各位の協力の賜物であると思っています。今回公開した写真の中には、日本で初めて飛んだ航空機を始めとして、愛国号等、数多くの貴重な写真が含まれており、研究者の方々、あるいは、興味をお持ちの方々にとって非常に貴重な資料になる事は間違い有りません。今後とも、保存修復科学センターでは、このような貴重な資料を公開すべく努力していく所存です。

海外工房における平成21年度在外修復事業

唐子図引き取り
修復前の調査

 保存修復科学センターでは、平成21年度の在外修復事業の一環として、今年もベルリンのドイツ技術博物館内のアトリエにて絵画の修復作業を始めました。修復している作品は昨年度から継続している朱衣達磨図(ケルン東洋美術館所蔵)と今年度始まった唐子図(ベルリン国立アジア美術館所蔵)の2点です。修復アトリエの広さの関係から同時に二つの作品の修復作業はできませんが、修復作業者同士うまく連携しながら修復作業を進めました。今年は、ベルリンも若干日本の梅雨のように雨が多く湿度が高い日が多くむしむしした日が多かったようです。今回の修復作業は7月8日でいったん終了となります。なお、達磨図に関しては今回の修復で終了の予定です。

各務原、豊田市での近代文化遺産の保存と修復に関する現地調査

百々貯木場(矢作川左岸)
足助地区の郡界橋

 保存修復科学センターでは、かかみがはら航空宇宙科学博物館において航空機等、屋外保存されている鉄製文化財の保存環境及び劣化の状況を調査しています。今回は、豊田市において、保存されている百々貯木場、ダルマ窯、明治用水旧頭首工と船通し閘門、伊世賀美隧道、旧郡界橋など、石造から土窯、鉄筋コンクリート造まで多彩な近代化遺産について、その保存状況や保存上の問題点など、現地の担当者を交えて議論してきました。豊田市もトヨタ自動車のお膝元というだけでなく、明治の時代から続く養蚕や、矢作川を利用した材木輸送など、幾つかの近代文化遺産を活用すべく頑張っています。私たちも少しでもお役に立つよう頑張っていく所存です。

海上自衛隊鹿屋航空基地での現地調査について

二式大艇
機内の状況

 保存修復科学センターでは、海上自衛隊鹿屋航空基地において航空機等、屋外保存されている鉄製文化財の保存環境及び劣化の状況を調査しています。屋外保存されている鉄製文化財(航空機、鉄道車両、櫓、船舶)は、通常、その大きさゆえに雨露をしのげる屋根もかけることが出来ない為、保存環境としては非常に劣悪な状態となっています。また、屋外展示されている航空機(二式大艇)の機内に関しても、温湿度の計測を継続して実施しております。機内の保存環境は閉所であるがゆえに、屋外よりもさらに過酷な状況になっており、機体内部の鉄以外の材料(電線の樹脂製被覆等)が溶け出して機内を汚損するなど非常に憂慮すべき状態となっています。今後も注意深く状況を把握し、必要と思われる措置をとっていただくよう、働きかけていく所存です。

石見銀山現地調査について

銀山坑道内部

 保存修復科学センターでは、8月11日(火)から13日(日)まで、世界遺産登録された石見銀山について現地調査を実施しました。世界遺産に登録されたことと夏休み中ということもあり、非常に多くの人が訪れており、世界遺産登録の効果を実感しました。石見銀山そのものは、石見銀山資料館にもなっている大森代官所跡から町並み保存地区となっている通りを抜けて、同じく重要文化財の熊谷家住宅や旧河島家住宅などを見学しながら銀山の坑道口へ至り、坑道内見学と続きます。現在さらに馬に乗ったまま入れた大きな坑道などいくつかの坑道について見学可能なように計画中だとか・・・、今後、世界遺産としてより多くの人々に往時をしのばせるものとなっていくことと思います。

平成19年度在外日本古美術品保存修復協力事業における修復作品の展示会について

東京国立博物館平成館特別展示室の展示

 保存修復科学センターでは、5月13日(火)から25日(日)まで、東京国立博物館平成館企画展示室において平成19年度在外日本古美術品保存修復協力事業において修復が終了した、屏風(6曲1双)2組、掛幅3幅及び漆工品2作品を展示しました。また、会場内には、絵画及び漆工品の修復過程を紹介したパネルも展示し修復作業の様子が分かるようにしました。いずれの作品も、所蔵館において展示可能な状態に修復されており、当研究所の国際貢献・協力を皆さんにご理解いただく良い機会となりました。今後もより一層の国際貢献・協力に寄与すべくこの在外日本古美術品保存修復協力事業を推し進めてまいります。

在外日本古美術品保存修復協力事業におけるベルリンの紙の修復工房開設準備

ベルリン技術博物館内紙の修復工房内部

 保存修復科学センターでは、3月24日(月)から26日(水)にかけて、ベルリンにある、ドイツ技術博物館の紙の修復工房内において、在外日本古美術品保存修復協力事業の一環として、平成20年から開始予定の紙の修復作業に関する現地調査を実施しました。ドイツ技術博物館の紙の修復工房では、通常、ポスターや、図面類などの修復作業を実施しており、紙の修復作業に必要な設備や道具類は一通りそろっています。今回はそれらの設備、道具類が機能的に満足するかどうかを調査するとともに足りない設備や道具類を把握する作業を実施しました。今回の調査結果を元にして、設備を整え、ベルリンにおける紙の修復作業が円滑に進められる様に準備を進めています。

第21回近代の文化遺産の保存修復に関する研究会「航空機の保存と活用」

会場の様子

 保存修復科学センター近代文化遺産研究室では、1月25日(金)に当研究所セミナー室において「航空機の保存と活用」を開催しました。当日は、イギリス海軍航空隊博物館の航空部門学芸員兼主任技術者のデイブ・モリス氏、日本航空協会の長島氏、平山郁夫美術館の平山助成館長の3氏をお招きし、ご講演いただきました。
 デイブ・モリス氏からは氏が手掛けられたコルセアの修復について詳細なお話があり、実際に作業された方にしかわからない細かい点まで含めてご紹介いただきました。長島氏からは、航空遺産の保存について所沢航空発祥記念館に展示されている91式戦闘機の保存を例にとりながらお話しいただきました。平山館長からは、館長が以前海上自衛隊鹿屋航空基地修理所に所属されておられた時に、現在の南さつま市において海中より引き上げられた零式3座水上偵察機の保存処理について、当時の資料を使ってお話しいただきました。お三方とも、実践を踏まえてのお話であっただけに、説得力もあり、会場からは、さまざまな質問が出て、予定した時間を大幅にオーバーする程の盛会でした。

江袋教会の焼損調査と修復指導

長崎県新上五島町にある江袋教会 焼損前
長崎県新上五島町にある江袋教会 焼損後
焼損したステンドグラス

 長崎県教育委員会の要請により、新上五島町にあり、昨年2月に焼損した江袋教会の現地調査及び修復方針及び方法に関して指導を実施しました。江袋教会は明治15年(1882年)に建立された、木造瓦葺き平家建てで、長崎県内では最古と思われる木造教会であり、海を見下ろす急傾斜の山腹に建てられていました。屋根は単層構成、変形寄棟作りで構造的にも貴重なものとされていました。それが昨年(2007年)2月に漏電が原因で焼損しました。焼損したものの、立て替えてしまうよりは、使える部材は少しでも救いたいという地元の信者の皆様の願いにより、東京文化財研究所保存修復科学センターでは、現地の調査を実施し、比較的焼損の程度が軽い部材に関して、樹脂含浸を施し、利用できるようにするなどの修復指導を実施しました。

在外日本古美術品保存修復協力事業に関する工芸関係の調査

アシュモリアン博物館にて調査風景

 2007年9月24日から29日にかけて、イギリス(2館、ヴィクトリア&アルバート博物館及びアシュモリアン博物館)及びドイツ(1館、ケルン東洋美術館)において、7月に実施した調査の結果、来年度の修復候補としてノミネートされた作品を中心に日本古美術品の調査を実施しました。ヴィクトリア&アルバート博物館では1作品、アシュモリアン博物館では3作品が来年度の修復候補としてノミネートされており、現状の詳細な調査及び日本へ移送する際に問題となりそうな事項につき博物館側と協議をしました。現状でも塗膜や螺鈿の剥離が顕著で移送の時点でさらに状態が悪化する可能性のあるものなどについて、移送する際に十分な注意を払って梱包していただくようにお願いしました。ケルンでは現地で修復する作品を受取り、派遣した技術者の方々に引き継ぎました。今年度はケルンではケルン東洋美術館所蔵の洋櫃とウイーンからの月琴を修復する予定です。

在外日本古美術品保存修復協力事業 現地調査

アシュモリアン美術館での調査風景

 在外日本古美術品保存修復協力事業では、海外の美術館、博物館で所蔵されている日本の美術作品を日本へ一旦持ち帰り、修復して所蔵館にお返しします。修復することにより、展示や活用の機会が増えて日本文化への理解が深まるとともに、日本の文化財修復の手法や姿勢を知っていただくことも目的としています。
 本年7月3日から14日まで絵画の修理候補作品を選出するために、イタリア(2館、ローマ東洋美術館及びキヨソネ東洋美術館)、イギリス(2館、ヴィクトリア&アルバート美術館及びアシュモリアン美術館)に赴き、美術史学、修復技術・材料といった観点から調査を行いました。
 一方、工芸作品に関しては、7月10日から24日にかけて、東京国立博物館の竹内主任研究員と猪熊研究員とともに、イギリス(2館、ヴィクトリア&アルバート美術館及びアシュモリアン美術館)及びチェコ(1館及び3城、ムラビア国立美術館及びヴェルケ・メディチ城、フラノフ城、レドニッチ城)において、調査を実施しました。今回の調査で、日本で修復するもの数点とケルンで修復可能なもの数点がリストアップされ、来年以降の修復作業を実施して、再度展示可能な状態になります。

2007年能登半島地震における被災文化財調査

能登半島地震で被災した門前町の角海家住宅と土蔵(石川県指定有形文化財)

 2007年3月25日午前9時42分、能登半島にてM6.9、最大震度6強の地震(平成19年(2007年)能登半島地震)が発生しました。その結果、震源近くでは家屋の全半壊、ライフラインの寸断など大規模な被害をもたらしました。文化財も例外ではなく、石川県内で21件の文化財被害が報告されています(石川県教育委員会調べ、2007年4月4日)。  今回、保存修復科学センターでは、能登半島地震における文化財被害について、被害状況や被害要因を早急に把握し、応急措置や将来の修復計画に関する助言を行うことを目的に現地調査を行いました。調査期間は2007年4月16日(月)から18日(水)まで、輪島市内の文化財展示施設、文化財建造物を対象に行いました。
 ある文化財展示施設については、漆芸品パネルの吊り展示を行っていましたが、吊り金具の破損による落下被害状況を目の当たりにしました。また、震源地近くに位置する門前町黒島地区では、母屋や土蔵がほぼ全壊という状況のなか、資料館の収蔵庫が焼失するという二次被害の現場を実見することとなりました。
 阪神・淡路大震災以後、文化財の防災について様々な調査研究、政策が採られましたが、今回の調査地のように、その情報が全国に行き渡っていない現状があります。東京文化財研究所では今後、文化財の防災に関する研究を推し進めてゆくとともに、積極的な情報公開により、文化財防災についてより多くの方に知って頂くよう努力してゆく所存です。

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