研究所の業務の一部をご紹介します。各年度の活動を網羅的に記載する『年報』や、研究所の組織や年次計画にもとづいた研究活動を視覚的にわかりやすくお知らせする『概要』、そしてさまざまな研究活動と関連するニュースの中から、速報性と公共性の高い情報を記事にしてお知らせする『TOBUNKEN NEWS (東文研ニュース)』と合わせてご覧いだければ幸いです。なおタイトルの下線は、それぞれの部のイメージカラーを表しています。

東京文化財研究所 保存科学研究センター
文化財情報資料部 文化遺産国際協力センター
無形文化遺産部


結城紬の調査―韓国国立文化財研究所との第二次研究交流―

思川桜工房

 無形文化遺産部が行っている韓国文化財研究所との「無形文化遺産の保護及び伝承に関する日韓研究交流」も2年目に入りました。4月には韓国文化財研究所から黃慶順研究員が来日し、茨城県と栃木県で結城紬について調査を行いました。結城紬は2010年ユネスコ「人類の無形文化遺産の代表的な一覧表(代表一覧表)」に記載以降、文化面だけでなく産業、観光等の側面からも保護事業が行われています。今回の調査では技術者や行政担当者などに聞取調査を行い、結城紬の伝承基盤について考察を深めました。2週間に及ぶ研究交流の成果報告会では韓国と日本の無形文化遺産に対する政策や考え方の相違点についても改めて認識を深めることができました。

国際研究集会「染織技術の伝統と継承―研究と保存修復の現状―」の開催

会場の様子

 第35回文化財の保存および修復に関する国際研究集会「染織技術の伝統と継承―研究と保存修復の現状―」を東京国立博物館平成館において、9月3日から5日の3日間開催しました。このシンポジウムでは、国内外から染織品制作の技術者、染織品修復技術者、学芸員、研究者など様々な立場の各専門家を招き、有形である染織品を「つくる」「まもる」「つたえる」といった無形の側面よりアプローチすることで、今後の「染織技術」研究の道筋を示すことを目的としました。そして、主催者としては、今日における染織品の制作や修復の際に直面する原材料・道具の問題、技術を次世代へと伝えていくための後継者養成をめぐるシステム、多角的な染織技術研究のあり方などについて、この機会に情報の共有化を図り、議論を深めることも意図しました。
 冒頭に行われた2本の基調講演では染織技術が時代により変化して然るべきものであることや、それぞれに時代により失われた技術が多くあるという染織技術に関する根本のテーマについて参加者との共有を図ることができました。これに続いて、「染織技術をまもる」「染織品保存修復の現状」「染織技術へのまなざし」「染織技術をつたえる」の計4セッションを設け、最後に総合討議が行われました。各セッションでは、技術者の立場からの染織技術継承に向けての提言や、修復技術に関する国外・国内の歴史や現状、染織技術研究に向けての国内外の染織品や関連資料の検討方法や、後継者育成についてなどいずれも興味深い報告が続きました。討議の中では、変化しながら受け継がれてきた染織技術を、現在どのように保護していくことができるかという問題や染織品修復技術の技術者側の抱える問題、そして、国内外の近代染織品収蔵の考え方の相違など、さらに議論が必要である項目が取り上げられました。このような多様な論点に対して具体的な解決策を議論する時間が不足したことなどの反省点もありますが、参加者からは、現在、染織技術保護が抱えている課題を共有する機会として、また、新たなネットワーク構築に向けて大いに有益であったとの好意的評価をいただくことができました。
 本研究集会の詳細な記録は、来年度、報告書として刊行する予定です。

久留米絣の工芸技術調査

二代目 森山虎雄(もりやまとらお)氏の工房にて

 6月27~28日にかけて重要無形文化財保持団体「重要無形文化財久留米絣技術保持者会」のメンバーを中心に工芸技術調査を行いました。絣とは装飾的な意図を持って糸の一部を染め分け、これを経(たて)、緯(よこ)に織り上げて模様を表現したものです。写真は緯糸を経糸の模様に合わせながら織っているところです。久留米絣は大麻の樹皮である「粗苧(あらそう)」を用いて糸に防染を行います。粗苧製造も国の選定保存技術として保護されている技術です。今後も、現地に足を運びながら各技術とその保護について調査を行っていきます。

日立市十王「ウミウの捕獲技術」の調査

断崖に作られた小屋で、飛来する若いウミウを捕獲する
捕獲に適した若い鵜(右)

 6月7日~8日、茨城県日立市十王町にて「ウミウの捕獲技術」(日立市の無形民俗文化財)の調査を行ないました。鵜飼は現在でも関東から西日本の十数ヶ所で行なわれていますが、その際に用いるウミウはそのほとんどがこの十王町で捕獲されます。調査では、鵜捕りの技術や伝承の状況についてお話を伺ったほか、断崖絶壁にある鵜の捕獲場なども見せていただきました。この捕獲場は、3月の大地震により崩落の被害を受けましたが、伝承者自身の手によって修復され、4月下旬から5月中旬にかけて行なわれる春の鵜捕りでは、11羽が全国各地に送られました。秋の鵜捕りシーズンにはもう一度現地を訪ね、技術の実地調査を行なう予定です。

女子美アートミュージアムにおける調査

女子美アートミュージアムにおける調査風景

 服飾文化共同研究拠点における共同研究の一環で、平成22年7月12日に女子美アートミュージアムにおいて染織品調査を行いました。この共同研究は平成20年11月より開始され、文化服飾博物館に所蔵される三井家伝来小袖服飾類とそれに付随する円山派衣装下絵との関係を服飾文化史的視点から明らかにすることを目的としています。今回の調査は、女子美アートミュージアムに所蔵されている旧鐘紡株式会社所蔵の小袖の中から本研究テーマである三井家伝来小袖と類似するものを中心として、技法・意匠構成、仕立てを含めた詳細な調査を行いました。これらの調査で得られた知見は来年度の報告書刊行に向けて更なる精査を進めていきます。

第23回国際服飾学術会議への参加

第23回国際服飾学術会議の様子

 8月20・21日、飛騨・世界生活文化センター(高山市)において、第23回国際服飾学術会議が開催されました。日本をはじめ、韓国、台湾、モンゴルの研究者、染織家、デザイナーら約200人が参加し、意見交換を行ないました。無形文化遺産部からは菊池が参加し、研究発表を行いました。
 今回の学術会議では、「服飾文化の東西交流」を共通テーマとして、講演、研究発表、ポスターセッション、創作衣装展などが行われました。
 各国からの参加者は染織技術についての研究に触れ、国による技術保存の考え方の違いや、復元という試みに対しての認識を深めていました。
 また、この出張に際して、美濃和紙の里会館(美濃市)と春慶会館(高山市)を視察し、伝統工芸技術に関する情報収集を行いました。無形文化遺産部においては、工芸技術に関する情報収集がはじまったばかりです。今後も、地域や対象を拡大させつつ、積極的に情報収集を行なってまいります。

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