研究所の業務の一部をご紹介します。各年度の活動を網羅的に記載する『年報』や、研究所の組織や年次計画にもとづいた研究活動を視覚的にわかりやすくお知らせする『概要』、そしてさまざまな研究活動と関連するニュースの中から、速報性と公共性の高い情報を記事にしてお知らせする『TOBUNKEN NEWS (東文研ニュース)』と合わせてご覧いだければ幸いです。なおタイトルの下線は、それぞれの部のイメージカラーを表しています。

東京文化財研究所 保存科学研究センター
文化財情報資料部 文化遺産国際協力センター
無形文化遺産部


文化遺産国際協力コンソーシアム第13回研究会「文化遺産保護の新たな担い手―多様化するニーズへの挑戦」の開催

パネルディスカッション風景

 2013年9月5日(木)に、東京文化財研究所セミナー室にて標記研究会を開催しました。文化遺産保護の分野で民間団体の活動を目にすることは増えてはいるものの、その活動の理念や達成すべき目標について話を聞き議論する機会は多くありません。こうした状況を受け、文化遺産国際協力コンソーシアムにおいても、学術分野の活動の把握に留まらず、より多様な民間分野との連携を検討する場が不可欠だと考え、この度研究会を開催しました。
 まず、公益社団法人企業メセナ協議会事務局長の荻原康子氏より「企業による芸術文化支援、その多様な広がりと現状」として、法人メンバーを中心としたメセナ活動を振り返りつつ、現状を分析し、最近の変化と今後のメセナ活動の発展の可能性についてご発表いただきました。
 続いては、メリルリンチ日本証券株式会社CSR推進責任者の平尾佳淑氏より「バンクオブアメリカ・メリルリンチの文化財保護プロジェクト」として、具体例に東京国立博物館と協力して行っている文化財保護プロジェクトを挙げながら、企業の行うCSR(企業の社会的責任)活動の意義と目的、またそこで達成すべきパートナーシップの構築による事業の波及効果についてご報告いただきました。
 次の講演では、公益財団法人住友財団常務理事の蓑康久氏より「公益財団法人住友財団の文化財維持・修復事業助成について」として、財団の設立経緯背景とその特徴、及び過去20年に亘って文化遺産保護への助成をなさって行ってきたご経験についてお話しいただきました。
 パネルディスカッションでは、司会にジャーナリストの嶌信彦氏をお迎えし、すべての講演者に加えて、公益財団法人文化財保護・芸術研究助成財団専務理事の小宮浩氏にご登壇いただきました。事業の継続性の困難さと重要性、経済状況と支援の在り方、事業関係者同士のパートナーシップの構築、事業運営に必要なリーダーシップ等、多岐に亘る内容について議論いただき、今後の文化遺産保護の担い手を考える機会となりました。

文化遺産国際協力コンソーシアム平成24年度総会および第12回研究会「文化遺産保護の国際動向」の開催

基調講演発表風景

 2012年3月15日(金)に標記総会および研究会を開催しました。総会では、例年通り、コンソーシアムの平成24年度事業報告と次年度事業計画を事務局長より報告しました。続いて行った研究会では、シンガポール文化・社会・青年省記念物保護部長ジーン・ウィー氏による「ASEAN諸国の文化遺産保護のための国際協力」と題する基調講演ののち、文化遺産保護に関する最新の国際動向について、昨年の主だった国際会議を中心に、4名の方からご報告いただきました。
 企画情報部室長の二神葉子には、世界遺産条約に関して、登録をめぐる審議の傾向や、昨年話題となったパレスチナの世界遺産の登録を中心にお話しいただきました。続いて外務省特命全権大使(文化交流担当)西林万寿夫氏から、昨年京都で開催された世界遺産条約採択40周年最終会合報告とその成果である「京都ビジョン」についてご報告頂きました。また、文化庁文化財部記念物課世界文化遺産室文化財調査官の西和彦氏より、最終会合に関連して富山、姫路で開かれた会合の概略と提言についてご報告頂きました。最後に、無形文化遺産部長の宮田繁幸より、ユネスコ無形文化遺産保護条に関して、記載をめぐる審議の傾向と、問題視されていた記載の地域間格差に関する是正の方向、会議の運営に関するご発表がありました。
 文化遺産保護の国際動向は研究会で例年取り上げているテーマですが、毎回50名を越える参加者があり、最新動向に関する情報が強く求められていることを感じます。コンソーシアムでは今後も、研究会等を通じた情報共有に取り組んでいきたいと思います。

フィリピンにおける文化遺産国際協力コンソーシアム協力相手国調査

フィリピン国立文化芸術委員会とのインタビュー
世界文化遺産サン・オウガスチン教会内部
ルソン島北部カラオ洞穴

 文化遺産国際協力コンソーシアムでは2月14日から25日まで、フィリピンを対象とする協力相手国調査を行いました。同国における文化遺産保護の現況と今後の国際協力の展開を探るため、現地を訪問し、フィリピン側の協力要望事項等を明らかにすることが調査の主な目的です。代表的文化遺産であるスペイン植民地期の教会や民家、先史時代の貝塚や岩絵などの遺跡、各地の博物館や図書館などを訪れ、担当者との面談も含めて、情報収集や意見交換を行いました。
 その結果、人々の認識の向上により、保護が進む歴史的建造物や考古遺跡が多いことがわかりました。一方で、 文化遺産保護に対する教育部門が立ち遅れており、人材育成が急務であることが明らかになりました。また、保護の枠組みとしては、地方行政との連携が文化遺産の保護の鍵となっており、執行は地方の政治状況に依存していることも明らかになりました。
 現地からは、文化遺産への認識の向上とアジア地域間の連携を視野にいれた、学術協力及び人材育成分野への貢献を期待する声が上がりました。日本がアジア諸国において蓄積してきた協力実績を活かし、他アジア諸国との連携を視野に入れつつ支援を行うことが、フィリピンの文化遺産保護を検討する上で不可欠と感じました。 
 2013年は日本・ASEAN交流40周年であり、日本がASEAN地域においてより一層の協力が求められることが予想されます。今後の日本からの文化遺産分野における協力の在り方を探るため、今後情報収集を続け、関係諸機関と協議しながら、どのような支援ができるのか検討していく予定です。

第1回ASEAN+3文化協力ネットワーク会合

会議集合写真
会議の様子

 フィリピンのボホール島で2012年7月20日から23日に開催された第1回ASEAN+3文化協力ネットワーク会合(Meeting of the ASEAN Plus Three Cultural Cooperation Network, 通称APTCCN)に、文化庁からの依頼により参加しました。ASEAN諸国及び中韓の文化行政担当官公庁と各国の文化遺産保護及び文化事業全般について情報交換と、ASEAN諸国の文化遺産保護支援のため資するための情報収集を行いました。昨年までは、東アジア文化遺産ネットワーク(Networking of East Asia Culture Heritage, 通称NEACH)と呼ばれていましたが、今後の五カ年計画に、1.無形、有形分野での専門家のネットワーク構築を通じての文化分野での地域間協力の強化、2.ASEAN+日中韓における固有のアイデンティティの発展、3.文化遺産マネジメント、文化分野における人材育成、中小規模の文化企業の発展における共通認識の必要、といったより広い課題が含まれたことにより、会議名称の変更がありました。
 2013年は、ASEAN日本交流40周年記念にあたります。ASEAN諸国と日本の関係性を深めるうえでも、この会合の重要性は今後、より増加していくと考えられます。

文化遺産国際協力コンソーシアム平成23年度総会および第10回研究会「文化遺産保護の国際動向」の開催

 2011年3月16日(金)に標記総会および研究会を開催しました。総会では、例年通り、コンソーシアムの平成23年度事業報告と次年度事業計画を事務局長より報告しました。続いて行った研究会では、世界銀行のマーク・ウッドワード氏による「世界銀行の文化遺産へのアプローチ~保護から地域経済発展における遺産価値と歴史都市の包括へ~」と題する基調講演ののち、文化遺産保護に関する最新の国際動向について、昨年の主だった国際会議を中心に、3名の方からご報告いただきました。
 二神葉子東文研室長には、40周年を迎えた世界遺産条約に関して、登録をめぐる審議の傾向や、昨今の国境紛争問題を中心にお話しいただきました。続いて、南新平文化庁室長から、無形文化遺産の登録プロセスや基準とともに、昨年設立されたアジア太平洋無形文化遺産研究センターについてご報告いただきました。最後に、前田耕作東文研客員研究員より、東西大仏の爆破から10年を迎えたバーミヤーン遺跡の保存に関する専門家会議を例に、最近の平和構築と文化遺産保護活動に関するご発表がありました。
 文化遺産保護の国際動向は研究会で例年取り上げているテーマですが、毎回50名を越える参加者があり、最新動向に関する情報が強く求められていることを感じます。コンソーシアムでは今後も、研究会等を通じた情報共有に取り組んでいきたいと思います。

ミャンマーにおける文化遺産国際協力コンソーシアム協力相手国調査

ミャンマー文化省とのインタビュー
バガン遺跡

 文化遺産国際協力コンソーシアムでは2月22日から28日まで、ミャンマーを対象とする協力相手国調査を行いました。同国における文化遺産保護の現況と今後の国際協力の展開を探るため、現地を訪問し、ミャンマー側の協力要望事項等を明らかにすることが調査の主な目的です。代表的文化遺産であるバガン遺跡群やマンダレーの木造建造物、各地の博物館や図書館などを訪れ、担当者との面談も含めて、情報収集や意見交換を行いました。
 その結果、ミャンマーの文化遺産は全般に劣化が進んでおり、保護の体制も不十分で、危機的な状況にあることがわかりました。また、バガンでは観光客が昨年来急激に増加しており、現状の観光インフラでは既に受け入れが限界に達しつつあることも明らかになりました。遺跡保存とともに、市街地環境や所得格差の問題なども視野に入れた持続的開発のあり方が課題となります。他方、博物館に関しても、保存施設や研究機能の不備が深刻なことがわかりました。
 昨今のミャンマーをめぐる情勢変化に伴い、文化遺産保護分野のみならず、あらゆる分野で日本及び海外諸国からの支援の増大が見込まれ、今後はこうした支援事業間の調整も必要になると考えられます。文化遺産分野における今後の日本からの協力のあり方について、広く関係諸機関と協議しながら、検討していく予定です。

バハレーンにおける文化遺産国際協力コンソーシアム協力相手国調査

バハレーン文化省とのインタビュー
バハレーン砦と付属博物館
古墳群

 文化遺産国際協力コンソーシアムでは12月16日から23日まで、バハレーンの文化遺産を対象として協力相手国調査を行いました。バハレーンに対する文化遺産国際協力の現況と今後の展開を探るため、現地を訪問し、バハレーン側が求める具体的協力要請項目について検討することが調査の主な目的です。現地では、紀元前2200年頃から作られた古墳群等を中心とする考古遺跡、世界遺産バハレーン砦、バハレーン国立博物館、ムラハク歴史保存地区を訪れ、担当者と面談を行うとともに、情報収集や意見交換を行いました。
 その結果、考古遺跡に関しては発掘後の整備や世界遺産登録後の保護管理のための共同研究、保存科学分野における長期的な技術協力、建造物の保護と修復のための人材育成等が必要であると感じました。今後の日本からの協力の在り方を探るため、関係諸機関と協議しながら、どのような支援ができるのか検討していく予定です。

文化遺産国際協力コンソーシアム シンポジウム「文化遺産を危機から救え~緊急保存の現場から~」

会場風景
パネルディスカッション風景
近藤長官講演

 2011年10月16日に、一般の方々を対象に、自然災害により被害を受けた文化遺産の緊急保存に関するシンポジウム「文化遺産を危機から救え~緊急保存の現場から~」を東京国立博物館平成館大講堂にて開催しました。
 基調講演には、近藤誠一文化庁長官をお招きし、東日本大震災による文化財の被害状況と文化財レスキュー事業を中心にお話しいただきました。続いて、大和智文化庁文化財鑑査官、日高真吾国立民族学博物館准教授、宮崎恒二東京外国語大学理事、フランスのNGO である「国境なき文化遺産」のアンリ・シモン代表より、それぞれご報告頂いた後、「文化遺産への緊急対応の課題」と題したパネルディスカッションを行いました。
 講演内容は、阪神・淡路大地震および今年の東日本大震災によって被害を受けた建造物、民俗文化財、文字文化財等の復旧事業から、海外の文化遺産への支援まで多岐に及びました。緊急的な文化遺産復旧に関する議論を通じて、日本の被災文化財保護の経験を活かし、今後とも被災文化遺産保護のための国際的取り組みに協力していくべきであることが確認されました。

文化遺産国際協力コンソーシアム平成22年度総会および講演会「欧州における遺産:非政府的視点から」の開催

講演会の模様

 2011年3月11日(金)に標記総会および講演会を開催しました。総会では、コンソーシアムの平成22年度事業報告と、次年度事業計画が報告されました。これに続いて開催した講演会では、欧州の文化遺産保護のために活動するNGOであるヨーロッパ・ノストラの副会長ジョン・セル氏にご講演いただきました。はじめに、多言語や複雑な政治体制などヨーロッパの多様な文化が育まれた背景と、今日の文化遺産保護に係る条約や政策についての説明がありました。続いて、震災を受けたイタリアのラクイラなどにおける危機遺産保全キャンペーンや、優れた保存活動等を顕彰するヨーロッパ・ノストラ・アワードなど、ヨーロッパ・ノストラの活動についてご紹介いただきました。長年に亘って、文化遺産保護に関する連携・協力を推進してきたヨーロッパ・ノストラの経験は、文化遺産国際協力コンソーシアムの今後の活動の在り方を考える上でも大いに参考となりました。

被災文化遺産復旧に係る支援国調査

ワールド・モニュメント・ファンド(米国)でのインタビュー
オランダ文化庁でのインタビュー
ブルーシールドフランス国内委員会でのインタビュー

 近年、自然災害で被災した文化遺産に関する協力要請や緊急支援が増加しており、被災文化遺産復旧に向けた国際協力の効果的実施がますます重要になってきています。このため、文化遺産国際協力コンソーシアムでは目下、緊急対応のあり方や関係諸機関の連携体制などについて、支援国を対象とした調査を行っています。これまでに、米国(8月17日~26日)およびオランダ・フランス(9月26日~10月8日)において、文化遺産国際協力に携わる行政組織、民間団体、国際機関を中心に計27機関へのインタビューを行いました。
 米国では、ハイチ地震の際に、以前から国内で機能してきた被災文化遺産への人材派遣制度や情報連携ネットワークを活用して柔軟に対応したこと等が明らかになりました。また、オランダでは、各機関の役割分担が明確で、支援の内容は被災直後の小規模資金援助に特化していること等がわかりました。一方、フランスでは、外務省を中心とした従来の国際協力体制網をさらに強化するため、NGOの協力のもと、緊急支援専門家(urgentiste)の養成にも力を入れていること等が分かりました。
 次々に起こる災害に対する対応力の向上などはわが国にも共通する課題で、一連の調査を通じて、今後の日本の国際協力体制を考える上で有益な情報を得ることができました。

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