滋賀県における曳山金工品修理技術の調査

修理のために取り外された曳山の金具(車軸軸先金具)
作業を行う辻清氏

 無形文化遺産部ではこれまで文化財の保存技術に関する調査研究を行ってきました。有形・無形の文化財を後世に伝えていくためには、文化財そのものだけではなく、文化財を保存修復する技術、それに用いられる材料や道具の製作技術なども保存・継承されてゆく必要があります。こうした技術を我が国の文化財保護法では「文化財の保存技術」と呼び、そのうち特に保存の措置を講ずる必要があるものを「選定保存技術」として選定し、保存・保護の取り組みが行われています。しかし国によって保護の対象となる技術は、全体の中ではわずかな割合に過ぎません。国に選定されていない技術についても目を配り、調査研究の対象にすることも、本研究所の重要な役割と考えています。
 平成30(2018)年度は滋賀県教育委員会と共同で、滋賀県選定保存技術「曳山金工品修理」の保持者である辻清氏の調査を行っています。氏は、国の重要無形民俗文化財に指定され、ユネスコ無形文化遺産「山・鉾・屋台行事」の構成要素でもある「長浜曳山祭」で用いられる曳山の錺金具などの金工品を修理する技術の保持者で、これまで数多くの曳山の修理に携わってきました。現在は、滋賀県日野町で行われる「日野曳山祭」(県指定無形民俗文化財)で用いられる金英町曳山(芳菊車)の金工品の修理に携わっており、私たちはその作業の様子を調査し、映像で記録させていただいています。
 いうまでもなく、曳山祭を実施するためには曳山の存在が必要不可欠です。そのため、曳山祭という無形の文化財を保存・継承していくためには、曳山を修理する技術も保存・継承していかなければなりません。しかしそうした技術の後継者が不足していることも事実です。私たちの調査研究は、こうした技術を記録保存という形で後世に残していくこともひとつの目的ではありますが、普段あまり注目されることの少ないこうした文化財の保存技術に光を当て、その重要性を指摘することも目的のひとつと考えています。

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