黒田記念館での特集陳列「写された黒田清輝Ⅱ」

 誰もが容易にカメラを手にし、撮影をして画像を得ることができるようになったのは、ごく近年のことです。ピントや露出の調整、現像などがすべて人の手によって行われていた頃には、写真は大変貴重なものでした。そうした写真資料は、撮影の背景を含めてその時代を考察するための手がかりとなります。
 平成18年度および19年度に、黒田清輝夫人照子のご遺族にあたられる金子光雄氏より、同氏が保管してこられた黒田清輝関係の写真や遺品などが東京文化財研究所に寄贈されました。当研究所企画情報部では、これらの資料の来歴や関連する事項などについて調査と整理を進め、昨年度、黒田記念館において「写された黒田清輝」展を開催いたしました。帝室技芸員であった小川一真の撮影による大礼服の黒田清輝の大判のポートレートなど、公的な場での黒田像が浮かび上がる企画となりました。
 第二回目となる今年度は「家族の肖像」と「画家のアトリエ」をテーマに、黒田記念館で3月19日(木)から7月9日(木)まで「写された黒田清輝Ⅱ」を開催いたします。≪湖畔≫が、後に黒田夫人となる女性をモデルに描かれたように、黒田の作品には家族をモデルとするものが数多くあります。実父、養父、養母の肖像のほか、≪もるる日影≫は姪の君子を、≪少女雪子・十一歳≫も同じく姪を、≪婦人肖像≫(木炭・紙、1898年)、≪婦人肖像≫(油彩・カンヴァス、1911-12年)は照子夫人をモデルとしています。これらの人々の写真と黒田による絵とを比較してみると、≪湖畔≫がその題名の示すとおり、肖似性が主要な目的とされる肖像画として描かれてはいないことなどがわかり、絵画と写真における再現性と虚構性の問題などを考える契機となります。
 アトリエでの画家や、制作中の様子を伝える写真には、作品の生み出される場が写し出されています。アトリエにかかる作品から画家の関心のありどころを、モデルとの写真から画家とモデルの関係を推測することもできるでしょう。
 写真資料の原本は展示による劣化が懸念されるため、オリジナルの風合いを保ちつつ、原寸大に再現した画像を公開します。これは、写真資料の保存・公開という目的のために進められたデジタル画像形成技術の開発研究の成果の一部でもあります。 これからも資料そのものの保存を考慮しつつ黒田清輝についての調査を進め、その成果を黒田記念館で展示・公開していく予定です。

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