第23回倫雅美術奨励賞受賞者決定

2011年11月

優れた美術評論や美術史の研究を顕彰する倫雅美術奨励賞(主催:公益信託倫雅美術奨励基金)の第23回目の受賞者が発表され、美術史研究部門は『銅像受難の近代』(吉川弘文館)の著者である平瀬礼太(姫路市立美術館学芸員)が、美術評論部門は「菊畑茂久馬回顧展」の企画と図録論文が評価された山口洋三(福岡市美術館学芸員)と野中明(長崎県美術館学芸員)が受賞した。

「ぬぐ絵画―日本のヌード 1880-1945」展開催

2011年11月

西洋の裸体画を受容して日本人がどのように人の裸体を描いてきたかを跡づける「ぬぐ絵画―日本のヌード 1880-1945」展が東京国立近代美術館で15日から1月15日まで開かれた。第Ⅰ章「はだかを作る」で西洋美術をもとに日本人の理想的身体像をつくった明治中期から後期までを、第Ⅱ章「はだかを壊す」で身体像がデフォルメあるいは切断されていく大正期を、第Ⅲ章「もう一度、はだかを作る」では再び構成された身体像が描かれた1920年代から40年代までを対象とし、油彩画を中心に98点の作品が展観された。裸体画論争など社会との摩擦を起こしつつ「ヌード」というジャンルを獲得するに至った過程を、身体像の造形のみならず、裸体の居る場所や立像・臥像の別といった視点も含む独創的な切り口で追う展観となった。

生誕100年ジャクソン・ポロック展開催

2011年11月

大画面に塗料を撒き散らし、アメリカ人として初めて国際的評価を得た作家として知られるジャクソン・ポロックの画業の全容を示す「生誕100年 ジャクソン・ポロック展」が11日から愛知県美術館で開催された(2012年1月22日まで)。「1930-1941年 初期 自己を探し求めて」、「1942-1946年 形成期 モダンアートへの参入」「1947-1950年 成熟期 革新の時」「1951-1956年 後期・晩年 苦悩の中で」の4章構成で、独自の画風に至る過程とその後の展開への試行が跡づけられた。日本所在のポロック作品の全てにニューヨーク近代美術館など海外機関所蔵の主要作を加えた約70点が展示され、日本で初めて本格的な紹介が行われる機会となった。同展は東京国立近代美術館に巡回した(2012年2月10日~5月6日)。

「法然と親鸞 ゆかりの名宝」展開催

2011年10月

浄土宗の宗祖法然800回忌と浄土真宗の宗祖親鸞の750回忌を記念して関係寺院から優品を集めた「法然と親鸞 ゆかりの名宝」展が25日から12月4日まで東京国立博物館で開催された。国宝、重要文化財約100点を含む約190点の作品と資料が第一章「人と思想」、第二章「伝記絵にみる生涯」、第三章「法然と親鸞をめぐる人々」、第四章「信仰のひろがり」の構成で展観され、ふたりの宗祖ゆかりの名宝が一堂に会する初めての機会となった。

文化勲章受章者、文化功労者決定

2011年10月

政府は25日、2011年度の文化勲章受章者5名と文化功労者15名を決定した。美術関係では、陶芸家の大樋年朗が文化勲章受章者に、陶芸家の今井政之、彫刻家の橋本堅太郎、書家の日比野光鳳が文化功労者に選ばれた。

「ゴヤ―光と影」展開催

2011年10月

「着衣のマハ」をはじめとする油彩画、版画、書簡等計72点のプラド美術館からの出品を含む123点の作品資料によって、スペインを代表する画家、ゴヤの画業を展観する「ゴヤ―光と影」展が22日から国立西洋美術館で開催された(2012年1月29日まで)。Ⅰ「かくある私―ゴヤの自画像」、Ⅱ「創意と実践」、Ⅲ「嘘と無節操」、Ⅳ「戯画、夢、気まぐれ」、Ⅴ「ロバの衆:愚鈍な者たち」、Ⅵ「魔物の群れ」、Ⅶ「国王夫妻以下、僕を知らない人はいない」、Ⅷ「悲惨な成り行き」、Ⅸ「不運なる祭典」、Ⅹ「悪夢」、ⅩⅠ「信心と断罪」、ⅩⅡ「闇の中の正気」、ⅩⅢ「奇怪な寓話」、ⅩⅣ「逸楽と暴力」の14章によって、18世紀後半から19世紀初頭という変化の激しい時代にあって社会と自らの内面に深い眼差しを向けた画家のしごとが跡づけられた。

重要文化財(建造物)指定の答申

2011年10月

文化審議会(会長:西原鈴子)は21日、旧海軍が太平洋戦争で通信施設として使用した旧佐世保無線電信所(針尾送信所)施設(長崎県佐世保市)など建造物6件を重要文化財に指定し、石川県加賀市の加賀東谷地区など2地区を重要伝統的建造物群保存地区に選定するよう、中川正春文部科学相に答申した。いっぽう1994年に重要文化財に指定した「蘆花浅水荘」(大津市)の敷地のうち、住宅が建設された部分の指定の解除も答申した。

第23回国華賞受賞者決定

2011年10月

日本・東洋美術に関する優れた研究を対象とする第23回国華賞は、宮崎隆旨『奈良甲冑師の研究』(吉川弘文館)、勝盛典子『近世異国趣味美術の史的研究』(臨川書店)に、国華賞(展覧会図録賞)は、山川曉『高僧と袈裟』展図録(京都国立博物館)に贈られることが決定した。

東大寺ミュージアム開館

2011年10月

東大寺(奈良市)の宝物を総合展示する初の施設として東大寺ミュージアム(館長:梶谷亮治)が、10日開館した。同寺境内に前年竣工した東大寺総合文化センター内の施設で、免震装置を備えた5つの展示室で構成。開館記念特別展として、「奈良時代の東大寺」が2013年1月14日まで開催、同寺の法華堂須弥壇解体修理に伴い、その本尊である不空羂索観音立像(国宝)が安置された。

「東日本大震災復興チャリティーオークション 今日の美術展」開催

2011年10月

東日本大震災により被災した美術品の救済と被災地域の美術館の活動維持を支援するため、現存作家396名、物故作家3名による399点の作品を展示、販売する「東日本大震災復興チャリティーオークション 今日の美術展」が全国美術館会議、全国美術商連合会、文化庁の主催により5日から9日まで東京都港区の東京美術倶楽部で開催された。来場者は3360名であった。得られた義捐金約1億2700万円は被災美術品と被災館の復興等に当てられた。

「草原の王朝 契丹―美しき3人のプリンセス」展開催

2011年09月

10世紀初頭から200年間ほど現在の内モンゴルを統治した契丹(遼)の文化を紹介する「草原の王朝 契丹―美しき3人のプリンセス」展が27日から11月27日まで九州国立博物館で開催された。3人の皇族女性にまつわる装飾品や器物、約130点が第1章「馬上の芸術」、第2章「大唐の遺風」、第3章「草原都市」、第4章「蒼天の仏国土」の構成で展示され、契丹統一とほぼ同時に滅亡した唐の文化と草原の遊牧民の文化との融合のありさまが浮かび上がった。東アジア諸地域の造形の比較検討に資する意義深い企画となった。同展は静岡県立美術館(12月17日~12年3月4日)、大阪市立美術館(4月10日~6月10日)、東京藝術大学大学美術館(7月12日~9月17日)に巡回した。

熊野那智大社、台風12号による被害

2011年09月

3日から4日にかけて日本に上陸した台風12号の影響で、和歌山県の熊野那智大社は裏手の山から崩れた土砂に社殿(重文)の一部が埋もれ、屋根の一部が破損するなどの被害があった。また奈良県の金峯山寺蔵王堂(国宝)でも檜皮屋根の一部がめくれ上がる被害があった。

「神仏います近江 瀬田 信楽 大津」展開催

2011年09月

滋賀県の仏教と神道にまつわる造形物を3館でほぼ同時に展観する「神仏います近江」展が開催された。信楽会場(MIHO MUSEUM)では「天台仏教への道―永遠の釈迦を求めて」が3日から12月11日まで、瀬田会場(滋賀県立近代美術館)では「祈りの国、近江の仏像―古代から中世へ」が17日から11月20日まで、大津会場(大津歴史博物館)では「日吉の神と祭」が10月8日から11月23日まで開かれた。琵琶湖をめぐるように山々が迫る近江地方は、古くから自然を崇拝する信仰が育まれ、そこに外来の仏教がもたらされて比叡山を中心に仏教美術が花開いた。「天台仏教への道」では「釈迦入滅」「釈迦誕生の因果」「大乗の菩薩と他浄土の仏」「仏偏満する宇宙」「奈良時代の仏教」「法華経と最澄」「比叡山の最澄」「最澄以後、天台密教の興隆」の8章構成で104点が、「祈りの国、近江の仏像」では平安前期から室町時代までの仏像57点が、「日吉の神と祭」では「神々のすがた」「日吉山王祭」の2章によって101点が展観され、近江地方の神道美術、仏教美術の豊かさを印象づける企画となった。近隣3館が同じテーマを掲げて同時期に開催する試みとしても注目された。

「生誕250年記念展 酒井抱一と江戸琳派の全貌」開催

2011年08月

京都の絵師であった俵屋宗達や尾形光琳の画風を慕い、18世紀末から江戸で活躍した酒井抱一とその画風を引き継ぐ江戸琳派の絵師たちの作品を集めた「生誕250年記念展 酒井抱一と江戸琳派の全貌」が30日から10月2日まで姫路市立美術館で開催された。代表作「夏秋草図屏風」を含む抱一作品約160点、弟子の鈴木其一による作品約60点のほか、関連資料や池田孤邨、酒井鶯蒲、鈴木守一らによる近代に連なる作品など総計338点が、第一章「姫路酒井家と抱一」、第二章「浮世絵制作と狂歌」、第三章「光琳画風への傾倒」、第四章「江戸文化の中の抱一」、第五章「雨華庵抱一の仏画制作」、第六章「江戸琳派の確立」、第七章「工芸意匠の展開」、第八章「鈴木其一とその周辺」、第九章「江戸琳派の水脈」の構成で展観された。同展は千葉市美術館(10月10日~11月13日)、細見美術館(2012年4月10日~5月13日)に巡回した。

ヨコハマトリエンナーレ2011開催

2011年08月

創設から10年目をむかえ第4回目となるヨコハマトリエンナーレは総合ディレクターに逢坂恵理子、アーティスティック・ディレクターに三木あき子を迎え、「OUR MAGIC HOUR―世界はどこまで知ることができるか?」をテーマに6日から11月6日まで横浜美術館を主会場として行われた。このたびのテーマには近代科学による世界認識の限界に疑問を呈し、科学や理性ではとらえられないものに目を向ける意図がこめられ、「みる、そだてる、つなげる」をスローガンに現代アートだけではなく、他のジャンルや過去の作品を含め、作品を見ることの深化、創作する力と見る力の双方の活性化、地域とのつながりの重視を目指した試みがなされた。77組79作家の作品を展示する主会場のほか、連携企画として「BankART LifeⅢ 新・港村~小さな未来都市」、「黄金町バザール2011」が行われ、33万人の入場者があった。

登録有形文化財登録の答申

2011年07月

文化審議会(会長:西原鈴子)は15日、東京・浅草で最初のバーとされる「神谷バー本館」(東京都台東区)、北海道の夕張炭鉱の繁栄を伝える迎賓施設「夕張鹿鳴館」(夕張市)など178件の建造物を新たに登録有形文化財にするよう高木義明文部科学相に答申した。一方、東日本大震災で大破した石岡第1発電所施設(茨城県北茨城市、高萩市)の水槽部分について、重要文化財の指定解除を求めた。

第23回世界文化賞受賞者発表

2011年07月

優れた芸術の世界的創造者たちを顕彰する高松宮殿下記念世界文化賞(主催:財団法人日本美術協会)の第23回受賞者が11日発表された。美術関係では、絵画部門でビル・ヴィオラ(アメリカ)、彫刻部門でアニッシュ・カプーア(イギリス)、建築部門でリカルド・レゴレッタ(メキシコ)が受賞した。

「菊畑茂久馬回顧展 戦後/絵画」開催

2011年07月

日本の戦後美術の代表的作家のひとりである菊畑茂久馬のデビューから現在までのしごとを振り返る「菊畑茂久馬回顧展 戦後/絵画」が9日から8月28日まで福岡市美術館で、16日から8月13日まで長崎県美術館で行われた。オブジェ、絵画、ドローイング、テレビ番組等多岐にわたる菊畑のしごとの全貌を展観するため2館に分けられた同展は、323点の出品作を福岡市美術館がオブジェを中心に「戦後」の部分を、長崎県美術館が1980年代半ば以降の大作を含む「絵画」の部分を展観し、それぞれが独立した展覧会としても鑑賞可能なかたちで紹介する意欲的な企画となった。1950年代に「九州派」の旗手として注目された後、1960年代後半から約20年間、著作、テレビ番組制作などにたずさわっていわゆる美術界から距離を置き、1980年代半ばから大作の絵画作品を次々と発表する菊畑の足跡は、戦後、日本各地で起こった前衛的な動きが1970年の大阪万博や高度成長期を経て大都市を中心とする新たな美術界の秩序の中で変貌していくさまを映し出し、戦後美術の再考を促す問題を提起した。

第6回西洋美術振興財団賞受賞者決定

2011年06月

西洋美術の理解や研究発表などに貢献した展覧会に携わった個人・団体を顕彰する西洋美術振興財団賞の第6回目の受賞者が17日に決定した。個人に贈られる学術賞は大屋美那(国立西洋美術館で開催の「フランク・ブラングィン」展に対して)、神谷幸江(広島市現代美術館で開催の「サイモン・スターリング 仮面劇のためのプロジェクト(ヒロシマ)」展に対して)が、団体に贈られる文化振興賞は三菱地所(三菱一号館美術館での「マネとモダン・パリ」展に対して)が受賞した。

美術品補償制度に関する法律の施行

2011年06月

4月4日公布の「展覧会における美術品損害の補償に関する法律」が1日に施行された。優れた美術品をより多くの国民が鑑賞できるよう、展示美術品の損害を政府が最大950億円まで補償するもので、美術品評価額の上昇や保険料の高騰を背景に1990年代から検討されてきた。同法律の施行を受け、9月には第1回対象の展覧会として、10月から開催の「ゴヤ―光と影」展(国立西洋美術館)と11月から開催の「生誕100年 ジャクソン・ポロック展」(愛知県美術館)に適用されることとなった。

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