第9回国華賞受賞者決定

1997年10月

日本・東洋の美術に関する優れた研究を顕彰する国華賞(主催―国華社、朝日新聞社)の第9回目の受賞者は、佐々木丞平(京都大学教授)・正子(日本画家)『円山応挙研究』研究編・図録編(中央公論美術出版刊)、宮崎法子(実践女子大学教授)「中国花鳥画の意味―藻魚図・蓮池水禽図・草虫図の寓意と受容について」(『美術研究』第363・4号)、吉村稔子(神田外語大学講師)「東京国立博物館保管孔雀明王画像試論―図像の継承と変容」(『美術史』141号)に決定した。贈呈式は24日、東京・築地の朝日新聞社浜離宮朝日小ホールで行われた。

文化勲章、文化功労者決定

1997年10月

政府は平成9年度の文化勲章受章者と文化功労者を決定し、21日に公表した。美術関係では金工の高橋節郎(83)が文化勲章受章者に、日本画家の加山又造(70)、ガラス工芸家の藤田喬平(76)、詩人で美術評論家の大岡信(66)が文化功労者に選ばれた。文化勲章の親授式は11月3日に皇居で、文化功労者の顕彰式は翌4日に東京虎ノ門のホテル・オークラで行われた。

「阪神間モダニズム展」開催

1997年10月

兵庫県立近代美術館、西宮市大谷記念美術館、芦屋市立美術館博物館、芦屋市谷崎潤一郎記念館の4館がモダニズムを統一テーマに共同開催した「阪神間モダニズム展」が18日から12月7日まで行われた。図録も統一カタログとし、書店でも流通させて注目された。

国宝重要文化財新指定

1997年10月

文相の諮問機関である文化財保護審議会(会長・西川杏太郎)は、17日、江戸時代の高度な寺院建築を示す瑞龍寺(富山県高岡市)の仏殿、法堂、山門を国宝に、近代産業遺構の旧横浜船渠株式会社第2号ドック(神奈川県横浜市)、旧中村家住宅主屋、土蔵(長野県美麻村)、など7件を重要文化財に、鏡山城跡(広島県東広島市)、二ツ森貝塚(青森県天間林村)など4件を史跡に、阿波国分寺庭園(徳島市)を名称に、それぞれ指定するよう町村信孝文相に答申した。また、近代建造物の保護を目的とした文化財登録制度の対象として、三池炭坑宮浦坑煙突(福岡県大牟田市)、岩国徴古館(山口県岩国市)などを86件を登録するようあわせて答申した。これで国宝は209件、重要文化財は2151件となった。

小杉放菴記念日光美術館オープン

1997年10月

日光の出身で同市名誉市民であった小杉放菴の作品を中心にその関連作家の作品・資料を収蔵・展示する小杉放菴記念日光美術館が、8日に開館(日光市山内3288-3)。延べ床面積1825平方メートルの建物は、神橋や東照宮などの歴史的景観を妨げないよう配慮されている。放菴の遺族より1992年に一括寄贈を受けた油彩画、水彩画、素描など1200点の作品・資料をもとに、その周辺作家、日光ゆかりの作家、作品を収集・展示していく。開館記念展は代表作とスケッチにより画業を多角的に検証する「小杉放菴展」(8日~11月24日)。

酒田市美術館オープン

1997年10月

最上川の近く約3万平方メートルの敷地に3日、酒田市美術館(安井収蔵館長)が開館した(酒田市、宮野浦飯森山西17-95)。鉄筋コンクリート一階建ての建物は池原義郎建築設計事務所の設計になり、常設展示室、企画展示室、展示ホール、市民ギャラリーなどがある。美術館設立計画が酒田市出身の作家・コレクターからの寄贈を契機として進められてきた経緯から、今後も地元作家とそれに関連する近代の美術作品を収集していく方針。開館記念特別展は同市在住のコレクターの収集品を中心とする「卒寿記念―森田茂展」(3日~11月3日)。

新津市美術館オープン

1997年10月

新潟県新津市南部の「金津丘陵ふれあい文化ゾーン」に1日、新津市美術館(横山正館長)がオープンした(新津市大字蒲ヶ沢109-1)。鉄筋コンクリート二階建ての建物は、連続する階段からなるアトリウムや天井高10メートルの大展示室などからなり、延べ床面積4275平方メートル。350人収容の野外劇場が併設されている。同市に寄贈されて美術館設置の契機ともなった地元出身の洋画家笹岡了一の作品、資料以外は所蔵品を持たない計画で、特色ある美術館の空間を生かしてイベント、パフォーマンスなどを行っていく方針である。また、アーティスト・イン・レジデンス的な企画も行っていく。開館記念展は笹岡了一の個展を二部構成で開催(1部1日~11月23日、2部98年1月6日~3月1日)。

第28回中原悌二郎賞受賞者決定

1997年09月

国内の優れた彫刻作品に贈られる中原悌二郎賞(北海道旭川市主催)の第28回目の選考が行われ、今年8月下旬までの1年間に展覧会を開催した日本人作家110人のなかから、下田治「かみつくめす犬」が受賞者に選ばれた。鉄板溶接による構成的な作品で、重量感のある素材で軽快な作風を示したことが評価された。また、優秀賞は植松奎二「3つのかたち―垂・傾」に決定した。

法隆寺の「百済観音像」パリのルーブル美術館に展示

1997年09月

9日から10月13日まで、フランスのルーブル美術館で法隆寺の百済観音像が展示された。前年、橋本竜太郎内閣総理大臣とフランスのシラク大統領の日仏首脳会談で日仏国宝級美術品交換展開催が決定されたのを受けて、両国文化交流の一環である「フランスにおける日本年」の企画のひとつとして行われるもので、国宝百済観音が国外に展示されるのはこれが初めて。帰国展は11月26日から12月21日まで、東京国立博物館で特別展観「百済観音」として行われた。

第14回渋沢クローデル賞受賞者決定

1997年09月

1924年に渋沢栄一と仏人ポール・クローデルにより東京に設立された日仏会館の創立60年を記念して1984年に同会館と毎日新聞との共催で設立された渋沢・クローデル賞の第14回目の受賞者が25日、毎日新聞紙上で発表された。同賞は、毎年、日仏両国の文化の架け橋となる若手研究者の研究に対して贈られ、美術関係では、フランス側本賞にニコラ・フィエーベ(仏国立科学研究センター研究員)『近代以前の日本の建築と都市―京の町の建築空間と14、15世紀の将軍の住まい』(メゾンヌーヴ・エ・ラローズ社刊)、日本側ルイ・ヴィトン・ジャパン特別賞に稲賀繁美(国際日本文化研究センター助教授)『絵画の黄昏―エドゥアール・マネ没後の闘争』(名古屋大学出版会刊)が選ばれた。

第7回登録有形文化財、重要伝統的建造物群保存地区(町並み保存地区)選定

1997年09月

文相の諮問機関文化財保護審議会(会長・西川杏太郎)は19日、日本では最初期の西洋的リゾートホテルである神奈川県箱根町の富士屋ホテル本館など50件を文化財登録し、大津市坂本地区の里坊(サトボウ)群、大阪府富田林市の富田林地区、高知県室戸市の吉良川町地区の3件を重要伝統的建造物群保存地区に指定するよう町村信孝文相に答申した。

「土田麦僊展」開催

1997年09月

明治末に日本画壇に登場し、東洋の古典絵画のみならず西洋絵画をも幅広く研究して新しい日本画の創出を求める推進力となった土田麦僊の作品を初期から晩年まで展観する大規模な展覧会が13日から東京国立近代美術館で開催された(~10月19日)。「舞妓林泉図」ほかの代表作をはじめ、素描、小下絵、大下絵を含む約150点が出品され、作家個人の画業の展開が跡づけられるとともに、大正・昭和初期の絵画の動きに再考を促す企画となった。同展は東京で終了後、京都国立近代美術館に巡回した(10月28日~11月30日)。

日本民家再生リサイクル協会発足

1997年09月

日本の伝統的な建築を伝える民家を「日本の貴重な文化財」とし、「破棄するのではなく、見直し、あらためて住まいの文化を考えていこう」という趣旨で、日本民家再生リサイクル協会が6日、東京都新宿区の日本青年館で発足した。全国に残される民家の保存と活用を目的に、啓発、技術交流、ネットワークづくりを行う。

第8回本郷新賞受賞者決定

1997年08月

パブリック・スペースのための彫刻を対象にした本郷新賞(主催・札幌彫刻美術館など)の第8回目の受賞作に、豊福知徳「那の津往還」が選ばれた。同作は、1996年3月に福岡市の博多港中央埠頭緑地モニュメント広場に設置された引き揚げ記念碑で高さ15メートルのコールテン鋼による作品。同賞は隔年先行で、今回は91年1月から96年12月までに制作・設置されたパブリック・アートを対象に、全国から推薦された27作品のなかから選考された。贈呈式は11月7日に札幌彫刻美術館で行われた。

現代美術資料センター所蔵資料、東京国立文化財研究所に寄贈

1997年07月

東京都中野区の現代美術資料センター(主宰・笹木繁男)が所蔵資料すべてを東京国立文化財研究所に寄贈することとなった。同センターは主宰者の自宅の一部に資料を所蔵・保管し研究者に公開してきたが、資料の増加等にともない、利用者の便宜などにかんがみて、公立機関に寄贈することとしたもの。受贈する東京国立文化財研究所では、寄贈品の目録作成、公開システムの確立に向けて作業を進めている。

ルヴァン美術館オープン

1997年07月

東京神田駿河台に大正10年(1921)に開校した文化学院の開校当時の校舎を再現し、美術館とした「ル・ヴァン美術館」(西村八知館長)が20日、軽井沢にオープンした(軽井沢町長倉夫婦石957-10)。文化学院は南紀の資産家で建築・絵画・陶芸などを手がけた西村伊作が自由を重んじる理想的な学校として設立し、英国コテージ風の瀟洒な校舎とともに、斬新な雰囲気で知られた。ル・ヴァン美術館は西村の自由と美の思想を記念して、同校の建物の概観を再現し、また、西村の絵画・陶芸作品、資料、学院に関わった芸術家たちの作品を常設展示する。企画展示も行い、開館記念展は長く文化学院で教鞭を取った画家村井正誠の絵画約10点と彫刻で構成する「村井正誠展」。

第6回登録有形文化財

1997年07月

文化財保護審議会(会長・西川杏太郎会長)は18日、掬粋巧芸館本館・日本館(山形県東置賜郡川西町)、隆泉苑(静岡県三島市)など24件を登録有形文化財として登録するよう答申した。

第9回世界文化賞受賞者決定

1997年07月

財団法人日本美術協会(総裁・常陸宮正仁殿下)が世界の芸術家の業績を讃えて毎年行っている「高松宮殿下記念世界文化賞」(プレミウム・インペリアーレ」の第9回目の受賞者が、ローマのコロンナ宮殿で9日午前11時(日本時間同日午後6時」に発表された。美術関係では、「絵画部門」にドイツのゲルハルト・リヒター(65)(多様なスタイルを駆使して絵画の本質を追究した)、「彫刻部門」に米国のジョージ・シーガル(72)(人体から直接型取りする技法によって現代彫刻の中でユニークな地位を占める)、「建築部門」で米国のリチャード・マイヤー(62)(開放的で詩的な「白い建築」で知られる)が選ばれた。受賞式は10月22日東京元赤坂の明治記念館で行われた。

人間国宝、選定保存技術認定

1997年05月

文化財保護審議会(西川杏太郎会長)は23日、重要無形文化財保持者(人間国宝)にあらたに11人を認定するよう小杉隆文相に答申した。美術関係では青磁の三浦小平二(64)、彩釉磁器の三代徳田八十吉(63)、綴織の細見華岳(74)、刺繍の福田喜重(64)、日本刀の天田昭次(69)および大隈俊平(65)、木工芸の大坂弘道(60)が認定された。これで現存の人間国宝は94人となる。また、選定保存技術保持者に木工品修理の桜井洋(47)、建造物彩色の川面稜一(83)、屋根瓦製作(鬼師)の小林平一(74)を認定した。

「東南アジア―近代美術の誕生」展開催

1997年05月

19世紀末から1960年前後までの東南アジアにおける美術作品を紹介する「東南アジア―近代美術の誕生」展が、9日から福岡市美術館で開催された(~6月8日、その後広島県立美術館、静岡県立美術館、東京都庭園美術館を巡回)。これは数年来のアジア社会の発展の中で、西欧中心主義を見直し、非西欧世界の文化や芸術を公平な視線で評価しようとする試みであり、他にも東京都現代美術館で「東南アジア1997 来るべき美術のために」展(4月12日~6月1日)が開かれるなど、ともにアジアへの関心をうかがわせる展観となった。

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