大岡信

没年月日:2017/04/05
分野:, (評)
読み:おおおかまこと

 現代日本を代表する詩人で、美術評論も多数手がけた大岡信は4月5日午前10時27分、誤嚥性肺炎による呼吸不全のため静岡県三島市内の病院で死去した。享年86。
 1931(昭和6)年2月16日静岡県田方郡三島町(現、三島市)に歌人・大岡博の長男として生まれる。旧制中学在学中から短歌や詩を書き始め、東京大学文学部国文学科在学中の52年、雑誌『赤門文学』に発表した評論が注目を集める。53年に同大学を卒業、読売新聞外報部記者の傍ら旺盛な創作を進め、川崎洋、茨木のり子、谷川俊太郎らの詩誌『櫂』に参加。63年に新聞社を退社後は65年に明治大学助教授、70年に同大学教授、88年より東京藝術大学教授を務める。『記憶と現在』(ユリイカ、1956年)、『透視図法―夏のための』(書肆山田、1977年)、『春 少女に』(書肆山田、1978年)等清新な実験精神に富む詩集、『紀貫之』(筑摩書房、1971年、翌年読売文学賞受賞)、『うたげと孤心』(集英社、1978年)等日本の古典に根ざした斬新な評論を次々と発表。また連歌・連句という日本古来の集団制作の伝統を現代詩によみがえらせる「連詩」を創始、海外の詩人らと共同制作を重ね、また外国での朗読会、講演等を通じて日本文学の紹介に努めるなど国際的にも活動した。
 大岡は詩人としての創作活動の傍ら、50年代から美術評論家としても活躍した。56年に東野芳明や飯島耕一ら東京大学時代の仲間とシュウルレアリスム研究会を立ち上げた後、『美術批評』に初めての美術評論「PAUL KLEE」を執筆。同誌の他『みづゑ』『美術手帖』等で活発な美術論を展開し、数々の美術書の解説も手がける。58年、書肆ユリイカが創立十周年を記念して企画した「ユリイカ詩画展」で、大岡の詩に対して駒井哲郎が銅版画を合作。59年に東京・日本橋の南画廊で開催された「フォートリエ展」カタログ作成に協力したのをきっかけに同画廊主の志水楠男と知り合い、同画廊を通じて国内外の現代芸術家と交流するようになる。加納光於、宇佐美圭司、嶋田しづ、サム・フランシス、ジャン・ティンゲリーといった美術家はもとより、武満徹や一柳慧といった音楽家とも親交を結んだ。なかでも加納光於とは60年の南画廊での個展で大岡が作品を買ったことがきっかけとなって親しくなり、互いの詩作、作品制作にも深く係わり合い、共同制作「アララットの船あるいは空の蜜」(1971―72年)を生み出した。また63年にパリ青年ビエンナーレ詩部門に参加するため渡仏した際に菅井汲と出会い、以後幾度か詩と画のパフォーマンス的共演を行うなど、美術家との共同制作を試みたほか、自ら版画や水彩画の制作にも取り組んだ。
 79年から『朝日新聞』に連載したコラム「折々のうた」で80年に菊池寛賞を受賞。日本現代詩人会会長、日本ペンクラブ会長を歴任し、1995(平成7)年には恩賜賞・日本芸術院賞を受け日本芸術院会員となる。2002年に『大岡信全詩集』(思潮社)が刊行。03年文化勲章を受章。翌年には文化交流の功労に対しフランス政府からレジオン・ドヌール勲章(オフィシエ)を贈られる。06年から07年にかけて三鷹市美術ギャラリー他で、芸術家同士の交流を通じて収集された作品を紹介した「詩人の眼・大岡信コレクション」展が開催。長男の大岡玲(あきら)は作家。09年に脳出血で倒れた後は一線を退き、療養に努めていた。
 大岡の美術に関する主要著書は下記の通りである。
『芸術マイナス1』(弘文堂、1960年)
『ポロック』(みすず書房、1963年)
『芸術と伝統』(晶文社、1963年)
『眼・ことば・ヨーロッパ』(美術出版社、1965年)
『肉眼の思想』(中央公論社、1969年)
『現代美術に生きる伝統』(新潮社、1972年)
『装飾と非装飾』(晶文社、1973年)
『ドガ』(新潮社、1974年)
『岡倉天心』(朝日新聞社、1975年)
『日本の色』(朝日新聞社、1976年)
『加納光於論』(書肆風の薔薇、1982年)
『ミクロコスモス 瀧口修造』(みすず書房、1984年)
『抽象絵画への招待』(岩波書店、1985年)
『美をひらく扉』(講談社、1992年)

出 典:『日本美術年鑑』平成30年版(438-439頁)
登録日:2020年12月11日
更新日:2023年09月13日 (更新履歴)

引用の際は、クレジットを明記ください。
例)「大岡信」『日本美術年鑑』平成30年版(438-439頁)
例)「大岡信 日本美術年鑑所載物故者記事」(東京文化財研究所)https://www.tobunken.go.jp/materials/bukko/824216.html(閲覧日 2024-04-26)

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