「昭和の美術 1945年まで―<目的芸術>の軌跡」展開催

2005年11月

昭和戦前期の美術界において、政治社会的な目的から統制に向かうプロパガンダ的な美術と、大衆からの主張としてのプロレタリア美術運動の両面を横断的に検証しようとする展覧会が、11月3日より新潟県立近代美術館で開催された。内容は、「Ⅰ社会闘争の時代―プロレタリア美術運動の高潮と終焉」、「Ⅱ戦争と全体主義の時代―拡張する戦争美術とその諸相」の2部から構成され、上記の両極の美術を「目的芸術」と一括してみようとする視点にたち、戦前期の美術が矛盾を内包しながら、一方で多くの共通点をもち激動の時代のなかで創作されていった軌跡を正面から辿ろうとした展覧であった。(会期、12月11日まで。)

建造物の重要文化財指定の答申

2005年10月

文化審議会(阿刀田高会長)は、10月28日、東大寺二月堂を国宝に、旧渋沢家飛鳥山邸(東京都北区)など9件の建造物を重要文化財に指定するように中山成彬文部科学大臣に答申した。これにより建造物の国宝は213件、257棟となった。

文化勲章、文化功労者決定

2005年10月

政府は、10月28日、平成17年度の文化勲章受章者5人と文化功労者15人を発表した。美術関係では、陶芸の青木竜山(79)が文化勲章を受章。また、美術評論家の高階秀爾(73)、彫刻家の建畠覚造(86)が文化功労者に選ばれた。

第17回国華賞受賞者決定

2005年10月

日本及び東洋の美術をテーマにした研究論文を対象に創設された同賞(同賞顕彰基金主催)受賞者が公表された。国華賞には、武藤純子『初期浮世絵と歌舞伎』(笠間書院、2005年3月)、また国華奨励賞に姜素妍「朝鮮前期の観音菩薩の様式的変容とその応身妙法の図像―京都・知恩院蔵<観世音菩薩三十二応幀>の明朝形式の受容を中心に」(『仏教芸術』276号、2004年9月)と福島泰子「アジャンター第17窟<シンハラ物語>図―場面解釈の再検討と物語表現の特質」(『国華』1316号、2005年6月)が選ばれた。贈呈式が、10月27日朝日新聞社東京本社で開催された。

「もの派―再考」展開催

2005年10月

日本の戦後、現代美術を顧みるとき、ひとつの大きなエポックとなった「もの派」の芸術を今日的な視点から見直す展覧会が、10月25日より国立国際美術館で開催された。「もの派」とは、もとよりひとつのグループの名称ではない。むしろ同時代的におきた芸術の既成概念に対する異議、批判をこめた「素材」を表現に転化した芸術家たちの総称であった。同展では、そうした時代の現象に対して発端としての高松次郎関根伸夫、さらに展開させた李禹煥等に焦点をあてて「もの派」の歴史的な意味を問い直す試みであった。(会期、12月18日まで。)

「北斎展」開催

2005年10月

国内外において最も親しまれている浮世絵師葛飾北斎の全貌を紹介する展覧会が、10月25日より東京国立博物館において開催された。内容は、70年に及ぶ画業を下記のとおり6期に分け、肉筆画、錦絵、版本等495点が出品された。構成は、「第一期 春朗期-習作の時代」、「第二期 宗理期-宗理様式の展開」、「第三期 葛飾北斎期-読本挿絵への傾注」、「第四期 戴斗期-多彩な絵手本の時代」、「第五期 為一期-錦絵の時代」、「第六期 画狂老人卍期-最晩年」となっていた。なお、同展には会期中332,939人の入館者があり、同館の同年の特別展としては、4月開催の「世界遺産・博物館島 ベルリンの至宝展―よみがえる美の聖域」(337,475人)に次ぐ記録となった。(会期、12月4日まで。)

第17回世界文化賞

2005年10月

世界の優れた芸術家に贈られる高松宮殿下記念世界文化賞(総裁、常陸宮殿下、財団法人日本美術協会主催)の第17回授賞式が、10月18日、東京・上野の東京国立博物館平成館で行われた。美術関係の受賞者は、絵画部門では、ロバート・ライマン(75、アメリカ)、彫刻部門では三宅一生(67)、建築部門では谷口吉生(68)が選ばれた。

九州国立博物館開館

2005年10月

全国で4番目の国立博物館として同博物館(福岡県太宰府市)が、10月16日から一般公開され、開館特別記念展「美の国 日本」が開催された。同博物館は、「日本文化の形成をアジア史的観点から捉える」ことを基本理念としている。また施設は、地下2階、地上5階建てで、延べ床面積30,000平方メートル、常設展示室は約4,000平方メートルで、太宰府天満宮に近接している。

「中世信濃の名僧-知られざる禅僧たちの営みと造形」展開催

2005年10月

中世の信濃において中国大陸の精神文化との交流を果たしていた禅僧たちの活動に注目した展覧会が、10月15日より飯田市美術博物館において開催された。同市上川路の畳秀山開善寺(臨済宗妙心寺派)は、官寺として鎌倉五山に次ぐ十刹の地位を得て重きをおかれていた。来朝僧清拙正澄の開山になる同寺の所蔵品を中心に、中世信濃に縁のある禅僧に関わる絵画、彫刻、墨蹟等65点が出品され、中世における一地方と大陸文化との豊かな交流を、禅僧たちの営みを通じて歴史的、文化的に検証した展覧会となった。(会期、11月23日まで。)

「復古大和絵師 為恭-幕末王朝恋慕」展開催

2005年10月

江戸時代後期に古画の名品から直接学ぶことで、大和絵の復興をはかった一群の復古大和絵派のなかでも棹尾をかざる幕末の岡田為恭をとりあげた展覧会が、10月8日より大和文華館で開催された。内容は、幕末期に大和絵の近代化をはかった為恭の全貌を紹介するために、93点の作品によって構成され、その芸術の再評価が意欲的、実証的にめざされていた。(会期、11月13日まで。)

三井記念美術館開館

2005年10月

約300年の伝統をもつ三井家が江戸時代から収集した日本東洋の美術品を展示していた三井文庫別館が三井本館(中央区日本橋室町2)に移転し、10月8日に三井記念美術館として開館した。施設は、同館7階(2870平方メートル)に設けられ、展示室は915平方メートル。開館記念展として「美の伝統 三井家伝世の名宝」展を開催し、国宝6点、重要文化財20点を含む所蔵品が展示された。(会期、12月25日まで。)

「日本のアールヌーヴォー―1900-1923 工芸とデザインの新時代」展開催

2005年09月

1900年のパリ万国博覧会に契機に日本にもたらされた「アール・ヌーヴォー」を受容とその発展としての創作の面から見直す展覧会が、9月17日より東京国立近代美術館工芸館で開催された。内容は、「Ⅰ 日本人が見たヨーロッパの世紀末」、「Ⅱ 日本のアール・ヌーヴォー」、「Ⅲ Life生活/生命―日本のアール・ヌーヴォーのその後」から構成され、同時代の様式を受容した日本の芸術家たちの多様な創作が多岐にわたり展覧された。(会期、11月27日まで。)

「アジアのキュビスム―境界なき対話」展開催

2005年08月

20世紀初頭にヨーロッパで生まれたキュビスムが、アジア各地においてどのように受容され、展開されていったかを検証する国際展が、8月日より東京国立近代美術館で開催された。内容は、中国、台湾、インド、インドネシア、日本、韓国、マレーシア、フィリピン、シンガポール、スリランカ、タイのアジア諸地域で、キュビスムがひとつの「西洋」のモダニズム様式にとどまらず、個々の地域の時代と社会、文化的背景の中で多様、多彩に受容されたことを示すものとなり、アジアの「近代」を再考する初めての、しかも国際的な試みであった。(会期、10月2日まで。徳壽宮美術館(韓国国立現代美術館分館)、シンガポール美術館に巡回。)

「松島天橋立厳島 日本三景」展開催

2005年08月

江戸時代以降、「日本三景」としてひろく知られた松島(宮城県)、天橋立(京都府)、厳島(広島県)の海浜景観に注目し、それに関わる文化財によって構成した展覧会が、8月2日より広島県立美術館で開催された。内容は、「日本三景」に関わる中世の絵巻から近世の名所風俗図屏風、写生・真景図、風景版画、近現代の日本画まで絵画作品を中心に130点あまりで構成され、その景観の美しさに魅せられつづけた日本人の美意識の展開と、現代における意味を問い直す機会となった。(会期、9月4日まで。京都文化博物館、東北歴史博物館に巡回。)

「古密教 日本密教の胎動」展開催

2005年07月

平安時代はじめ空海によって日本に密教が伝えられたといわれるが、すでに奈良時代から数多くの密教経典が伝えられている事実に注目した展覧会が、7月26日より奈良国立博物館にて開催された。内容は、奈良時代の洗練された古典美に、密教特有の呪術性が加わった造形性に焦点をあてその独自性を検証するため文化財108件が出品された。(会期、9月4日まで。)

「模写模造と日本美術-うつすまなぶつたえる-」展開催

2005年07月

洋の東西を問わず古今の多くの芸術家が試みていた模写・模造に焦点をあてた展覧会が、7月20日より東京国立博物館で開催された。同展では、江戸時代の狩野派を中心とする画家による名画の模写から明治時代に岡倉天心が中心となってすすめた模写・模造作品、さらに近年までの文化財保護の目的から行われた模写まで幅広く作品を展示し、創作、文化財保護等の面から「模写・模造」の意味を考える内容となった。(会期、9月11日まで。)

人間国宝指定

2005年07月

文化審議会(阿刀田高会長)は、7月15日、5人を重要無形文化財の保持者(人間国宝)に認定するように中山成彬文部科学大臣に答申した。「工芸技術の部」では、鉄釉陶器の原清(69)、紬織の佐々木苑子(66)、鋳金の大沢光民(63)、竹工芸の勝城蒼鳳(71)の4人が選定された。今回の認定で、芸能59人、工芸技術58人の計117人となった。ほかに文化財を守る技術である「選定保存技術」として金唐紙製作の上田尚(71)、石盤葺の佐々木信平(58)が選定された。

「明代絵画と雪舟」展開催

2005年07月

日本の中世画壇の巨匠雪舟等楊を軸に同時代の中国明代絵画との比較を試みた展覧会が、7月2日より根津美術館で開催された。内容は、雪舟の作品10件を中心に、新たに紹介された作品を含む明代絵画60件を加え、両者の比較及び日本の中世絵画と密接な関係にある明代絵画の展開を紹介するものであった。(会期、8月14日まで。)

高松塚古墳石室解体保存決定

2005年06月

国の特別史跡である高松塚古墳(奈良県明日香村)で国宝壁画の修復保存策をめぐり、文化庁の恒久保存対策検討会(座長、渡辺明義・前東京文化財研究所長)が、6月27日に都内で開かれた。会議の結果、「現在の環境で壁画を維持するのは困難」として、墳丘を掘り壁画の描かれた石室を取り出す石室解体案の採用を決めた。壁画の修復が完了した段階で、石室を墳丘に戻す方針だが、特別史跡の現状を大幅に変更するという措置となり異例の判断となった。

「構造社展 昭和初期彫刻の鬼才たち」展開催

2005年06月

1926年に結成された彫刻を中心とする在野団体「構造社」の活動の作品を初めて回顧する展覧会が、6月18日より福井市美術館(アートラボふくい)で開催された。内容は、同団体の主要な会員20名の作品、資料等を展示するとともに、これまで検証が充分におこなわれてこなかった昭和前期における彫刻と建築、記念碑、装飾美術、絵画等との多彩な関係を見直す機会となった。(会期、7月16日まで。宇都宮美術館、札幌芸術の森美術館、松戸市立博物館に巡回。)

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