- 本データベースは東京文化財研究所刊行の『日本美術年鑑』に掲載された彙報・年史記事を網羅したものです。
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2008年09月 日本最大級の現代アートの国際展として2001年に始まった横浜トリエンナーレ(主催:国際交流基金、横浜市、NHK、朝日新聞社、同展組織委員会)が横浜埠頭の新港ピア、日本郵船海岸通倉庫、三渓園など8箇所を会場に13日から11月30日までの会期で開かれた。水沢勉が総合ディレクターをつとめ、26カ国・地域から71名のアーティストが参加した。展覧会のテーマは「タイムクレヴァス(時の裂け目)」で、ビエンナーレ等の国際展に認められるようになった定型化を破り、「時間」に着目して、日常の時間に流されることなく、時間の裂け目を覗き込む体験の場を提示することが目指された。インスタレーション、映像作品が多く出展されたほか、パフォーマンスが数多く組み込まれていることが、シンガポール、上海、光州、釜山で同時期に開催されるビエンナーレと比較して、ひとつの特色となった。
2008年08月 都の文化振興策について検討する知事の付属機関「東京都芸術文化評議会」は27日、東京都庭園美術館新館(港区白金)の建て替えを決定した。同美術館には1933年に建築され、都の有形文化財となっている本館と1963年竣工の新館があり、建て替えられるのは事務室、ホールなどとして使用されている新館。耐震診断の結果、新館が耐震指標を下回ったためにこの決定となった。
2008年07月 文化審議会(石沢良昭会長)は18日、6名を新たに重要無形文化財保持者(人間国宝)に認定するよう渡海文部科学相に答申した。美術関係では、木版摺更紗の鈴木滋人(54)、蒔絵の室瀬和美(57)、?漆の増村紀一郎(66)、彫金の桂盛仁(63)が選ばれた。木版摺更紗での認定は初めて。これによって人間国宝は芸能58名、工芸技術59名の117名(重複認定者が1名いるため実質は116名)となった。
2008年08月 国内の美術館で開催され、西洋美術の理解や研究発展に寄与した西洋美術展を企画した個人、団体を顕彰する西洋美術振興財団賞の受賞者が決定した。学術賞に千代章一郎・林美佐・山名善之「ル・コルビュジエ 建築とアート、その創造の軌跡」展(森美術館)、南嶌宏「ATTITUDE 2007 人間の家―真に歓喜に値するもの」展(熊本市現代美術館)が選ばれ、文化振興賞に淡交社美術企画部が「マルレーネ・デュマス ブロークン・ホワイト」展(東京都現代美術館、丸亀市猪熊弦一郎現代美術館)によって選ばれた。
2008年07月 日本美術の研究誌『国華』が岡倉天心らによって1889(明治22)年に創刊されて今年で120年になるのを記念して、「創刊記念『国華』120周年・朝日新聞130周年」と銘打ち、中世から近代に至る日本美術の巨匠たちをその作品によって「対決」させる展覧会が東京国立博物館で開催された。運慶と快慶、伊藤若冲と曽我蕭白、池大雅と与謝蕪村、喜多川歌麿と東洲斎写楽など同時代に活躍した作家だけでなく、後代の絵師が先達に私淑して学んだ雪舟等楊と雪村周継、俵屋宗達と尾形光琳、また、師弟関係にあった円山応挙と長沢芦雪なども含む12組24名による110件の作品で構成され、国宝10件、重要文化財39件を含む大規模な展観となった。近年行方不明ながら狩野永徳筆の可能性が指摘され、当年に改めて所在が確認されて注目を集めていた原三渓旧蔵「松に叭叭鳥・柳に白鷺図屏風」が出陳されたことでも話題となった。
2008年07月 古来、近江と南都の文化をつなぐ役割を負ってきた石山寺を中心とする湖南地域、瀬田川流域、田原道沿道地域に現存する仏像や、石山寺本尊との関連が認められる諸像を集めた「石山寺と湖南の仏像―近江と南都を結ぶ仏の道―」展が13日から大津市歴史博物館で開催された(8月24日まで)。「古代の北陸道」「石山寺の仏像」「瀬田川・田原道(旧東山道)沿いの大津市南部の仏像」「瀬田川・田原道(旧東山道)の仏像」「奈良からの影響」の5章で構成され、飛鳥時代から江戸時代までの仏像、絵画、文書等101点が展観された。人と物の往来と文化の伝播を作品によって跡づける興味深い企画となった。
2008年06月 14日午前8時43分に岩手県内陸南部で発生したマグニチュード7.2の地震により仙台市の陸奥国分寺薬師堂の欄間が落ちるなど国指定の重要文化財や史跡など24件に被害が生じたことが両県の教育委員会の調査で判明した。
2008年06月 文化審議会(石沢良昭会長)は20日、丹下健三設計による「墨会館」(愛知県一宮市)など23都道府県に所在する170件の建造物を登録有形文化財に指定するよう渡海文部科学相に答申した。これによって建造物の登録有形文化財は7179件となった。
2008年05月 文化財保存・修復に優れた業績を残した人を顕彰するあをによし賞の第二回目の受賞者に、茅葺き棟梁でこの分野では唯一の国選定保存技術保持者の岡田隆蔵(81)、和紙の調査や復元を行ってきた和紙技術研究者の大川昭典(65)が選ばれた。また、財団法人中近東文化センター附属アナトリア考古学研究所が特別賞を受賞した。海外遺跡での発掘調査や現地の人たちと進める保存活動が認められたもの。
2008年05月 狩野派二代目の絵師元信の作品とされ、数十年にわたり行方不明であった「松に叭叭鳥・柳に白鷺図屏風」の存在が確認され、再調査によって安土桃山時代の代表的絵師である狩野永徳の作品と判明した。実業家原三渓の旧蔵品で原家の売立目録「松風閣蔵品展観図録」に掲載されて以降、行方不明となっていた。
2008年05月 文化審議会(石沢良昭会長)は16日、金沢城跡(金沢市)など8件を史跡に、蕨野の棚田(佐賀県唐津市)など2件を重要文化的景観に、長崎市の平和公園など12件を登録記念物に指定するよう、渡海文部科学相に答申した。
2008年04月 点描による温雅な画風で知られる岡鹿之助の作品70点により、その画業を再考する「岡鹿之助展」がブリヂストン美術館で26日から開催された(7月6日まで)。描かれた題材によって「海」「運河」「献花」「雪」「灯台」「発電所」「群落と廃墟」「城館と礼拝堂」「融合」という9つのテーマ別に作品を分類し、1924年の渡欧後、約3年で画風を確立してから、自身の作品の引用というべき制作を繰り返し、同じ題材によって造形を熟成させていく画業が新たな角度から跡づけられた。
2008年04月 19世紀半ばに活躍し、印象派や立体派の画家たちにまで連なる絵画の変革をもたらしたカミーユ・コローの油彩画約80点を展観する「コロー 光と追憶の変奏曲」展が14日から国立西洋美術館で開催された。1章「初期の作品とイタリア」、2章「フランス各地の田園風景とアトリエでの制作」、3章「フレーミングと空間、パノラマ風景と遠近法的風景」、4章「樹木のカーテン、舞台の幕」、5章「ミューズとニンフたち、そして音楽」、6章「私は目も心も使って解釈する」の構成で、ルーブル美術館をはじめ、欧米各国から作品が集められ、アカデミックな画風から、写実と詩情が融合された画風への展開が跡づけられる展観となった。同展は神戸市立博物館に巡回した(9月13日から12月7日)。
2008年04月 「紫式部日記」の1008(寛弘5)年の条に宮中でこの物語が広く知られていたことが初めて登場するところから、今年を源氏物語千年紀とし、関連する展覧会が各地で開催されたが、そのひとつとして絵画作品によって登場人物や名場面のみならず、創作の背景となった平安文化や、物語の成立から今日までの伝承過程を紹介する「源氏物語千年紀展」が京都府京都文化博物館で26日から開催された(6月8日まで)。プロローグ「源氏物語への誘い」、第一章「作者・紫式部」、第二章「源氏物語の世界」、第三章「写本 その営と美」、第四章「源氏物語の楽しみ 享受の歴史」、エピローグ「源氏物語の雅」の構成で、重要文化財約40点を含む157件の作品、資料が展示され、物語と人々との千年の関わりが示される充実した展観となった。
2008年04月 松坂屋京都染織参考館の収蔵品のなかから小袖を中心に装身具や調度品など約300点を展観する「小袖―江戸のオートクチュール」展が26日から名古屋市博物館で行なわれた。1611(慶長16)年に呉服商として創業した松坂屋が意匠の参考品として収集してきたコレクションの一部が初めて公開されたもので、第一章「小袖もよう アートをまとう」、第二章「装いをめぐるとき 時間・季節・機会」、第三章「小袖へのまなざし」、第四章「コレクション探訪」の構成で秘蔵の優品が多数出品され、江戸期における絵画と工芸の関係を考える上でも重要な機会となった。同展はサントリー美術館(7月26日から9月21日)、大阪市立美術館(09年4月14日から5月31日)に巡回した。
2008年04月 文化審議会(石沢良昭会長)は18日、重要文化財の青井阿蘇神社(熊本県人吉市)を国宝に、シャトーカミヤ旧醸造施設(茨城県牛久市)など10件を重要文化財に指定するよう、渡海文部科学相に答申した。また、重要伝統的建造物群保存地区として長崎県平戸市大島村神浦地区など3箇所を新たに指定するよう答申した。
2008年04月 美術館を中心に、十和田市内中心部の官庁街通り全体にアート空間を創出する「Arts Towada」(野外芸術文化ゾーン)計画のもとに、26日、十和田市現代美術館が開館した。西沢立衛の設計になり延べ床面積2078.38㎡、常設展示室、企画展示室のほか市民活動、屋外イヴェントのスペースを持つ。国内外の現代作家21名による22点を恒久設置し、現代アート作品を体験する場となる一方で、地域の文化活動を活性化する拠点となることをめざす。開館展は「オノ・ヨーコ 入り口」展で7月6日まで開催された。
2008年04月 第一次大戦勃発時に日本領となり「南洋群島」と呼ばれた島々に滞在し、島の風土や人々の暮らしに親しんで制作を行なった土方久功、杉浦佐助と杉浦の弟子である儀間比呂志に注目し、その作品と関連資料を展示する「美術家たちの『南洋群島』」展が町田市立国際版画美術館で12日から開催された(6月22日まで)。1990年代から盛んになった第二次世界大戦中の日本美術の研究によって当時の日本が植民地としていた地域の美術に関する研究が行なわれるようになったのを背景に、「南洋群島」での日本人作家による制作を調査し、表現の特質や時代精神に迫ろうとする意欲的な展観となった。同展は高知県立美術館(7月13日から9月15日)、沖縄県立博物館・美術館(11月7日から09年1月18日)に巡回した。
2008年03月 1961(昭和36)年に滋賀県民や地元企業からの寄附によって総合博物館として開館し、仏教美術の優品を数多く所蔵することで知られる琵琶湖文化館は、2007年12月の滋賀県議会において県教育委員会から出された展示公開の中止(休館)の方針に従って、31日から休館することとなった。県財政事情の悪化、建物の老朽化、耐震性の問題、入館者数の減少などが理由としてあげられた。関連学会などから存続を求める要望書が提出されたが、収蔵品特別公開「近江の美術 第Ⅲ期仏教美術の精華」(3月4日から30日)が休館前の最後の企画展となった。しかし、従来行なってきた文化財講座を近隣の施設で開催するほか、ホームページ上に館蔵の名品を紹介するコーナーを新設するなど、展示を行なわない博物館としての活動を開始した。
2008年04月 幕末明治期に東京で活躍した画家河鍋暁斎の没後120年を記念して、その画業を回顧する「絵画の冒険者 暁斎 近代へ架ける橋」展が京都国立博物館で8日から開催された(5月11日まで)。国内外に所蔵される暁斎の肉筆画135点を「「狂斎」の時代」、「冥界・異界、鬼神・幽霊」、「少女たつへの鎮魂歌」、「巨大画面への挑戦」、「森羅万象」、「笑いの絵画」、「物語、年中行事」、「暁斎の真骨頂」の8章に分けて展観し、幅広いモティーフを多様な画風で描きこなした暁斎の強い個性が際立つ展示となった。