児島善三郎

没年月日:1962/03/22
分野:, (洋)

独立美術協会会員児島善三郎は、3月22日、肝臓癌のため千葉市の額田病院で没した。享年69。葬儀は、同26日独立美術協会葬として東京築地本願寺で行われた。明治26年福岡市に生まれ、県立中学修猷館を卒業後、長崎医学専門学校薬学科に入学した。しかし、大正2年春中途退学し、画家を志して上京した。本郷絵画研究所に一時学んだが、後は独学であった。間もなく病を得て帰郷、長い闘病生活を経て大正9年再び上京した。大正10年二科展に初めて入選、翌年の第9回二科展に「裸女」等を出品して二科賞を受けた。大正13年渡欧、パリに於いて研究をつづけ、またスペイン、イタリアを巡歴した。昭和3年帰国し、秋の第15回二科展に「横臥」「立てるソニヤ」「鏡」などの滞欧作22点を出品して認められ、二科会会友に推された。昭和5年には会員となったが、11月里見勝蔵中山巍らと二科会を脱退して独立美術協会を創立した。その後は、終始同会の中心的作家として同会の発展につくすと共に、多くのすぐれた作品を発表した。殊に、戦後の活躍は目覚ましかった。留学中の初期には、西洋古典の研究につとめ、量感の把握を志したが、帰國後の中期には日本的な油彩画の樹立を唱え、思い切ったデフォルメと線の使用によって独自の画風を示した。晩年には桃山美術や琳派などの大らかさと柔潤、華麗な色調をとり入れ、格調の高い作品を数多く生んだ。中にも「アルプスへの道」「春遠からじ」「ダリヤ」「熱海」「箱根」「森と聚落」等はすぐれている。
略年譜
明治26年 2月13日福岡市の紙問屋児島善一郎の長男として生まれる。
明治45年 3月福岡県立中学修猷館を卒業し、長崎医学専門学校薬学科に入学する。
大正2年 長崎医学専門学校を中退し、画家を志して上京、駒込の染井に住む。
大正3年 岡田三郎助の本郷絵画研究所に通学し制作研究に励んだが、過労のため病をえて翌年帰郷する。
大正9年 5年間の闘病生活が続いたが、病気が恢復した後、再び上京して板橋に居を定め、制作を始める。
大正10年 9月第8回二科会展に初入選「裸女」「十一月風景」「早春の下板橋附近」「雪景」「麻繰工場ある風景」「早春の池畔」を出品
大正11年 3月平和記念東京博覧会に「肖像」を出品し、褒状を受ける。4月流乙荘に個展を開く、9月第8回二科会展に「裸女」「代々木風景(冬)」「春近き郊外」「浅き春」「横臥像」を出品し、二科賞を受ける。この年、代々木にアトリエを建てた。
大正12年 9月第10回二科会展に「花を持てる女の立像」「窓外早春」を出品。このころ基礎的な研究に専念するため外遊を決意する。
大正13年 3月門司出帆の鹿島丸で宿望の渡欧の途に就く。パリにアトリエをかまえ、制作するかたわら日本に作品を送り発表した。当時フランスには、海老原喜之助、高畑達四郎、前田寛治、佐伯祐三等がいた。9月に第11回二科会展に「丘上の家」「曇日薄暮」を出品した。在仏中スペイン、イタリア、ベルギー、イギリス、ドイツの各地を旅行。
大正14年 9月第12回二科展に「堰のある風景」「ロアン河畔」を出品。
昭和3年 父死去の報に接し、やむなくシベリア経由で帰国。9月第15回二科会展に「立てるソニヤ」「横臥」「南仏風景」等滞欧作22点を特別出品した。
昭和4年 9月第16回二科会展に「パノラマ」「六月」「審判の前」「臥す」「立つ」「目」「粧」を出品。
昭和5年 9月第17回二科会展に「5人の女」「立」「目」「桜」等を出品し、二科会会員に推される。11月二科会を脱し、林重義里見勝蔵林武高畠達四郎、三岸好太郎、川口軌外小島善太郎中山巍鈴木保徳伊藤廉清水登之福沢一郎鈴木亜夫等と共に独立美術協会を創立。
昭和6年 1月第1回独立美術協会展に「独立美術首途(第二の誕生)」「横臥」「青いソファ」「赤い背景」「長椅子の上に」「立像」「プロフィル」「黄色のソファ」「二月郊外」「五月」「山水」「女の顔(彫刻・A)」「女の顔(彫刻・B)」を出品、9月第1回独立美術協会秋季展に「紅衣の婦人」他を出品。
昭和7年 3月第2回独立美術展に「臥女」「庭の雪」「春を待つ庭」「サンルームの見える裸体」「無衣の女」「青空」「首飾りと女」「座したる女(神体)」「肖像」を出品。
昭和8年 3月第3回独立美術展に「鏡」「春」「雲る上高地(徳本峠)」「新春の庭」「朝の庭」を出品。
昭和9年 3月第4回独立美術展に「山麓の秋」「初秋」「松ケ丘」「赤松の丘」「雪後」「山嶺秋」「庭(秋の午後)」を出品。
昭和10年 3月第5回独立美術展に「山路」「滝壷」「庭の松」「老松」「庭の初春」「代々木の原」「瀬戸風景」を出品。
昭和11年 代々木から国分寺に居を移す。3月第6回独立美術展に「岩と松」「瀬戸の風景」「初夏の池」を出品。
昭和12年 3月第7回独立美術展に「渓流.A」「渓流.B」「残雪」「松」を出品。
昭和13年 3月第8回独立美術展に「箱根峠」「山湖」「菊」「箱根」「ダリヤ」を出品。資生堂画廊において個展を開催。
昭和14年 3月第9回独立美術展に「富士清郎」「風景」「蓮花」「春待つ農家」「東風」を出品。
昭和15年 3月第10回独立美術展に「菊」「武蔵野」「ダリヤ」「涼風」を出品。
昭和16年 3月第11回独立美術展に「ダリヤ」「菊」「箱根秋晴」「寒空」「虞美人草」を出品。
昭和17年 3月第12回独立美術展に「箱根秋晴」「夏草」「菊」「早春」「菊」を出品。
昭和18年 3月第13回独立美術展に「静波」「あねもね」「厳冬」「ダリヤ」「岬」を出品。
昭和19年 2月第14回独立美術展に「秘園」「菊」「富士早春」を出品。
昭和22年 4月第15回独立美術展に「菊花」「M氏像」「雪景」「立春」「熱海の桜」を出品。
昭和23年 5月第2回美術団体連合展に「満開」出品、10月第16回独立美術展に「牡丹」「青田」「アネモネ」「ダリヤ」を出品。
昭和24年 5月第3回美術団体連合展に「早春」を出品、10月第17回独立美術展に「静物」「ダリヤ」「静物」「虞美人草」「静物」を出品。
昭和25年 3月第1回秀作美術展に「壷のある静物」を出品、5月第4回美術団体連合展に「花」「春遠からじ」を出品、10月第18回独立美術展に「夏山」「静物」「立秋」を出品。
昭和26年 荻窪にアトリエを新築し、国分寺から移る。1月第2回秀作美術展に「花」「春遠からじ」を出品、5月第5回美術団体連合展に「緑の丘」を出品、10月第19回独立美術展に「老松」「アルプスへの道」を出品。
昭和27年 1月第3回秀作美術展に「アルプスへの道」を出品、5月第1回日本国際美術展に「芦之湖秋暉」を出品、10月第20回独立美術展に「高原」「百合」を出品。
昭和28年 9月国立公園絵画展「東京・日本橋三越」に「発哺よりの展望」を出品。10月第21回独立美術展に「ダリヤ」「立雲」「犬吠岬」その他約15点を出品。
昭和29年 1月第5回秀作美術展に「ミモザと百合その他」を出品、10月第22回独立美術展に「百合」「カイウと麒麟草」「トリトマ、虞美人草など」を出品。
昭和30年 1月第6回秀作美術展に「カイウと麒麟草」を出品、5月第3回日本国際美術展に「橋」を出品、10月第23回独立美術展に「女と花」を出品。
昭和31年 5月第2回現代日本美術展に「雪柳と海芋と波斯の壺」を出品、10月第24回独立美術展に「座像」を出品。
昭和32年 1月第8回秀作美術展に「雪柳と海芋と波斯の壺」を出品、5月第4回日本国際美術展に「熱海」を出品。10月第25回独立美術展に「熱海夜景」「婦人座像」「熱海夜景」を出品。
昭和33年 1月第9回秀作美術展に「熱海夜景」を出品、1月ヨーロッパ巡回日本現代絵画展に「ミモザの花とその他」「山湖」「アルプスへの道」を出品、2月第2回国際具象派美術展に「箱根」を出品、10月第26回独立美術展に「花」「少女座像」「聚落と森」を出品。
昭和34年 1月第10回秀作美術展に「聚落と森」を出品、10月第27回独立美術展に「青衣」「熱海」「花」を出品、10月朝日新聞社主催により東京銀座松屋において児島善三郎自選展を開催、「新緑」「5人の女」「独立美術首途(第二の誕生)」「春遠からじ」「アルプスへの道」「犬吠岬」「聚落と森」など絵画100点彫刻2点計102点を出品する。
昭和35年 1月第11回秀作美術展に「花」を出品、5月第4回現代日本美術展に「伊豆山早春」を出品、5月東京、日本橋画廊において、児島善三郎新作展を開催、「薔薇(ペルシャの壺)」「早春山麓」「早春(梅)」「芦之湖の秋」「花」「熱海」「熱海山手」「早春山荘」「熱海(雲)」等32点を出品、10月第28回独立美術展に「ダリヤ」「コッポ編のスェーター」を出品。
昭和36年 1月第12回秀作美術展に「熱海」を出品、10月第29回独立美術展に「西伊豆」を出品する。この頃再び渡欧を決意、病身を完全に直す事に専念、2月療養のため千葉県稲毛町の額田病院に入院する。
昭和37年 1月第13回秀作美術展に「西伊豆」を出品。3月22日午前10時25分、額田病院に未完の絶筆「花」「婦人像」「バラ」等を残して、肝臓癌のため逝去す。

出 典:『日本美術年鑑』昭和38年版(135-137頁)
登録日:2014年04月14日
更新日:2023年09月13日 (更新履歴)

引用の際は、クレジットを明記ください。
例)「児島善三郎」『日本美術年鑑』昭和38年版(135-137頁)
例)「児島善三郎 日本美術年鑑所載物故者記事」(東京文化財研究所)https://www.tobunken.go.jp/materials/bukko/9133.html(閲覧日 2024-04-20)

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