「物故者記事」・「美術界年史」リニューアルの経緯と効果
『日本美術年鑑』は1936年より当研究所が毎年発行している、日本の美術界の動静をまとめた書籍である。内容は次の四項目に分類されている。
美術界年史:その年の美術界の略年譜
美術展覧会:その年に開催された美術展覧会の一覧
美術文献目録:その年に公開された美術に関係する文献の目録
物故者記事:その年に亡くなった美術関係者の略歴
このうち、「物故者記事」は2010年3月、「美術界年史」は2012年3月にそれぞれホームページ上で全文公開された。しかし一般的なホームページと同様にHTMLファイルによって作成されたため、検索や分類の機能がなく、特定の記事を探すことが難しかった。そこで2013年より、これらの機能を備えたウェブデータベースとしてリニューアル公開するための調査・研究が始まり、Content Management SystemのWordPressがシステムとして採用された。このシステムはオープンソースのシステムとして無料で公開されており、カスタマイズの幅が広い。また、USBメモリで動作するパッケージ等、動作環境を選ばない柔軟な運用が可能である。そして「物故者記事」および「美術界年史」は2014年4月にWordPressを用いたウェブデータベースとしてリニューアル公開された。
アクセスログの解析から、訪問者数、ページビュー数ともに大幅に増加しており、リニューアルがコンテンツの利用促進に極めて効果的であることがわかった。図1は「物故者記事」の訪問者数のグラフだが、リニューアルによって訪問者数が大幅に増加したことは明白である。図2のページビューについても同様である(2012年10月から2013年2月のログは、ベンダーが保存期間を誤設定したため消失)。「美術界年史」のグラフは割愛するが、「物故者記事」同様、リニューアル以降、大幅にアクセスを増やしている。
リニューアルの効果が顕著に見られた2013-15年度の訪問者数の前年同月比を3ヶ月毎に確認する。まず2013-14年は次の通り。なお、ページビュー数については括弧内に示した。
4月・64%(116%)、7月・177%(212%)、10月・315%(582%)、1月・463%(784%)
リニューアル月の4月の訪問者数が減少しているのは、リニューアル前のページをサーバに残したままだったため、アクセスが分散したことが原因と考えられる。2014-15年度は次の通り。
4月・702%(715%)、7月・286%(414%)、10月・165%(184%)、1月・93%(139%)
このように、訪問者数に比べてページビュー数の増加率が高いのは、ウェブデータベース化に伴うページ数増加の影響もあるが、利用者の行動分析からは、リニューアル時に追加した検索、記事分類、人名自動リンクといった諸機能が活発に利用されている様子がうかがえた。なお、リニューアル以前の2013年とアクセスの落ちついた2015年を比較すると、訪問者数は約4.7倍、ページビュー数は10倍あまりに増加した。
以上から、コンテンツが利用されるには単にウェブ上で公開するだけでは不十分であり、利用しやすい形式で公開されなければ、その価値にも関わらず利用が限定的であることが確認された。今後、ウェブデータベース版「物故者記事」および「美術界年史」の活発な利用が新たな研究成果となるよう、安定した公開の維持および、より利便性を高めた公開方法の研究を進めることを課題としたい。
(文化財情報資料部 文化財情報研究室 小山田智寛、福永八朗、二神葉子)