小林秀雄

没年月日:1983/03/01
分野:, (評)

日本芸術院会員、文化勲章受章者の小林秀雄は、3月1日じん不全による尿毒症と呼吸循環不全のため東京・信濃町の慶応病院で死去した。享年80。わが国における近代批評の確立者とされ、美術論でも多大の影響を与えた小林は、明治35(1902)年4月11日東京市神田区に生まれ、昭和3年東京帝国大学文学部仏蘭西文学科を卒業。翌4年、「改造」の懸賞評論に「様々なる意匠」を応募し二席に入選、すでに成熟した確固たる自己の文体と批評の方法を示した。同8年、川端康成らと「文学界」を創刊し文学批評とともに時事的発言も行ったが、やがて戦況が深まるにつれ日本の古典に沈潜し、また陶器と向いあう沈黙の世界に閉じ込もり、「無常といふ事」(同17年)、「西行」(同年)、「実朝」(同18年)、などの作品を生んだ。戦後の仕事は、「モオツァルト」(同21年)、『近代絵画』(同33年刊)など、音楽、美術論を著した時期、『考えるヒント』(同39年刊)に代表される歴史、思想的エッセーを執筆した時期、そして、同40年から「新潮」に連載し同52年に刊行された『本居宣長』の時代に三分して捉えられている。美術論に関しては、その本格的な出発となった『ゴッホの手紙』(同27年刊、第4回読売文学賞)で示されているように、「意匠」をつき抜けた「天才の内面」を掘りあてることに関心を集中させ、孤独で強靭な作家の姿を浮彫りにした。『近代絵画』(同33年刊、第11回野間文芸賞)においても、画家列伝形式でモネ、セザンヌ、ゴッホ、ゴーガン、ルノワール、ドガからピカソをとりあげ、これを近代芸術精神史というべき域へ昂めている。その他、戦前の陶磁器に関するエッセーをはじめ、美術を論じた執筆は数多い。また、晩年はルオーの作品を愛していたという。同34年日本芸術院会員となり、同44年文化勲章を受章。
美術関係文献目録(『新訂 小林秀雄全集』新潮社刊-昭和53・54年-所収)
第3巻
故古賀春江氏の水彩画展「文学界」昭和8年11月
第9巻
骨董 初出紙未詳。昭和23年9月の執筆か。
眞贋 「中央公論」 昭和26年1月号。
埴輪 『日本の彫刻1上古時代』、美術出版社刊、昭和27年6月。
古鐸 「朝日新聞」 昭和36年1月4日号。
徳利と盃 「藝術新潮」 昭和37年2月号。<藝術隨想>と題する連載の第1回。
壷 「藝術新潮」 昭和37年3月号。<藝術隨想>の第2回。
鐸 「藝術新潮」 昭和37年4月号。<藝術隨想>の第3回。
高麗劍 「藝術新潮」 昭和38年2月号。<藝術隨想>の第4回。
染付皿 「藝術新潮」 昭和38年3月号。<藝術隨想>の第5回。
信樂大壷 『信樂大壷』、東京中日新聞社刊、昭和40年3月。原題「壷」。<まへがき>として執筆された。
第10巻
ゴッホの手紙 「藝術新潮」 昭和26年1月~27年2月
ゴッホの墓 「朝日新聞」 昭和30年3月26日号。
ゴッホの病氣 「藝術新潮」 昭和33年11月号。
ゴッホの繪 『オランダ・フランドル美術』(世界美術大系19)、講談社刊、昭和37年4月。
ゴッホの手紙 『ファン・ゴッホ書簡全集』内容見本 みすず書房 昭和38年10月
光悦と宗達 『國華百粹』第四輯。毎日新聞社刊、昭和22年10月。原題「和歌卷(團伊能氏蔵)」。
梅原龍三郎 「文體」復刊号、昭和22年12月。文末「附記」はこのエッセイが『梅原龍三郎北京作品集』(石原求龍堂刊、昭和19年11月)の解説のために執筆されたものであることを伝えている。
鐵齋1 「時事新報」 昭和23年4月30日-同5月2日号。原題「鐵齋」。
鐵齋2 「文學界」 昭和24年3月号。原題「鐵齋の富士」。
雪舟 「藝術新潮」 昭和25年3月号。
高野山にて 「夕刊新大阪」 昭和25年9月26日号。
偶像崇拜 「新潮」 昭和25年11月号。原題「繪」。
鐵齋3 『現代日本美術全集』第一巻、座右宝刊行会編、角川書店刊、昭和30年1月。原題「富岡鐵齋」。
鐵齋の扇面 「文藝」増刊号(美術讀本)、昭和30年11月。
鐵齋4 『鐵齋』、筑摩書房刊、昭和32年2月。原題「鐵齋」。
梅原龍三郎展をみて 「讀賣新聞」 昭和35年5月7日号夕刊。
第11巻
近代絵画 「新潮」 昭和29年3月-30年12月号 「藝術新潮」 昭和31年1月-33年2月号。単行本は昭和33年人文書院より刊行。同年普及版を新潮社より刊行。
ピカソの陶器 「朝日新聞」 昭和26年3月13日号。
マチス展を見る 「讀賣新聞」 昭和26年4月23日号。
セザンヌの自畫像 「中央公論」 昭和27年1月号。
ほんもの・にせもの展 「讀賣新聞」 昭和31年3月28日号。
私の空想美術館 「文藝春秋」 昭和33年6月号-同八月号。
マルロオの「美術館」 「藝術新潮」 昭和33年8月号。
「近代藝術の先駆者」序 『近代藝術の先駆者』、講談社刊、昭和39年1月。同書は『20世紀を動かした人々』全16巻の第7巻。
別巻1
中川さんの絵と文 『中川一政文集』内容見本、筑摩書房、昭和50年5月。
土牛素描 「奥村土牛素描展目録」 昭和52年5月
ルオーの版画 『ルオー全版画』内容見本、岩波書店、昭和54年3月
ルオーの事 「ルオー展目録」 昭和54年5月、「芸術新潮」 昭和54年6月号に再録

出 典:『日本美術年鑑』昭和59年版(299-300頁)
登録日:2014年04月14日
更新日:2023年09月13日 (更新履歴)

引用の際は、クレジットを明記ください。
例)「小林秀雄」『日本美術年鑑』昭和59年版(299-300頁)
例)「小林秀雄 日本美術年鑑所載物故者記事」(東京文化財研究所)https://www.tobunken.go.jp/materials/bukko/10278.html(閲覧日 2024-11-03)

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