匠秀夫

没年月日:1994/09/14
分野:, , (学,評)

 日本近代美術史研究者で、現代美術の評論においても幅広く活動した茨城県近代美術館館長の匠秀夫は、9月14日食道がんのため東京都文京区の順天堂病院で死去した。享年69。日本近代洋画史の研究で著名であった匠は、大正13(1924)年11月28日北海道夕張郡夕張町字住初社宅19号-2 (現夕張市)に生まれ、幼少時から札幌で養育され、北海道庁立札幌第一中学校を経て、昭和19年京都帝国大学文学部選科へ進んだが、翌年陸軍二等兵として入営した。戦後の同23年京都大学を中退し北海道大学文学部史学科に入学、堀米庸三教授の下で西洋中世史を研究し、同32年同大学大学院を修了した。この頃から日本近代洋画史への関心を深め、精査な資料収集と調査を開始し、また、河北倫明著『青木繁-生涯と芸術』(同23年)に啓発されたり、土方定一を識り作家研究の方向性を示唆されたこともあり、本格的に日本近代美術史を専攻するに至った。同39年、最初の著書『日本近代洋画の展開』を昭森社から刊行、同書は美術と文学との関わりに注目する等、事実の羅列に止まらない独自の史観を盛った斬新な日本近代洋画史論として高く評価された。一方、北海道出身の作家研究も独自に展開、同43年に「三岸好太郎-昭和洋画史への序章』、翌年『中原悌二郎』の二書をその成果として世に出した。この間、同39年から、札幌大谷短期大学で教鞭を執ったが、同43年神奈川県立近代美術館主任学芸員に迎えられ、以後、同館での数多くの企画展に関わり、日本現代美術、西洋近・現代美術へも研究の領域を広げるとともに、美術評論の活動も精力的に展開した。同51年、神奈川県立近代美術館副館長、同56年同館長に就任、同60年同館を定年退職した。また、中原悌二郎賞審査委員、安井賞選考委員、現代日本美術展審査委員、高村光太郎大賞審査委員、日本国際美術展選考委員など数々の委員に携わったほか、杉野女子大学、法政大学文学部、札幌学院大学、愛知県立芸術大学などの非常勤講師をつとめた。同60年、茨城県参与(新美術館担当)を委嘱され、同63年茨城県立近代美術館開設と同時に館長に就任し、同館の運営に尽力した。執筆活動は晩年に至るまで極めて旺盛で、その全容は、残後一周忌にあたり上梓された『匠秀夫 年譜・著作目録』 (陰里鉄郎編)に詳しい。同誌から、著書(含共著、編著等)のみを以下に掲げる。
著書
『近代白木洋画の展開』(昭森社、昭和39年12月)
『中原悌三郎・その生涯と芸術<旭川叢書二> 』(旭川市、昭和43年3月)
「三岸好太郎-昭和洋画史への序章』(北海道立美術館、昭和43年11月)
「中原悌二郎』(木耳社、昭和44年12月)
『近代の美術 第26号 三岸好太郎」(至文堂、昭和50年1月)
『小出楢重』(日動出版部、昭和50年2月)
『近代日本洋画の展開』(昭森社、昭和52年2月)
『近代日本の美術と文学-明治大正昭和決の挿絵-』(木耳社、昭和54年11月)
『近代の美術 第58号 日本の水彩画』(至文堂、昭和55年4月)
『岩波ジュニア新書 22 絵を描くこころ』(岩波書店、昭和55年10月)
『大正の個性派』(有斐閣、昭和58年4月)
棟方志功 讃』(平凡社、昭和59年11月)
『小出楢重』(日動出版部、昭和60年2月)
『日本の近代美術と文学-挿画史とその周辺』(沖積社、昭和62年11月)
『物語 昭和洋画壇史Ⅰパリ豚児の群れ』(形文社、昭和63年10月)
『戦中病兵日記』(昭森社、平成元年8月)
『物語 昭和洋画壇史II“生きている画家たち” -閉塞の時代』(形文社、平成元年11月)
『日本の近代美術と西洋』(沖積社、平成3年9月)
『三岸好太郎-昭和洋画史への序章』(求龍堂、平成4年8月)
『日本の近代美術と幕末』(沖積社、平成6年9月)
共著、編著、訳書、監修本
『彫刻の生命』中原悌二郎著、匠秀夫編(中央公論美術出版、昭和44年2月)
『小熊秀雄・詩と絵と画論』小田切秀雄、匠秀夫共編(三彩社、昭和49年1月)
『世界の巨匠シリーズ ムンク』トーマス・メッサー著、匠秀夫翻訳(美術出版舎、昭和49年11月)
『大切な雰囲気』小出楢重著、匠秀夫編(昭森社、昭和50年9月)
『衣服の文化史-美術史との交響』井上泰男、匠秀夫共著(研究社、昭和53年5月)
有島生馬芸術論集-一つの予言』紅野敏郎、匠秀夫、有島睦子編(形象社、昭和54年9月)
『中原悌二郎の想出』中原信著、匠秀夫監修・編集(日動出版部、昭和56年1月)
『小出楢重全文集』匠秀夫編(五月書房、昭和56年9月)
『日本水彩画名作全集 二 石井柏亭匠秀夫編・著(第一法規出版、昭和57年6月)
『日本水彩画名作全集 五 中西利雄匠秀夫編・著(第一法規出版、昭和57年7月)
『現代日本の水彩画<全5巻>』匠秀夫監修(第一法規出版、昭和59年)
『ハムレット-神奈川県立近代美術館収蔵のドラクロワの版画-<美術館収蔵名作シリーズ>』ドラクロワ、F.V.E著、匠秀夫監修(形象社、昭和59年)
『日本の水彩画<全20巻>』匠秀夫監修(第一法規出版、平成元年)
『ゴッホ巡礼<とんぼの本>』向田直幹、匠秀夫著(新潮社、平成2年11月)
土方定一 美術批評 1946-1980』土方定一著、匠秀夫陰里鉄郎、酒井忠康編(形文社、平成5年10月)
児島善三郎の手紙』匠秀夫編(形文社、平成5年10月)
原勝郎画集』匠秀夫編(原勝郎画集刊行委員会[原のぶ子方]、平成6年2月)
『小出楢重の手紙』匠秀夫編(形文社、平成6年5月)

出 典:『日本美術年鑑』平成7年版(352-353頁)
登録日:2014年04月14日
更新日:2015年12月14日 (更新履歴)
『日本美術年鑑』に収録されている以下の記事にも「匠秀夫」が含まれます。
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