浜田知明

没年月日:2018/07/17
分野:, (版)
読み:はまだちめい

 銅版画家の浜田知明は、7月17日老衰のため熊本市内の病院で死去した、享年100。
 1917(大正6)年12月23日、熊本県上益郡高木村(現、御船町高木)に、小学校の校長であった父高田格次郎の次男高田知明(ともあき)として生まれる。1930(昭和5)年、県立御船中学校に入学、同学校で図画科教師富田至誠(1922年、東京美術学校西洋画科卒業)に学ぶ。34年、中学4年を修了して東京美術学校油画科に入学、在学中は藤島武二教室に学ぶ。39年3月、東京美術学校(現、東京藝術大学)油画科を卒業。同年、応召して熊本歩兵第13連隊補充隊に入隊、中国大陸に派遣され、華北山西省にて作戦警備にあたった。43年、兵役満期で復員、東京都豊島区に居住。翌年6月、熊本市で浜田久子と結婚、翌月再度応召、伊豆七島の新島に派遣される。45年終戦にともない復員。戦後は帰郷して、県立熊本商業学校の教員をしていたが、48年に上京。50年、この年から、駒井哲郎、関野準一郎を訪ね、その助言のもと本格的に銅版画を研究しはじめ、自身の戦争体験をモチーフにした銅版画「初年兵哀歌」シリーズの制作をはじめる。51年10月、第15回自由美術家協会展に「壁」、「初年兵哀歌(便所の伝説)」、「初年兵哀歌(銃架のかげ)」、「戦ひのあと」を出品。53年には銀座のフォルム画廊で初個展開催。「初年兵哀歌」シリーズは、54年までに15点制作された。浜田は、後年、「この戦争に生き残ったものとして、それは、私がどうしても描かずにはいられなかったところのものである。」(「初年兵哀歌」、『現代の眼』207号、1972年2月)と記しているが、この連作が代表作となった。56年には、スイス、ルガノ国際版画ビエンナーレに出品して受賞。同年、第2回現代日本美術展(毎日新聞社主催)に「よみがえる亡霊」、「副校長D氏像」を招待出品、佳作賞受賞。つづいて同年の「世界・今日の美術」展(朝日新聞社主催)にも出品、一躍国内外で注目されるようになった。57年に帰郷、熊本では九州女学院高等学校、福岡学芸大学、熊本大学で非常勤講師を務めながら制作をつづけた。64年、ヨーロッパを訪れ、主にパリに滞在。1年間の滞在を終えて翌年帰国、この年フィレンツェ美術アカデミー版画部名誉会員となる。67年より熊本短期大学助教授として勤務(71年に同大学教授となり、87年に定年退職、ひきつづき客員教授、特任教授として務める。)創作では、その後、戦争、原爆、現代社会を、ユーモアを交えながら鋭く風刺する作品を制作しつづけた。また80年代からは、銅版画と並行して彫刻作品も制作するようになった。
80年に第39回西日本文化賞(西日本新聞社主催)を受賞、85年には熊本県近代文化功労者として顕彰された。1989(平成元)年には、フランス政府から芸術文化勲章(レジョン・ドヌール勲章シュヴァリエ章)を受章。
 他に版画集『わたくしのヨーロッパ印象記』(大阪フォルム画廊、1970年)、『見える人』(同前、1975年)、『曇後晴』(ヒロ画廊、1977年)、『小さな版画集』(同前、1992年)を刊行した他、93年には『浜田知明作品集<コンプリート1993>』(求龍堂)が刊行され、2007年には画文集『浜田知明 よみがえる風景』を刊行した。70年代以降から晩年まで、浜田の生地にある熊本県立美術館をはじめ、各地の美術館で数多くの回顧展が開催され、その主要なものは下記の通りである。
 1975年11月、「浜田知明銅版画作品展 銅版画作品1938-1975」、北九州市立美術館
 1979年3月、「浜田知明銅版画展」、熊本県立美術館
 同年、「浜田知明展」、オーストリアのアルベルティーナ国立素描美術館(ウィーン)、グラーツ州立近代美術館
 1980年5月、「浜田知明・銅版画展 <初年兵哀歌>から<取引>まで」、神奈川県立近代美術館
 1993年10月、「浜田知明展」、大英博物館日本ギャラリー
 1994年1月、「浜田知明展」、熊本県立美術館
 1996年1月、「浜田知明の全容展」、小田急美術館(東京新宿)、富山県立近代美術館、下関市立美術館、伊丹市立美術館
 1999年7月、「銅版画憧憬-駒井哲郎と浜田知明の1950年代 コレクションによるテーマ展示」、東京都現代美術館
 2001年10月、「浜田知明 版画と彫刻による人間の探究」、熊本県立美術館 
 2007年6月、「無限の人間愛 浜田知明展」、大川美術館(群馬県桐生市)
 2009年6月、「浜田知明展 不条理とユーモア」、北九州市立美術館
 2010年7月、「版画と彫刻による哀しみとユーモア 浜田知明の世界展」、神奈川県立近代美術館葉山
 2015年8月、「戦後70年記念 浜田知明のすべて」展、熊本県立美術館
 2017年9月、「浜田知明・秀島由己男版画展」、大川美術館
 2018年3月、「浜田知明 100年のまなざし」展、町田市立国際版画美術館
 なお没後の19年4月には、熊本県立美術館にて「浜田知明回顧展 忘れえぬかたち」が開催された。一兵卒としての戦争体験を原点として、戦後から現代まで、人間観察を通して「人間とは」と問いつづけた銅版画家だった。

出 典:『日本美術年鑑』令和元年版(516-517頁)
登録日:2022年08月16日
更新日:2023年09月13日 (更新履歴)

引用の際は、クレジットを明記ください。
例)「浜田知明」『日本美術年鑑』令和元年版(516-517頁)
例)「浜田知明 日本美術年鑑所載物故者記事」(東京文化財研究所)https://www.tobunken.go.jp/materials/bukko/995761.html(閲覧日 2024-04-27)

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