宇佐美圭司

没年月日:2012/10/19
分野:, (洋)
読み:うさみけいじ

 画家で、武蔵野美術大学、京都市立芸術大学等で教授として教鞭をとった現代絵画家の宇佐美圭司は、10月19日食道がんのため福井県越前町の自宅で死去した。享年72。
 1940(昭和15)年1月29日、大阪府吹田市に生まれる。幼少期を和歌山県和歌山市で過ごした後、58年大阪府立天王寺高等学校を卒業、同年に上京、東京藝術大学受験を目指した。しかし受験に向けた素描、油彩からはずれた抽象化された繊細なドローイング、油彩画を描くようになり、不定型なフォルムが画面をおおい尽くすアメリカ抽象表現主義の影響を感じさせながらも、青年らしい繊細さと鋭さがあるオールオーヴァーな平面作品を製作するようになる。63年には南画廊で初個展開催。66年、初めてニューヨークを訪れる。以後、72年までたびたび同地に滞在した。現代美術の潮流が、抽象表現主義から、ジャスパー・ジョーンズ、ロバート・ラウシェンバーグ等を中心に、ネオ・ダダ、ポップアートへと伝統的で形骸化した「絵画」という形式に対する懐疑と否定を主張する表現を前にして、決定的な影響を受けた。そうした転換期にあって画家自身が、たびたび以下のように述懐するように、一枚の報道写真のイメージがその後の創作にとって大きな要素となった。
「1965年、アメリカ各地で黒人暴動があり、『アメリカの暑い夏』と言われた。私の絵に使用している形はロスアンゼルス郊外のワッツ地区のもので『ワッツの暴動』といわれた報道写真から抜け出してきたのである。(中略)私はその写真に強くひきつけられた。街路樹、看板、襲撃を受ける店、道いっぱいに広がる群衆。私はその風景をなかば抽象化して『路上の英雄』というシリーズの作品を発表した。それ以来記号化した人間の形は、私の作品のかわらぬモチーフになってきた。」(「思考空間」、『思考空間 宇佐美圭司 2000年以降』カタログ、財団法人池田20世紀美術館、2007年10月-08年1月)
以後、画面のなかの人型が、軽快な色面としての記号として反復、変容しながら、感情表現を排した一見概念図ともみられるような構成をとる絵画をシリーズとして制作するようになった。
 68年、第8回現代日本美術展(東京都美術館)で大原美術館賞受賞。69年、J.D.ロックフェラー三世財団より奨学金を受ける。72年、第36回ヴェネツィア・ビエンナーレの日本館出品。81年、多摩美術大学芸術学科助教授となる。1989(平成元)年、第22回日本芸術大賞受賞。翌年、武蔵野美術大学油絵科教授となる。91年、福井県越前海岸に「海のアトリエ」を作る。92年、セゾン現代美術館(長野県北佐久郡軽井沢町)他にて「宇佐美圭司回顧展」開催。93年、『心象芸術論』(新曜社)を刊行、翌年同書掲載の「心象スケッチ論 宮澤賢治『春と修羅』序 私註」により第4回宮澤賢治奨励賞を受賞。96年、武満徹とのコラボレーション「時間の園丁」制作。2000年から05年まで、京都市立芸術大学教授を務める。01年6月から10月まで、「宇佐美圭司・絵画宇宙」展を開催。10代の初期水彩作品から近作まで251点から構成された回顧展となった(福井県立美術館、和歌山県立近代美術館、三鷹市美術ギャラリー巡回)。02年、芸術選奨文部科学大臣賞受賞。07年10月から08年1月には、池田20世紀美術館(静岡県伊東市)において「思考空間 宇佐美圭司 2000年以降」を開催。2000年以降制作の水彩、油彩の大作22点によって構成された展覧会となる。12年3月から6月まで、大岡信ことば館(静岡県三島市)において、新作2点を含む41点による「宇佐美圭司 制動(ブレーキ) 大洪水展」が開催されたが、前年の東日本大震災以後ということを強く意識した同展が生前最後の展覧となった。13年10月から12月まで、セゾン現代美術館にて「没後一年 宇佐美圭司」展が開催された。
 アメリカ現代美術がもっとも熱気と変革の思想をはらんだ時代である1960年代から70年代のアメリカ現代美術の影響をうけながら、独自の絵画思考を深めることができた美術家であった。その点からも、同時代の日本の現代美術の展開を回顧するうえで欠くことのできない作品を数多く残した。それらの作品においては、記号化され、シルエットのように平面化された人間の形は、現代における人間存在の危機的で象徴的な記号(フォルム)として変容、変化しつつも、画家にとって終生にわたるモチーフ、あるいは表現、構成の要素であった。
 さらに多くの著述のなかで記された芸術論は、絵画の歴史をふりかえることで深められた思考として、すぐれた現代美術論ともなっている。また晩年にいたる展開は、文明論的なスケールの大きさを感じさせる旺盛な創作に挑んでいた。
 なお、主要な著作、作品集は下記にあげるとおりである。
『絵画論―描くことの復権』(筑摩書房、1980年)
『線の肖像―現代美術の地平から』(小沢書店、1980年)
『デュシャン(20世紀思想家文庫<13>)』(岩波書店、1984年)
『記号から形態へ―現代絵画の主題を求めて』(筑摩書房、1985年)
『心象芸術論』(新曜社、1993年)
『絵画の方法』(小沢書店、1994年)
『20世紀美術』(岩波書店、1994年)
『絵画空間のコスモロジー―宇佐美圭司作品集 ドゥローイングを中心に』(美術出版社、1999年)
『廃墟巡礼―人間と芸術の未来を問う旅』(平凡社、2000年)

出 典:『日本美術年鑑』平成25年版(420-421頁)
登録日:2015年12月14日
更新日:2023年09月13日 (更新履歴)

引用の際は、クレジットを明記ください。
例)「宇佐美圭司」『日本美術年鑑』平成25年版(420-421頁)
例)「宇佐美圭司 日本美術年鑑所載物故者記事」(東京文化財研究所)https://www.tobunken.go.jp/materials/bukko/204404.html(閲覧日 2024-04-20)

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