深沢幸雄

没年月日:2017/01/02
分野:, (版)
読み:ふかざわゆきお

 版画家で、多摩美術大学名誉教授の深沢幸雄は1月2日、老衰のため死去した。享年92。
 1924(大正13)年7月1日、山梨県南巨摩群増穂町(現、富士川町平林)に生まれる。父は朝鮮総督府官吏であり、生後すぐに家族で旧朝鮮堤川(現、大韓民国忠清北道堤川市)へ渡る。中学校時代には、〓凡社の『世界美術全集』で油彩画を知り、画家を志す。18歳まで堤川で過ごし、1942(昭和17)年に東京美術学校(現、東京藝術大学)工芸科を受験。彫金部予科に入学する。彫金部への進学は、父からの要望であったという。同校在学中、岡田三郎助藤島武二が主宰した本郷絵画研究所に通いデッサンを学ぶ。同所で女子美術専門学校(現、女子美術大学)の学生であった小島咲子と出会い、47年に結婚。49年に同校工芸科彫金部を卒業した後に、妻方の実家がある千葉県市原群鶴舞町に移り住み、50年から78年まで県立市原高等学校の美術教師として勤務。生涯、市原を制作の拠点とし、画業を展開させた。
 深沢の画業は、油彩画から出発している。53年には、自由美術家協会展に200号の大作「からたちと裸像」が入選を果たすなど、当初は大型の作品制作に取り組んでいたことがうかがえる。
 銅版画の道へ進んだのは、54年からである。深沢は、45年の東京大空襲で右足に打撲傷を負い、その影響で大画面の制作が困難となっていた。そこで、小規模で制作が可能であり、彫金部での経験を生かすことができる銅版画に移行する。独学での技術習得であったが、57年には、ダンテの『神曲』<地獄〓>を主題にした「ウゴリーノ」「チェルベロ」などで第25回日本版画協会賞を受賞。また、同年の第1回東京国際版画ビエンナーレでは、「病める詩魂」「汚〓の陽の下に」が入選し、新進作家として頭角を現す。つづけて、58年には、第35回春陽会展で春陽会賞、59年には、第3回シェル美術賞を受賞。60年には、第4回同賞において「愛憎」など10点で神奈川県立近代美術館版画賞を受賞した。
 62年に第5回現代日本美術展において「生1」「生2」で優秀賞を受賞するが、これをきっかけにメキシコ国際文化振興会より現地での版画技法の指導の依頼を受け、翌年、メキシコシティに3ヶ月間滞在する。メキシコの人々にあらゆる版画技法の講習を行い、現地の版画界に大きな影響を与えた。そして、深沢自身もメキシコの文化に触れたことで、作品に鮮やかな色彩を取り込むようになる。それらの作品は、65年の第8回サンパウロ・ビエンナーレ展(ブラジル)といった数々の国際的な展覧会に出品された。
 そして、最初のメキシコ訪問から11年後の74年と、76年、79年に再び同地を訪問し、メキシコの歴史や世界の人類史から触発された「新大陸のモンゴロイド」シリーズを7年半の歳月をかけて36点発表した。75年には、第43回日本版画協会展に同シリーズの「影(メヒコ)A」「影(メヒコ)B」を出品。また、78年の第46回日本版画協会展に出品した「凍れる歩廊(ベーリング海峡)」は深沢の代表作として知られる。
 その一方で、文学作品からインスピレーションを受けた作品を数多く発表している。70年には、詩版画集『春と修羅』を刊行(詩、宮沢賢治。86年にも刊行)。73年には、ポール・ゴーギャン著『ノアノア』を題材とした銅版画集『黒い花』を制作した(1975年に刊行)。82年には、アルチュール・ランボーの詩集『酔いどれ船』に着想を得た詩画集も刊行している。80年代になると、深沢自身と、それを取り巻く周囲の人間をテーマとして「人間劇場」シリーズを発表。生涯に渡り、作風をさまざまに展開し、新たな表現を追及しつづけた。
 作家活動の一方で、75年には日本版画協会理事に就任するとともに、現代日本美術展や多くの地方美術展で審査員として関わり版画界の中核を担った。そして、86年から多摩美術大学教授に就任、若手作家の育成などにも尽力した。その功績が認められ、87年に紫綬褒賞、1995(平成7)年に勲四等旭日小綬章を受章している。また、90年には、メキシコ国立版画美術館にて「日本の版画 深沢幸雄展」が行われ、94年にはメキシコ国文化勲章アギラ・アステカを受章。メキシコと日本の版画界の架け橋として、世界的にも認められた。
 2007年には、出身地の山梨県立美術館において「深沢幸雄展―いのちの根源を謳う―」が開催。そして、14年には、市原湖畔美術館から『深沢幸雄 市原市所蔵作品集』が発行され、深沢の画業が顕彰された。没後、18年には再び山梨県立美術館において「銅版画の詩人 追悼 深沢幸雄展」が開催。同展カタログは、深沢直筆のノート等の資料が収録され、深沢の画業の全貌を明らかにした。

出 典:『日本美術年鑑』平成30年版(427頁)
登録日:2020年12月11日
更新日:2023年09月13日 (更新履歴)

引用の際は、クレジットを明記ください。
例)「深沢幸雄」『日本美術年鑑』平成30年版(427頁)
例)「深沢幸雄 日本美術年鑑所載物故者記事」(東京文化財研究所)https://www.tobunken.go.jp/materials/bukko/824126.html(閲覧日 2024-05-30)

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