赤塚不二夫
漫画家の赤塚不二夫は8月2日午後4時55分、肺炎のため東京都文京区の順天堂医院で死去した。享年72。1935(昭和10)年9月14日、旧満州(中国東北部)熱河省灤平県(現、中華人民共和国河北省)に生まれる。本名藤雄。45年奉天で敗戦を迎え、翌年、母の実家のあった奈良県生駒郡郡山町(現、大和郡山市)へ引き揚げる。もとより漫画家を志望していたが、引き揚げ後に貸本屋で借りた手塚治虫「ロストワールド」を読み、プロの漫画家となることを決意する。49年にはSF漫画「ダイヤモンド島」を描き下ろし、大阪の出版社へ持ち込むが不採用。同年シベリア抑留を解かれた父とともに新潟で暮らすこととなり、51年には新潟市内の塗装店に就職。この頃から、『漫画少年』(学童社)に赤塚不二夫のペンネームで投稿を始める。53年上京。54年工場勤務のかたわら、東日本漫画研究会(石森章太郎主宰)同人誌『墨汁一滴』に参加。56年少女漫画「嵐をこえて」(曙出版)で単行本デビュー。同年トキワ荘に移る。当時のトキワ荘には寺田ヒロオ、藤子不二雄、石森らが入居しており、これらのメンバーと新漫画党を結成(ちばてつや、松本零士、つのだじろうらも参加)。この頃の赤塚は『少女クラブ』(講談社)、『少女ブック』(集英社)、『りぼん』(同)といった少女漫画雑誌に短編を発表していた。58年には『漫画王』(秋田書店)に読み切りとして描いた「ナマちゃんのにちよう日」が好評を博し、同誌翌月号より「ナマちゃん」として連載が開始される。59年には週刊誌ブームを背景として、小学館から『週刊少年サンデー』が、講談社から『週刊少年マガジン』が同日創刊され、週刊という枠の中で、漫画雑誌は新たなステージを迎えつつあった。その流れの中で赤塚は62年『週刊少年サンデー』で「おそ松くん」の連載を開始。同年『りぼん』で「ひみつのアッコちゃん」の連載も始まり、人気作家となる。64年石森、藤子、つのだ、鈴木伸一の設立したスタジオ・ゼロに参加。65年には新宿区十二社にフジオ・プロダクションを設立し、長谷邦夫、横山孝雄、古谷三敏、北見けんいち、高井研一郎らが参加する。この他、赤塚のもとには後に人気作家となる漫画家が多く在籍していた。同じく65年「おそ松くん」で第10回小学館漫画賞を受賞。67年『週刊少年マガジン』で「天才バカボン」、『週刊少年サンデー』で「もーれつア太郎」の連載を開始(「天才バカボン」は69、70年の一時期、ライバル誌『サンデー』に連載されるが、71年『マガジン』で連載再開)。71年『サンデー』で「レッツラ☆ゴン」の連載開始。72年には「天才バカボン」で文芸春秋漫画賞受賞。同年『週刊文春』で「ギャグゲリラ」の連載開始。70年代以降も多くの連載をこなす一方、テレビ、映画、演劇、パフォーマンス、執筆など、漫画家としての枠を超えた活動を展開する。あわせて、65年のアニメ「おそ松くん」のテレビ放映に続いて、69年には「ひみつのアッコちゃん」と「もーれつア太郎」が、71年には「天才バカボン」がテレビ放映されるが、数度のリバイバルを経て、以後も多くの作品がテレビアニメ化される。「ギャグ漫画」という一分野を確立した赤塚作品の制作は、「アイデア(会議)」と呼ばれるミーティングによってネーム等のおおよそのアウトラインが決められたことが、赤塚自身や周囲の発言から知られる。この「アイデア」は赤塚始め長谷、古谷らフジオ・プロのメンバーと担当編集者を主な構成員とし、赤塚作品を彩る個性的なキャラクターの数々もこの席上で生まれたものが多かったという。赤塚による分業制とも言うべき作品完成へのプロセスは、戦後日本における漫画制作の現場の一端を知る上で重要である。また、73年末からの数ヶ月間、全ての作品を「山田一郎」名義で執筆するなど、実験的な表現方法を展開する。1997(平成9)年には「まんがバカなのだ! 赤塚不二夫展」(池田20世紀美術館)、「これでいいのだ! 赤塚不二夫展」(上野の森美術館)を開催。同年、第26回日本漫画家協会文部大臣賞受賞。翌年紫綬褒章受章。2000年には『赤塚不二夫のさわる絵本 よーいどん!』(小学館)、02年には『赤塚不二夫のさわる絵本 ニャロメをさがせ!』(同)という点字絵本を刊行。03年には青梅市に赤塚不二夫会館がオープン。没後の09年「赤塚不二夫展 ギャグで駆け抜けた72年」(松屋銀座他)が開催された。
出 典:『日本美術年鑑』平成21年版(436頁)登録日:2014年10月27日
更新日:2023年09月13日 (更新履歴)
例)「赤塚不二夫」『日本美術年鑑』平成21年版(436頁)
例)「赤塚不二夫 日本美術年鑑所載物故者記事」(東京文化財研究所)https://www.tobunken.go.jp/materials/bukko/28429.html(閲覧日 2024-10-05)
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