町田甲一

没年月日:1993/10/05
分野:, (学)

美術史家で、武蔵野美術大学名誉教授の町田甲一は、10月5日午後8時脳内出血のため東京都多摩市の天本病院で死去した。享年76。大正5年12月9日、東京市麹町区で生まれる。父は文・帝展で活躍した日本画家町田曲江。昭和11年3月東京府立第三中学校を病気のため二年遅れで卒業し、同年4月姫路高校へ進む。その卒業直前の昭和15年3月、治安維持法違反の疑いで検挙され(神戸詩人事件)、神戸橘拘置所などに18ケ月の長きにわたって拘禁された。昭和17年4月東京帝国大学文学部美学美術史学科に入学し児島喜久雄に師事する。自身が述べるように(「めぐりあい-児島喜久雄先生のこと-」)、町田の美術史学の基礎をなす方法論は、師からの多大な影響のもとに形成された。昭和19年9月、同大学同学科を卒業し大学院へ進み、昭和21年9月には大学院在籍のまま長尾美術館へ勤務する。昭和22年12月、『天平彫刻の典型』(座右宝刊行会)を出版。昭和23年10月から東京大学大学院特別研究生。昭和24年3月、病気により長尾美術館を退職。翌年4・5月には胸部成形手術をうけ、以後昭和27年夏まで療養生活が続く。昭和28年4月東京教育大学講師、翌年4月助教授となる。昭和30年4月、『東洋美術史要説』上巻(深井晋司と共著、吉川弘文館)を刊行。また、同年12月、薬師寺金堂薬師如来像の調査をおこない、その成果を『薬師寺』(実業之日本社、昭和35年5月刊)として上梓する(後の昭和59年には、同書の改訂版がグラフ社から刊行される)。昭和30年から美術史学会常任委員(昭和55年まで)。昭和39年インドマハーボディ・ソサエティの招きにより渡印。昭和41年訪中。昭和43年、東京教育大学教授。この間、お茶の水女子大学、学習院大学、武蔵野美術大学、明治大学、東京大学等で講師を勤める。『奈良六大寺大観』全14巻(岩波書店刊、第2巻法隆寺二・第3巻法隆寺三・第6巻薬師寺・第14巻西大寺責任編集)の刊行が、昭和43年より始まる(昭和48年完結)。同書は、町田が編集委員代表として推進し、建築・美術の写真・解説・文献を可能な限り網羅した奈良美術史・建築史研究の基本資料であり、その意義は今日なお失われていない。また、この企画は町田の意向によって若手を中心とする多くの研究者を結集して進められた点でも画期的なものであった。昭和49年4月、名古屋大学教授。昭和52年には武蔵野美術大学教授となり、同62年に同大学名誉教授となる。平成4年勲三等瑞宝章受章。
町田は、生涯一貫して、芸術としての仏像の追究に情熱を注ぎ続けた。その方法論は、リーグル、ヴォリンガー、あるいはヴェルフリンの理論に基づく自律的様式史観を前提としており、それを日本古代彫刻の様式区分論として展開させた一連の論考をあらわした(「上代彫刻史上における様式時期区分の問題」<『仏教芸術』38>他)。また、薬師寺移建・非移建問題においては様式論の観点から積極的に論陣を張り、天平「様式の父」としての金堂薬師寺三尊像の意義を繰り返し主張した。これらの論考は、論理性の希薄な従来の造形論から大きな飛躍を示し、その後の彫刻史研究に大きな影響を与えた。
その他、人・芸術・文化に対する想いや自伝的内容を綴った随筆も多数残し、『仏像の美しさに憑かれて』(保育社、1986)、『仏教美術に想う』(里文出版、1994)などに収載されている。また異色な著作に、自身の体験を基に太平洋戦争前夜の高校生活を描いた小説『鷲城下にかげる』(神保出版会、1994)がある。同書には詳細な年譜・著作目録が付されており、また町田甲一先生古希記念会論『論叢仏教美術史』(吉川弘文館、1986)の巻末には論文を含んだ主要著作目録がある。

○その他の主要編著書
<著書>
概説日本美術史 吉川弘文館 1965
日本古代彫刻史概説 中央公論美術出版 1974
東大寺法華堂の乾漆像(奈良の寺15) 岩波書店 1974
奈良古美術断章 有信堂 1975
大和古寺巡歴 有信堂 1976
上代彫刻史の研究 吉川弘文館 1977
古寺巡歴 保育社 1982
仏像イコノグラフィ(岩波グラフィックス8) 岩波書店 1983
南無仏陀-仏教美術の図像学- 保育社 1986
法隆寺(増訂新版) 時事通信社 1987
概説東洋美術史 国際書院 1989
仏の道-仏像の歩みの歴史と広がり- 同朋舎出版 1990
<編著>
芸術(中国文化叢書7)(鈴木敬と共著) 大修館書店 1971
市川市史1~7 吉川弘文館 1971~1974
奈良の寺1~21 岩波書店 1973~1975
大和古寺大観1~7(第1巻法隆寺・法輪寺・中宮寺責任編集) 岩波書店 1976~1978
日本美術小事典(永井信一と共編) 角川書店 1979

出 典:『日本美術年鑑』平成6年版(334-335頁)
登録日:2014年04月14日
更新日:2023年09月13日 (更新履歴)

引用の際は、クレジットを明記ください。
例)「町田甲一」『日本美術年鑑』平成6年版(334-335頁)
例)「町田甲一 日本美術年鑑所載物故者記事」(東京文化財研究所)https://www.tobunken.go.jp/materials/bukko/10496.html(閲覧日 2024-04-17)

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