奈良岡正夫
日展参与、示現会会長の洋画家奈良岡正夫は5月5日午前4時、肺炎のため東京都文京区の病院で死去した。享年100。堅実な描写力と対象への親密なまなざしによって独自の画風を確立した奈良岡は、1903(明治36)年6月15日、中津軽郡豊田村に生まれた。本名政雄。父は村役場職員と農業を兼業していた。1915(大正4)年中津軽郡外崎尋常小学校を卒業。18年中津軽郡玉成高等小学校を卒業。この頃からねぷた絵の制作に熱中するが、長男として生家の農業を継ぐことを期待されており、19年ころ画家を志して家出する。しかし、一年で連れ戻されて農業に従事。そのかたわら、22年棟方志功らが結成した青光社に参加し、絵画制作を続ける。25年画家を志して上京。本郷絵画研究所に入るが、そこでの指導と環境に満足できず、初日で退学。その後弁護士の書生、青果市場内の製氷問屋などで働き、生計を支えながら、独学で絵を学ぶ。1940(昭和15)年3月第36回太平洋画会展に「豊秋」で入選。これを皮切りに、特定の団体にこだわらず、数多くの団体展に出品して入選を続けるようになる。40年第12回第一美術協会展に「田賀風景」、第14回構造社展に「漁村」を出品。翌年第18回白日会展に「早春ノ山」、第9回旺玄会展に「湖畔晴日」「湖畔の春」「早春の山路」、第13回第一美術協会展に「新緑の里」、また、第3回現代美術協会展に「閑日」、第15回新構造社展に「二人の老人」で入選する。42年第19回白日会展に「提灯屋さん」、第38回太平洋画会展に「水に住む」、第29回光風会展に「けしの花」、第12回独立美術協会展に「訊問」「水に住む」、第10回東光会展に「勤労奉仕」、第14回第一美術協会展に「閑日」、第29回二科展に「征途」、第2回創元会展に「驢馬と子供」、第16回新構造社展に「網代風景」が入選。また、同年第6回大日本海洋美術展に「漁夫」、第2回大日本航空美術展に「飛行機ノお話」「防空壕」、第1回大東亜戦争美術展に「北方を護る人々」「弾丸を磨く」で入選する。43年第20回白日会展に「子供隣組」「巌峯進軍」を出品して佳作賞を受賞したほか、第39回太平洋画会展に「兎と子供」「古物商」「童心」「地引」で入賞し、褒賞受賞。また、第7回大日本海洋美術展に「漁夫」「地曳」を出品して大臣賞受賞。同年決戦美術展に「アッツ島上陸」で入選する。また、第3回大日本航空美術展に「救護(一)」「救護(二)」を出品し、「救護(一)」によって大日本航空美術協会賞を受賞。第2回大東亜美術戦争美術展に「突撃」を出品する。この年、陸軍省報道部派遣命令により、中支に派遣される。44年1月ソヴィエト満州国境に3ヶ月間、北支に3ヶ月間派遣される。同年、第40回太平洋画会展に「工場」を出品して同会会員となる。また、陸軍美術展に「兵隊と良民」「昭和18秋太岳作戦(勝兵団戦闘司令部)」、第8回大日本海洋美術展に「漁期に入る」を出品。45年陸軍作戦記録画展に出品。戦地から帰った際に牛や山羊ののどかな姿に打たれ、以後、これらを描き続ける。戦後、46年第1回日展に「牛宿」で入選。47年太平洋画会から分離独立して示現会が結成されるのに際し、創立会員として参加し、以後、日展とともに同会に出品を続ける。54年第10回日展に「山羊」を出品し特選を受賞。56年第12回日展に「山羊」を出品して再び特選を受賞、62年日展会員となる。64年から70年まで隔年で、東京日本橋三越で個展を開催所で個展を開催。69年6月渡欧。70年6月青森市松木屋で、同年11月弘前市青森銀行記念館で画業50年展を開催。この頃から、郷里の夏祭りねぷたを題材とした作品を多く制作するようになる。79年日展参与となり同年青森市民展示館で「画業60年展」、1991(平成3)年東京の銀座松屋で「米寿記念奈良岡正夫展」、青森市松木屋で「画業70年米寿記念展」を開催。94年示現会会長となり、同年11月青森市松木屋で「松木屋創立45周年記念特別企画 示現会会長就任記念奈良岡正夫個展」を開催。97年、洋画家中村彝を記念し、名利を求めず画業に精進する60歳以上の画家を顕彰する中村彝賞の第5回受賞者となる。99年茨城県近代美術館で「中村彝賞記念 変幻自在流 大沢昌助・じょっぱりの画人 奈良岡正夫展」が開催された。年譜、文献目録は同展図録に詳しい。2000年画業80年展を青森市で開催し、01年白寿記念展を三越本店にて開催した。「描く対象に対する愛情がなければ絵にはできない」と語り、子供をいつくしむ山羊や幼い頃から親しんだ郷里のねぷた祭を好んで描いた。生涯、納得のできる絵画を目指し、対象の再現的描写を基本とするが、タブローを描くにあたっては構図を知的に組み立てるなど、絵画の自立性を踏まえた制作をつづけた。
出 典:『日本美術年鑑』平成17年版(347-348頁)登録日:2014年10月27日
更新日:2023年09月13日 (更新履歴)
例)「奈良岡正夫」『日本美術年鑑』平成17年版(347-348頁)
例)「奈良岡正夫 日本美術年鑑所載物故者記事」(東京文化財研究所)https://www.tobunken.go.jp/materials/bukko/28295.html(閲覧日 2024-12-04)
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