六角鬼丈

没年月日:2019/01/12
分野:, (建)
読み:ろっかくきじょう

 建築家で東京藝術大学名誉教授の六角鬼丈は1月12日、病気療養中のところ東京都内の自宅で死去した。享年77。
 1941(昭和16)年6月22日、漆芸家の六角穎雄(号は大壌)の長男として東京市小石川区(現、文京区)に生まれる。本名は正廣。漆芸家で芸術院会員の六角紫水は祖父。都立武蔵丘高等学校を経て東京藝術大学美術学部建築科に進学、同科教授の吉村順三をはじめ、山本学治天野太郎、茂木計一郎らから建築設計の薫陶を受けた。
 65年に卒業、磯崎新アトリエに入り、ユーゴスラビアの「スコピエ都心再建計画」(1966年)や日本万博博覧会の「お祭り広場」(1970年)など壮大な規模の建築構想に携わるとともに、ミラノトリエンナーレ出品の「エレクトリックラビリンス」(1968年)に象徴される磯崎の前衛的な建築思想に関わった。68年、在籍中に手がけた「クレバスの家(自邸)」(1967年)が植田実編集の『都市住宅』(鹿島出版会)創刊号に掲載され、建築家としてデビューを果たす。69年に独立、「八卦ハウス(石黒邸)」(1970年)を発表し、脱近代を志向した新進の建築家として注目された。また設計事務所を営む傍ら、70年代に「自邸計画」と題した自己の内面を追究した概念的かつ個性的な住宅構想の連作を建築専門誌上で立て続けに発表して新世代の建築家の旗手としての頭角を現した。74年以降、生涯の作家名となる鬼丈を号する。
 78年、同世代の建築家3人(石山修武、毛綱毅曠、石井和紘)と「婆娑羅」と称する同人グループを結成、80年代にかけて「空環集住器(石河邸)」(1983年)や「樹根混住器(塚田邸)」(1980年、1984年)等、その名が示すとおり身体的感受性に依拠した設計理念と強烈な造形表現を特徴とする創作活動を精力的に展開した。また、この時期には「雑創の森学園」(1977年、1982年)、「金光教福岡高宮教会」(1980年)、「大雪山展望塔」(1984年)、「東京武道館」(1989年)等大型の教育・文化施設を手がけ、当時全盛を迎えつつあったポストモダニズムの建築家の中心的な存在と目されるようになった。中でも「東京武道館」は、設計競技から完成まで5年を費やした労作であるとともに、武道を藝術になぞらえて、水墨画に通じる「雲海山人」と五輪書(宮本武蔵)から着想した「地水火風空」の二語を設計理念に据え、造形的には刀装や家紋を想起させる菱形を構成単位として丹念にまとめ上げた、六角の創作活動の前半を締めくくる重要な作品である。
 85年以降、理念的な下地となる東洋思想的な観念と自身が抱える二律背反の〓藤をかけて、自らの創作の姿勢を「新鬼流八道(ジキルハイド)」と称する。
 1991(平成3)年、茂木計一郎の退職を受けて母校の教授に着任、同年に開設された取手キャンパス整備の掉尾を飾る「東京藝術大学大学美術館取手館」(1994年)、また上野キャンパスの「東京藝術大学大学美術館本館」(1999年)の設計を手がけるとともに上野キャンパス再編計画の立案に携わり、在職中を通じて同キャンパスの再整備に尽力した。2004年に美術学部長となり、09年に定年退職。教育者としても少数精鋭の学校ならではの濃密な設計指導で手腕を発揮し、大学院の同研究室からは中村竜治、西澤徹夫、宮崎晃吉、中川エリカら、現在多彩な活躍をみせる若手建築家を輩出した。
 91年以降、建築家としては「知る区ロード杉並」(1993年)、「立山博物館まんだら遊苑」(1995年)、「感覚ミュージアム」(2000年)等、五感に訴えることを主題とした公園規模の作品に軸足を移す。00年に清華大学客員教授、藝大退職後の09年に北京中央美術学院特任教授に着任し、都市計画規模のプロジェクトを立ち上げるなど中国へも活躍の場を広げた。
 79年「雑創の森学園」で吉田五十八賞、91年「東京武道館」で日本建築学会賞作品賞を受賞。作家論・作品集に『日本の建築家3 六角鬼丈 奇の力』(丸善出版、1985年)、『現代建築 空間と方法25 六角鬼丈』(同朋舎出版、1986年)、著作に『新鬼流八道ジキルハイド―叛モダニズム独話』(住まいの図書館出版局、1990年)がある。

出 典:『日本美術年鑑』令和2年版(477-478頁)
登録日:2023年09月13日
更新日:2023年09月13日 (更新履歴)

引用の際は、クレジットを明記ください。
例)「六角鬼丈」『日本美術年鑑』令和2年版(477-478頁)
例)「六角鬼丈 日本美術年鑑所載物故者記事」(東京文化財研究所)https://www.tobunken.go.jp/materials/bukko/2040906.html(閲覧日 2024-04-28)

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