岡崎譲治
大阪市立美術館長、文化財保護審議委員会専門委員岡崎譲治は、3月31日午後8時29分、食道がんのため大阪市立大学付属病院で死去。享年60。大正14年3月24日、福岡県八幡市に生まれる。九州専門学校法政科をへて昭和22年、九州帝国大学文学部に入学、故矢崎義盛・谷口鉄雄(現石橋美術館長)のもとで日本美術史を専攻、昭和25年3月、卒業論文に「雪舟研究」を提出し九州大学文学部を卒業、同年4月より九州大学大学院特別研究生となり、あわせて昭和28年4月より29年3月まで福岡女子大学講師を勤めた。昭和29年8月、奈良国立博物館学芸課に勤務し、以後昭和36年4月より同工芸室長、昭和47年4月より同学芸課長を歴任し昭和52年3月退官。同年4月より大阪市立美術館長に転じ、8年間館長の要職にあった。
奈良国立博物館に勤務後は、仏教考古学・仏教金工史の権威であった故石田茂作・蔵田蔵両館長のもとで仏教工芸、とくに金工品を専門とし、奈良国立博物館における「天平地宝展」(昭和35年4月-5月)「神仏融合美術展」(昭和37年4月-5月)「密教法具展」(昭和39年4月-5月)「大陸伝来仏教美術展」(昭和41年4月-5月)などの特別展開催に参画した。とくに中心となって企画運営にあたった「密教法具展」は、この分野の調査研究を集大成したもので、昭和45年、623点の作品に詳細な解説をのせて上梓した『密教法具』は、学会の大きな評価をえている。
大阪市立美術館にあっては、館長として同館の設備刷新・コレクションの充実をはかり、安宅・山口・カザールなどの著名なコレクションを散逸の危機からすくい、大阪市の公共財産として活用するために尽力した。
昭和57年には、文化財保護審議委員会第一専門調査会専門委員に任命され、豊かな知見をもとに文化財行政の指導助言にあたる一方、長らく『大和文化研究』の編集を担当し、さらに美術史学会、密教図像学会、『仏教芸術』の委員をつとめ、学会の発展に寄与した。
論文には、はやくに「筑紫観世音寺の大黒天」があり、奈良の主要寺院を中心とする仏教工芸に関する調査研究の成果を、昭和33年の「宋人大工陳和卿伝」をはじめとする専門各誌の諸論文、『奈良六大寺大観』『大和古寺大観』などに発表した。代表する論文に「種字鈴考-金剛界鈴と胎蔵界鈴-」「仏像鈴所顕の五大明王像-円珍請来図像との関連-」などがある。現存作品の実証にもとづく厳格な型式の分析・分類にくわえ、密教図像学の方法を応用して詳細な図像の異同をはかり、精密な作品の編年をあとづける一連の研究は、仏教工芸史の新しい展開をみちびいた。
また、監修・執筆にあたった『仏具大事典』は、研究者必須の手引書となっている。ほかに仏教美術全般についての深い知見をもとにした『浄土教画』がある。
主要著作目録
筑紫観世音寺の大黒天 哲学年報 14 昭和28年2月
宋人大工陳和卿伝 美術史 30 昭和33年9月
長谷寺の金工品 大和文化研究 5-2 昭和35年2月
資料・東大寺工芸品目録 大和文化研究 5-7 昭和35年7月
先生の青丘遺文に出る高麗佐波理鋺 大和文化研究 6-3 昭和36年3月
正倉院のいわゆる(鉗)について 奈良時代の箸試論 大和文化研究 7-10 昭和37年10月
東大寺の工芸 近畿日本叢書『東大寺』 近畿日本鉄道 昭和38年11月
熱田神宮本地懸仏など(大興寺蔵) 大和文化研究 9-1 昭和39年1月
密教法具 図版解説 『密教法具』 講談社 昭和40年9月
仏像鈴所顕の五大明王像-円珍請来図像との関連- 美術史 61 昭和41年6月
密教法具と舎利納入 大和文化研究 11-6 昭和41年6月
西大寺の金工品 仏教芸術 62 昭和41年10月
鹿島市誕生院の四天王鈴 大和文化研究 12-8 昭和42年8月
舎利容器・密教法具・金剛盤<唐招題寺> 『奈良六大寺大観』 第12巻 岩波書店 昭和44年2月
種子鈴考 金剛界鈴と胎蔵界鈴 仏教芸術 71 昭和44年7月
華原馨・梵鐘・泗浜浮馨・舎利厨子<興福寺> 『奈良六大寺大観』 第7巻 岩波書店 昭和44年7月
浄土教画 『日本の美術』 43 至文堂 昭和44年12月
黒漆螺鈿卓・五獅子如意・玳瑁如意・鉦鼓(長承三年・建久九年)・仏餉鉢・鏡<東大寺>『奈良六大寺大観』第9巻 岩波書店 昭和45年4月
表紙解説 舎利容器 パリ・ギメ美術館蔵 仏教芸術 75 昭和45年5月
銭弘俶八万四千塔考 仏教芸術 76 昭和45年7月
神門神社鏡とその同文様鏡について 大和文化研究 5-9 昭和45年9月
水瓶(胡面水瓶)・黒漆布薩手洗・黒漆布薩花器・水瓶・密教法具・花瓶・六器・火舎・香炉・柄香炉・鐃・黒漆漆箱<法隆寺> 『奈良六大寺大観』 第5巻 岩波書店 昭和46年9月
九州の懸仏-北部九州の群集遺品を中心に- MUSEUM 269 昭和48年4月
金銅宝塔(壇塔)・鉄宝塔・五瓶舎利・透彫舎利塔・舎利塔(伝亀山天皇勅封)・舎利塔(伝叡尊感得)・密教法具・梵鐘(本堂)・打鳴し・水瓶・餝剣・犀角刀子<西大寺> 『奈良六大寺大観』 第14巻 岩波書店 昭和48年5月
対馬・壱岐の金工品 仏教芸術 95 昭和49年3月
重源関係の工芸品 仏教芸術 105 昭和51年1月
両部大壇具・大神宮御正体<室生寺> 『大和古寺大観』 第6巻 岩波書店 昭和51年9月
仏具の種類と変遷 荘厳具、密教法具 新版『仏教考古学講座』 第5巻 雄山閣 昭和51年12月
梵鐘・手錫杖・孔雀鳳凰文馨<新薬師寺>礼盤<円成寺> 『大和古寺大観』 第4巻 岩波書店 昭和52年2月
厨子入舎利塔<般若寺> 『大和古寺大観』 第3巻 岩波書店 昭和52年6月
竜鬢褥・錫杖頭・鐃・宝塔文馨・胡蝶散文鏡・宝印<法輪寺>・阿弥陀三尊来迎図<中宮寺> 『大和古寺大観』 第1巻 岩波書店 昭和52年10月
興福寺の国宝華原磐 MUSEUM 323 昭和53年2月
舎利塔、鏡鑑・鏡像・懸仏、供養具、梵音貝、密教法具、諸具 『奈良市史』 工芸編 昭和53年3月
舎利塔、舎利容器、仏具 文化財講座 『日本の美術』 第9巻 第一法規出版 昭和53年3月
五鈷鈴・五鈷杵・桶形香炉・釣灯篭・鰐口<法華寺>・舎利塔<海龍王寺>・舎利厨子・<不退寺> 『大和古寺大観』 第5巻 岩波書店 昭和53年3月
河内飛鳥の仏教工芸 仏教芸術 119 昭和53年8月
梵鐘<海住山寺>・鰐口<浄瑠璃寺> 『大和古寺大観』 第7巻 岩波書店 昭和53年8月
対馬の金工 『対馬の美術』西日本文化協会 昭和53年11月
三尊仏(鎚鍱)(奥院)・梵鐘・梵鐘(護念院)<当麻寺> 『大和古寺大観』 第2巻 岩波書店 昭和53年12月
二月堂修二会用具 『東大寺二月堂修二会の研究』 中央公論美術出版 昭和54年1月
修験道山伏笈概説 MUSEUM 347 昭和55年2月
天平時代の美術-東大寺・正倉院の工芸を中心に- 『日本古寺美術全集』 第4巻 集英社 昭和55年11月
『仏具大事典』 鎌倉新書 昭和57年9月
資料紹介 高貴寺の金銅三昧耶五鈷鈴 美術史 114 昭和58年5月
仏像を表現する金剛鈴の展開 MUSEUM 392 昭和58年11月
工芸 図版解説 『春日大社』 大阪書籍 昭和59年5月
東大寺鎌倉期の工芸 南都仏教 39 昭和59年11月
密教法具 『密教美術大観』 第4巻 朝日新聞社 昭和59年11月
登録日:2014年04月14日
更新日:2023年09月13日 (更新履歴)
例)「岡崎譲治」『日本美術年鑑』昭和61年版(250頁)
例)「岡崎譲治 日本美術年鑑所載物故者記事」(東京文化財研究所)https://www.tobunken.go.jp/materials/bukko/10214.html(閲覧日 2024-10-10)
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