杉本貴志

没年月日:2018/04/05
分野:, (デ)
読み:すぎもとたかし

 インテリアデザイナーの杉本貴志は4月5日、心不全のため死去した。享年73。
 1945(昭和20)年3月31日、東京、中野生まれ。軍事関係の仕事をしていた父、母、姉二人の5人家族であった。戦時中、一度高知に疎開するが、戦後に帰京、68年に東京芸術大学美術学部工芸科を卒業。幼少期から剣道を習っており大学卒業後、一時期は調布警察署で剣道を教えていた。72年にファッションデザイナー、山本耀司による初めてのアパレルショップ「ワイズ」の内装、バー「ラジオ」の内装を手掛けた。「ラジオ」は、杉本が大学在学中に通っていたジャズ喫茶の店員だった尾崎浩司が独立して開いた店である。82年に改装後、円弧の連なりを描くように設置された照明が印象的な内装となった。重厚感のあるカウンターは彫刻家、若林奮によるもの。以後もパシュラボ(1983年)やビーイン(1984年)で同作家と協働で内装を手がけている。73年に設計会社「スーパーポテト」を設立。75年にはグラフィックデザイナー、田中一光と共に西武百貨店の環境計画に参加し、西武セゾングループのデザインディレクターとして、国内の店舗の立ち上げを行った。80年には代表的な仕事のひとつである無印良品の創立にも参加し、ブランドの思想構築から店舗の内装設計まで関わった。このプロジェクトで杉本が大事にしたのが「空間の感性」である。時代の持つ空気感を反映しながら、店舗空間自体がある種のイメージを発信できるような店づくりを試みた。そこで鍵となったのが素材選びである。人間のコントロールが及ばない素材の経年変化に面白みを見出し、1店舗目の青山店では、古民家の廃材を再利用した木、錆びた鉄板、古い工場にあった劣化したレンガなどを用いた。後に自著のタイトルにも採用した「無作為の作為」という考えをここに見ることができ、自身の創作にとって重要な言葉であったことが分かる。86年には自身が内装を手掛けた飲食店「春秋」の経営を始める。2店舗目としてオープンした春秋赤坂展(現在、閉店)では、陶芸作家、辻清明に店で使う器の作陶を依頼するなど、空間だけでなく、総合的な食体験を提供するレストランを目指した。90年代にグランドハイアットシンガポールのレストラン「Mezza9」の内装を手掛けたことがきっかけで海外での仕事が増加。その後、パークハイアット・ソウル、ハイアットリージェンシー・京都など、国内外のハイアットホテルの内装に加え、シャングリラ、ザ・リッツ・カールトンなど世界展開をしているホテルのインテリアも手がけた。そのほかの代表作に銀座グラフィックギャラリー(1986年)や成田ゴルフクラブ(1989年)、レストラン「響」(1998―2002年)、妙見石原荘(2007年)などのインテリアがある。
 裏千家の伊住政和を中心にデザイナーやアーティストたちが集って茶の湯を楽しむ会「茶美会」のメンバーとして原宿クエストホールで開催された1992(平成4)年「茶美会・然」に茶室「立礼」、93年「茶美会・素」に茶室「素」を出展。2003年にはミラノサローネで行われた「MUJI Exhibition」に参加。08年にギャラリー間で個展「杉本貴志」展を開催し、水の茶室と鉄の茶室を展示した。
 85年から09年までTOTOが運営するギャラリー間の運営委員として、展覧会の企画に携わった。92年から11年まで武蔵野美術大学造形学部空間演出デザイン学科の教授として後身の教育に従事。
 受賞歴
 1985年 ‘84年毎日デザイン賞 受賞
 1985年 ‘85年インテリア設計協会 受賞
 1986年 ‘85年毎日デザイン賞 受賞
 2001年 Restaurant Design of the Year 受賞
 2001年 国土交通大臣賞 受賞
 2007年 第1回 KU/KAN賞 受賞
 2008年 Interior Design Magazine Hall of Fame Awards 2008
 著書は以下のとおり
 『交感スルデザイン』(共著、六耀社、1985年)
 『春秋』(TUTTLE PUBLISHING、2004年)
 『杉本貴志のデザイン発想・発酵』(TOTO出版、2010年)
 『無為のデザイン』(TOTO出版、2011年)
 『Super Potato Design:The Complete Works of Takashi Sugimoto』(TUTTLE PUBLISHING、2015年)
 『A life with MUJI』(無印良品、2018年)

出 典:『日本美術年鑑』令和元年版(503-504頁)
登録日:2022年08月16日
更新日:2023年09月13日 (更新履歴)

引用の際は、クレジットを明記ください。
例)「杉本貴志」『日本美術年鑑』令和元年版(503-504頁)
例)「杉本貴志 日本美術年鑑所載物故者記事」(東京文化財研究所)https://www.tobunken.go.jp/materials/bukko/995671.html(閲覧日 2024-03-29)

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