鬼原俊枝

没年月日:2017/09/04
分野:, (学)
読み:きはらとしえ

 日本絵画史研究者の鬼原俊枝は9月4日、大腸癌のため、兵庫県神戸市の病院で死去した。享年65。
 1953(昭和28)年9月2日、兵庫県に生まれる。72年兵庫県立兵庫高等学校を卒業し、72年立命館大学文学部へ入学。76年同大学を卒業し、その後、79年大阪大学文学部美学科美術史学専攻へ3年次編入学、81年同大学を卒業し、楠本賞を受賞。同年同大学院文学研究科前期課程芸術学専攻へ進学。83年から1年間ハーヴァード大学へ留学し、85年に大阪大学大学院へ修士論文「「比叡山三塔図」〓風に関する一考察」を提出し、前期課程を修了。86年から福井県立美術館学芸員として勤務し、88年同館を退職。1990(平成2)年大阪大学大学院文学研究科後期課程芸術学を単位取得退学し、93年同大学院へ博士論文「探幽様式の成立」を提出。同年よりプリンストン大学客員講師を務める。94年大阪大学で博士(文学)の学位を取得し、95年より文化庁美術工芸課文化財調査官として勤務。98年『幽微の探究 狩野探幽論』(大阪大学出版会、1998年)で第10回國華賞を受賞し、翌99年には島田賞を受賞。その後、文化庁で16年間勤め、2011年に文化庁を退職。同年より京都国立博物館列品管理室長として勤務し、14年に定年退職、その後も再雇用で同館での勤務を続け、15年3月再雇用任期満了につき退職する。
 専門分野は、大阪大学へ提出した博士論文や、國華賞を受賞した『幽微の探究 狩野探幽論』に代表されるとおり、狩野探幽や江戸時代絵画史を中心としたが、文化庁での勤務以降は、文化財指定に関わった作品研究も多く、その範囲は広く絵画史全般に及んだ。とりわけ、文化庁や京都国立博物館では、数多くの国宝や重要文化財の修理を指導監督し、同庁や東京文化財研究所で長年文化財保護行政にたずさわった渡邊明義の理念を継承して、文化財の保存や修理の記録を美術史研究に積極的に取り入れた点は重要な業績である。こうした文化財修理への高い関心は、修理に対する厳しく真摯なまなざしへとつながったが、その背景には、阪神大震災の直前に文化庁へ入庁し、東日本大震災の直後に文化庁を退職するなど、自然災害から文化財を保存する必要性を如実に実感してきた経験や、高松塚古墳壁画の問題に直面してきたという経緯もあろうか。
 一方、ハーヴァード大学へ一年間留学したり、プリンストン大学で客員講師を勤めた経験から、海外との交流にも意欲的で、福井県立美術館の学芸員として担当した展覧会では、アメリカのサンフランシスコ・アジア美術館から日本の〓風の里帰り展を企画したほか、文化庁の海外展に果たした功績も大きい。フリア美術館などが世界中から優れた東洋美術史研究者を選んで二年に一度表彰する島田賞の受賞も、国際的な活躍を顕著に物語る。
 もちろん、国内でも「遠澤と探幽―会津藩御抱絵師加藤遠澤の芸術―」(福島県立博物館、1998年1月~3月)や、「開館記念特別展 上杉家の至宝」(米沢市上杉博物館、2001年9月~11月)、「生誕400年記念 狩野探幽展」(東京都美術館、日本経済新聞社、2002年10月~12月)、「徒然草 美術で楽しむ古典文学」(サントリー美術館、2014年6月~7月)、「国宝 鳥獣戯画と高山寺」(京都国立博物館、2014年10月~11月)などの図録に論考を寄せるなど、展覧会への関与も多い。
 なお、主要な業績には、著作の『幽微の探究 狩野探幽論』のほか、「伝狩野宗秀筆「韃靼人狩猟・打毬図」〓風について」(『MUSEUM』450、1988年)、「天台宗儀礼における座の〓風」(『待兼山論叢』23、大阪大学文学部、1989年)、「長谷川等伯筆 山水図〓風」(『國華』1130、1990年)、「狩野探幽筆「学古帖」と流書手鑑」(武田恒夫先生古稀記念会編『美術史の断面』清文堂出版、1995年)、「狩野探幽の水墨画におけるふたつのヴィジョン」(『美術史』137、1995年)、「旧円満院宸殿障壁画中の探幽画と画風変革開始の時期」(『國華』1284、2002年)、「南禅寺大方丈障壁画の修理から―柳に椿図襖の図様改変について―」(『月刊文化財』476、2003年)、「平成十五年度海外展報告 オーストラリアにおける日本美術展「日本美術における四季展」―日本の四季を異文化に伝える―」(『月刊文化財』487、2004年)、「国宝出山釈〓図・雪景山水図三幅対と「道有」の鑑蔵印について」(『月刊文化財』525、2007年)、「特集 高松塚古墳レポート―石室の解体事業― 壁画の修理にあたって」(『月刊文化財』532、2008年)、「南蛮屏風と阪神大震災」(『京都国立博物館だより』174、2012年)、「彭城百川旧慈門院障壁画と雪竹図襖について」(『学叢』35、京都国立博物館、2013年)、「国宝「鳥獣人物戯画」の保存修理―文化財保存、及び美術史的観点から」(高山寺監修・京都国立博物館編『鳥獣戯画 修理から見えてきた世界―国宝 鳥獣人物戯画修理報告書―』勉誠出版、2016年)などがある。

出 典:『日本美術年鑑』平成30年版(452-453頁)
登録日:2020年12月11日
更新日:2023年09月13日 (更新履歴)

引用の際は、クレジットを明記ください。
例)「鬼原俊枝」『日本美術年鑑』平成30年版(452-453頁)
例)「鬼原俊枝 日本美術年鑑所載物故者記事」(東京文化財研究所)https://www.tobunken.go.jp/materials/bukko/824321.html(閲覧日 2024-05-26)

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