富山治夫
写真家の富山治夫は10月15日、肺がんのため死去した。享年81。
1935(昭和10)年2月25日、東京市神田区(現、東京都千代田区)に生まれる。中学卒業後すぐに働き始め、のち都立小石川高校定時制に学ぶが57年に中退。独学で写真技術を習得し、60年『女性自身』誌の嘱託写真家となる。その後朝日新聞出版写真部に移り、嘱託としてさまざまな撮影に従事。64年から『朝日ジャーナル』誌上で連載の始まった「現代語感」の写真を担当。世相を反映した新聞等の記事の見出しから選ばれた漢字二文字の言葉をテーマに、大江健三郎や安倍公房らが担当したエッセーと写真とによる社会時評で、富山はこの連載に発表した写真により評価を高め、65年第9回日本写真批評家協会賞新人賞を受賞した。また66年「現代写真の10人」展(国立近代美術館、東京)にも同作を出品。この年にフリーランスとなり、以後、国内外でさまざまな取材撮影を行う。それらの成果は主に雑誌、新聞等に発表された他、写真集としてまとめられたものも多い。その主なものに、『現代語感』(中央公論社、1971年)、『人間革命の記録』(写真評論社、1973年、石元泰博との共著)、『佐渡島』(朝日新聞社、1979年)、『京劇』(全2巻、平凡社、1980年、杉浦康平他との共著)、『禅修行』(曹洞宗宗務庁、2002年)、『現代語感 OUR DAY』(講談社、2004年)などがある。
同時代の社会への批評的な視点にもとづく「現代語感」シリーズはライフワークとして続けられ、78年には個展「JAPAN TODAY 現代語感」(インターナショナル・センター・オブ・フォトグラフィー、ニューヨーク)を開催、90年代には『月刊現代』(講談社)に「新・現代語感」を連載、2008(平成20)年には個展「現代語感OUR DAY:1960―2008」(JCIIフォトサロン、東京)が開催された。その一方で、地方の風土や伝統文化を主題にとりくまれた作品への評価も高く、第9回講談社出版文化賞(1978年、『日本カメラ』連載の「佐渡」に対し)、第30回日本写真協会賞年度賞(1980年、写真集『佐渡島』に対し)、芸術選奨文部大臣新人賞(1981年、写真集『京劇』に対し)などの受賞がある。佐渡の長期取材を通して同地で昭和初期に活動した写真家近藤福男のガラス乾板に出会い、それらをもとに編纂した写真集『近藤福雄写真集:佐渡万華鏡:1917―1945』(郷土出版社、1994年)を出版、同書により第45回日本写真協会賞文化振興賞(1995年、財団法人佐渡博物館と共同受賞)を受賞した。また一連の功績に対し、03年に紫綬褒章、12年に旭日小綬章を受章した。
登録日:2019年10月17日
更新日:2023年09月13日 (更新履歴)
例)「富山治夫」『日本美術年鑑』平成29年版(556-557頁)
例)「富山治夫 日本美術年鑑所載物故者記事」(東京文化財研究所)https://www.tobunken.go.jp/materials/bukko/818841.html(閲覧日 2024-12-04)
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