山本正男

没年月日:2007/10/10
分野:, (学)
読み:やまもとまさお

 元東京芸術大学長、元沖縄県立芸術大学長で、美学研究者であった山本正男は10月10日、急性肺炎のため神奈川県逗子市の病院で死去した。享年95。1912(明治45)年1月12日、長野県長野市に生まれる。1930(昭和5)年4月、第三高等学校文科乙類に入学。33年4月、東京帝国大学文学部美学美術史学科(美学専攻)に入学、同級生に西洋美術史研究者となった摩寿意善郎がいた。36年3月、同大学卒業、卒業論文は「アリストテレスのテクネーについて」。38年3月、同大学大学院修了。40年4月、文学部副手に採用され、大西克礼教授の美学研究室に勤務することとなった。戦中期には、勤労動員の学生の引率出張をしながらも、文学部における研究課題「明治文化の総合研究」において「明治時代の美学思想」を担当した。47年、同大学文学部助手となる。49年大西教授退官後、竹内敏雄助教授が後継となる。同年、全国規模の美学会設立にあたり、その準備に参加し京都にて発会式をかねた総会を迎えた。50年4月、横浜国立大学助教授に就任。また同年より東京文理科大学(後年の東京教育大学)講師に併任され、同大学哲学科の下村寅太郎主任教授の薫陶を受ける。同大学在任中の53年、戦中期からはじめた明治期の美学思想研究を「明治時代の美学思想」(『国華』722、726、727、729号)と題して発表した。同論文は、移入された学問として美学を歴史的に検証した先駆的な論文であった。また54年、『美の思索』(美術出版社)を刊行した。同書は、美学の啓蒙書であるばかりでなく、学術的、論理的な考察が戦後の美学研究のなかで高く評価されている。58年には、「東西芸術の比較方法」(『国華』793、794号)を発表、同論文からは後年の「比較芸術学」確立にむけた関心の萌芽を読みとることができる。62年、学位論文「芸術史の哲学」を東京教育大学に提出、文学博士号を取得し、同論文をもとに『芸術史の哲学』(美術出版社)を刊行。65年、『東西の芸術精神の伝統と交流』(理想社)を刊行、同年10月、東京芸術大学教授に転じた。66年、編著『現代の芸術教育』(三彩社)を刊行。71年、『美学への道』(理想社)を刊行。73年、改訂増補版として『美の思索』(美術出版社)を刊行。74年、東京芸術大学美術学部の美学研究室を中心に国際研究交流の成果として『比較芸術学研究』全6巻の刊行を開始した。完結した80年までに、第1巻「芸術と人間像」、2巻「芸術と美意識」、3巻「芸術と宗教」、4巻「芸術と様式」、5巻「芸術と表現」、6巻「芸術とジャンル」からなる同論文集の監修にあたり、国内外の多数の美術史、美学研究者の寄稿を仰ぎ、新しい美学の研究領域の確立を図ることとなった。その間の77年に同大学美術学部長に選任された。79年に同大学を退官、同大学名誉教授となる。同年12月、同大学の学長に選出され、85年までその任にあった。82年、美学会の会長代行となる。86年4月、創設された沖縄県立芸術大学の初代学長となる。また同年、長野県信濃美術館長を委嘱された。同年、『芸術の森の中で』(玉川大学出版部)を刊行。さらに『生活美学への道』(勁草書房、1997年)では、「東西の風景画と東山芸術」、「現代と生活の美学」等において、東西芸術の比較と現代における芸術を視野に入れながら、新たに「生の場に立ち戻って、機能・生態重視の生活美学」を提唱した。また、『芸術の美と類型―美学講義集』(スカイドア、2000年)では、その序文において、自らの半世紀に及ぶ美学研究をふりかえりながら、現代における美学の学術的な展望をつづっているので、その一節をつぎに引用しておきたい。「わたくしは我が国美学の世代史からすれば、まさに講壇美学の時代に教育を受け、大戦後の大学改革の中に、新たな人間性開示の教養美学を芸術実践の場に展開すべく務めてきた一人である。しかしそれから半世紀の時代の進展は激しく、国際的な芸術・芸術文化の影響とともに、終戦後の教養美学の『世代』もすでに転回を示し、美や芸術の問題関心は、その文化的・社会的機能へと移った。それはもはや環境美学とも称すべき新世代を生みつつある。この『講義集』がかつての教養美学の『世代』を語る資料として、我が国での美学史的反省に与り得ればまことに幸いである。」(なお、故人の経歴については、同書巻末の「筆者 略年譜」を参照した)常に現代に開かれた美学、芸術学を目ざそうとした学究として、同時に多くの学生が深い薫陶を受けていることからも、慈愛あふれる優れた教育者として、実に誠実に研究と教育に向き合った生涯であったといえる。

出 典:『日本美術年鑑』平成20年版(387-388頁)
登録日:2014年10月27日
更新日:2023年09月13日 (更新履歴)

引用の際は、クレジットを明記ください。
例)「山本正男」『日本美術年鑑』平成20年版(387-388頁)
例)「山本正男 日本美術年鑑所載物故者記事」(東京文化財研究所)https://www.tobunken.go.jp/materials/bukko/28400.html(閲覧日 2024-03-29)

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