小川裕充

没年月日:2019/12/28
分野:, (学)
読み:おがわひろみつ

 東京大学東洋文化研究所名誉教授および國華編輯委員の小川裕充は12月28日に死去した。享年71。
 小川は1948(昭和23)年10月、大阪市に生。77年、東京大学大学院人文科学研究科博士課程(美術史学専攻)を中退し、79年より東京大学東洋文化研究所助手、82年に東北大学文学部助教授となり、87年、東京大学東洋文化研究所に助教授として赴任した。1992(平成4)年に同研究所教授となり、2013年の定年退官まで教鞭をとった。その間、ハイデルベルク大学藝術史研究所客員教授(1990年)、北京日本学研究センター客員教授(1993年)、美術史学会代表委員(2000~03年)、東方学会理事(2003~09年)等を務めた。13年、東京大学名誉教授。
 その業績は多岐に亘るが、まず斯学のプラットホームの構築と言える『中国絵画総合図録』出版(東京大学出版会 正編1982・83年、続編1998~2001年、三編2013~20年)における貢献を挙げるべきであろう。正編では学生として調査に参加、実際の編輯業務に従事し、続編では助教授として調査隊を指揮、出版に至るまで中心的な役割を果たし、三編では調査隊を編成、出版の道筋をつけた。その意味で、小川がいなければ刊行は継続しなかった、と言っても過言ではない。
 個人の研究としては、中国絵画研究においては「唐宋山水画史におけるイマジネーション 溌墨から「早春図」「瀟湘臥遊図巻」まで(上・中・下)」(『國華』1034~1036、1980年)、「雲山図論 米友仁「雲山図巻」(クリーブランド美術館)について」(『東京大学東洋文化研究所紀要』86、1981年)、「院中の名画 董羽・巨然・燕粛から郭煕まで」(『鈴木敬先生還暦記念 中国絵画史論集』吉川弘文館、1981年)、「中国花鳥画の時空 花鳥画から花卉雑画へ」(『花鳥画の世界10 中国の花鳥画と日本』学習研究社、1983年)、「牧谿 古典主義の変容(上)」(『美術史論叢』4、1988年)、「相国寺蔵 文正筆 鳴鶴図(対幅)(上・中・下)」(『國華』1166・1181・1182、1993・94年)、「宋元山水画における構成の伝承」(『美術史論叢』13、1997年)、「中国山水画の透視遠近法 郭熙のそれを中心に」(『美術史論叢』19、2003年)、「五代・北宋絵画の透視遠近法 伝統中国絵画の規範」(『美術史論叢』25、2009年)、「中国山水画の透視遠近法 燕文貴のそれの成立まで」(『美術史論叢』26、2010年)等宋代絵画を中心に大きな成果を上げている。
 東アジアの視点からそれを拡げたものとして、「雲山図論続稿 米友仁「雲山図巻」(クリーヴランド美術館)とその系譜(上・下)」(『國華』1096・1097、1986年)、「大仙院方丈襖絵考 方丈襖絵の全体計画と東洋障壁画史に占めるその史的位置(上・中・下)」(『國華』1120~1122、1989年)、「泉涌寺蔵 俊律師・南山大師・大智律師像(三幅) 東洋絵画における連幅表現の問題1」(山根有三先生古稀記念会編『日本絵画史の研究』吉川弘文館、1989年)、「薛稷六鶴図屏風考 正倉院南倉宝物漆櫃に描かれた草木鶴図について」(『東京大学東洋文化研究所紀要』117、1992年)、「黄筌六鶴図壁画とその系譜 薛稷・黄筌・黄居〓から庫倫旗一号遼墓仙鶴図壁画を経て徽宗・趙伯・牧谿・王振鵬、浙派・雪舟・狩野派まで(上・下)」(『國華』1165・1297、1992・2003年)、「山水・風俗・説話 唐宋元代中国絵画の日本への影響 (伝)喬仲常「後赤壁賦図巻」と「信貴山縁起絵巻」とを中心に」(『日中文化交流史叢書[7]芸術』大修館書店、1997年)、「北宋時代の神御殿と宋太祖・仁宗坐像について その東アジア世界的普遍性」(『國華』1255、2000年)等があり、中国のみならず韓国・日本絵画を捉え直すことを促し、東アジア絵画史研究の可能性を切り開いた(「東アジア美術史の可能性」『美術史論叢』27、2011年)。
 これらの集大成と呼ぶべきものが09年第21回國華賞を受賞した『臥遊 中国山水画 その世界』(中央公論美術出版、2008年)であり、巨視的な観点から中国山水画の展開を新たに提示し、さらに日本・西洋などの絵画をも射程に収めることで、東アジア、さらに世界美術史における中国絵画の位置をも示すことを試みている。

出 典:『日本美術年鑑』令和2年版(505-506頁)
登録日:2023年09月13日
更新日:2023年09月13日 (更新履歴)

引用の際は、クレジットを明記ください。
例)「小川裕充」『日本美術年鑑』令和2年版(505-506頁)
例)「小川裕充 日本美術年鑑所載物故者記事」(東京文化財研究所)https://www.tobunken.go.jp/materials/bukko/2041131.html(閲覧日 2024-04-29)

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