太田儔

没年月日:2019/11/18
分野:, (工)
読み:おおたひとし

 漆芸家の太田儔は、11月18日、肺炎のため死去した。享年88。
 1931(昭和6)年5月4日、岡山県吉備郡(現、岡山市)に生まれる。44年、岡山市第一工業学校(現、岡山県立岡山工業高等学校)木材工芸科に入学。「描き蒟醤」の技法を創案した漆芸家の難波仁斎に出会い、絵画と塗装について指導を受ける。52年、岡山大学教育学部特設美術科開設のため講習に来ていた、漆芸家の磯井如真の技術補助者となる。翌53年、岡山大学教育学部工芸教室技術補助員となる。同大学教授となった磯井如真の内弟子となり、11年間漆芸を学ぶ。55年、初版が刊行された『広辞苑』の「蒟醤塗」の項に、籃胎についての記述を発見し、衝撃を受ける。この頃から籃胎についての研究を始める。57年、第7回関西総合美術展に「乾漆花瓶 からたち」を出品し、入選。60年、岡山大学教育学部特設美術科を卒業し、岡山市立岡北中学校の美術教諭となる。61年、高松市に居を移し、高松市立屋島中学校美術教諭となる。62年、第27回香川県美術展覧会の彫塑部門に「起ツ」を出品し、香川県教育委員会奨励賞を受賞。第5回日本工芸会四国支部展に出品した「彫漆 硯筥」が優秀賞を受賞。65年、第12回日本伝統工芸展に「胴張 盛器」を出品し、初入選。67年、第14回日本伝統工芸展に「木地蒟醤 食籠」を出品、京都国立近代美術館の買い上げとなる。69年、香川県立高松工芸高等学校漆芸科教諭となる。70年、第13回日本工芸会四国支部展に「蒟醤 食籠」を出品し、三越高松支店長賞を受賞。72年、第15回日本工芸会四国支部展に「漆額 存清 静物」等4点を出品、同作品が磯井如真賞を受賞。73年、第38回香川県美術展覧会に「漆額 蒟醤 赫」を出品、香川県教育委員会賞を受賞。74年第39回香川県美術展覧会に「籃胎蒟醤 春想 色紙箱」を出品、文部大臣奨励賞を受賞。同年、第17回日本工芸会四国支部展で「籃胎蒟醤 食籠」等3点を出品、同作品が日本工芸会会長賞を受賞。75年、第22回日本伝統工芸展で、籃胎の素地を使った「曲輪網代 波文盛器」等2点を出品、同作品が文部大臣賞を受賞。籃胎技法は以前から漆芸の胎として使用されていたが、太田は竹ひご作りや竹編みから一貫して自ら行った。また、若い頃に学んだ木工の技術を生かし、木型に網代を密着させて編み込み、漆で固めた後、木型を抜き取る方法を独自に開発した。これによって、形が崩れにくい二重編みの籃胎素地を可能とした。さらに、太田は縦横に布目状に色漆を埋めて研ぎ出す「布目彫り蒟醤」の技を極め、従来の蒟醤表現よりもさらに柔らかく複雑な色彩表現によって、日頃目にする植物や鳥などをモティーフに、情景の空気が漂う温かみのある作品を得意とした。76年、香川県漆芸研究所の工芸指導員となる。同年、四国新聞文化賞受賞。77年、石川県立輪島漆芸技術研修所助講師となる。また重要美術品の玉楮象谷作「彩色蒟醤 御硯匣」等の修理を行う。80年、縄文時代の八戸市是川遺跡から出土した籃胎漆器3点の調査を行う。同年、日本文化財漆協会理事となる。81年、第28回日本伝統工芸展に「籃胎蒟醤 茶箱」を出品、文部大臣賞を受賞。82年、『香川の漆工芸技法研究1 籃胎蒟醤』を香川県漆芸研究所より出版。83年、香川大学教育学部美術科教授となり、89年まで務める。84年、日本工芸会理事に任命され、2000(平成12)年まで8期理事を務める。86年、第3回日本伝統漆芸展に「籃胎蒟醤 文箱 蝶」等2点を出品し、同作が東京国立近代美術館の買い上げとなる。第33回日本伝統工芸展に「籃胎蒟醤 盛器 熱帯魚」等2点を出品、同作が保持者選賞を受賞。90年、第37回日本伝統工芸展に「籃胎蒟醤 食籠 赤と黒」を出品し、保持者選賞を受賞。91年、香川県教育文化功労者に選ばれる。92年、第5回MOA岡田茂吉賞で大賞を受賞。93年、紫綬褒章受章。同年、香川県文化功労者に選ばれる。94年、日本工芸会参与となる。同年、重要無形文化財「蒟醤」の保持者に認定。95年、山陽新聞賞受賞。同年、香川大学名誉教授、香川県漆芸研究所主任講師となる。96年、日本漆工協会顧問となる。同年、石川県立輪島漆芸研究所主任講師となり、2003年まで務める。98年、第16次アジア漆文化源流調査に参加し、雲南省の少数民族の文化調査や「キンマ」作品を調査する。精力的に作品を制作するだけでなく、飽くなき探究心で香川漆器の源流である東南アジアや中国の蒟醤の技法を追究した。同年、「蒟醤―太田儔のわざ―」が教育映画等選定に特別選定される。2000年、日本工芸会常任理事となる。01年、勲四等旭日小綬章受章。07年、大英博物館で開催された「Crafting Beauty in Modern Japan」展に「籃胎蒟醤 文箱 蝶」を出品。08年、高松市美術館で本格的な回顧展となる「蒟醤 太田儔展」が開催された。

出 典:『日本美術年鑑』令和2年版(502-503頁)
登録日:2023年09月13日
更新日:2023年09月13日 (更新履歴)

引用の際は、クレジットを明記ください。
例)「太田儔」『日本美術年鑑』令和2年版(502-503頁)
例)「太田儔 日本美術年鑑所載物故者記事」(東京文化財研究所)https://www.tobunken.go.jp/materials/bukko/2041106.html(閲覧日 2024-04-29)

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