勝井三雄

没年月日:2019/08/12
分野:, (デ)
読み:かついみつお

 グラフィックデザイナーの勝井三雄は8月12日、膵がんのため、死去した。享年87。
 1931(昭和6)年9月6日東京生まれ。東京都立小石川工業高等学校建築科に在学中、哲学者、九鬼周造著『「いき」の構造』(岩波書店、1930年)を読み、デザインを志す。九鬼は、「粋」を論理的に解説するために、書籍の中でダイアグラムを用いているが、それを見た勝井は情報の視覚化の可能性を強く感じたという。51年に東京教育大学(現、筑波大学)に入学。バウハウスの造形教育を取り入れていた〓橋正人のもとで構成理論を学び、当時はまだ目新しかった写真を用いたデザインの実践のため、大学を経て専攻科に入り、デザインと写真について1年間研究をした。56年に卒業し、味の素株式会社に入社。社の広告やPR誌のデザインを手がけた。雑誌『VOU』のメンバーとも交流を持ち、それをきっかけに『ATTACK』誌面やモダンフォト等の展示で写真の発表を行なっている。58年にポスター「ニューヨークの人々」で写真とグラフィックを併用した表現を試み、日宣美賞を受賞。また59年、初期の代表作として挙げられる味の素の料理冊子『奥様手帖』を福田繁雄から引き継ぐ。この冊子制作を通じて、写真に用いるポジやネガを用いたコラージュや実験的な印刷方法を取り入れる独自のグラフィック表現を確立。61年に味の素を退社後、勝井デザイン事務所を設立。63年には、東京オリンピックのデザインプロジェクトに参加。64年からエディトリアルの原点的な体験となるエッソ・スタンダード石油のPR誌『エナジー』の総合デザインを担当する。編集者、作家である高田宏と協働で制作した。また、それがきっかけで依頼された『現代世界百科大事典』(講談社、1971年)では、アートディレクションを担当。編集に大型コンピューターに取り込み、プログラミングを用いるなど実験的な取り組みを行っている。また、限られた色だけで効果的に表現するための網点の掛け方を指定するなど、それまでに培った印刷知識とエディトリアルの経験が活かされることとなった。独自の編集的な視点は以後手掛けた全集や事典等、情報が多い書籍で十分に発揮されている。65年に、松屋銀座で開かれたグラフィックデザインの展覧会「ペルソナ」展に参加。翌年66年には、同じく松屋銀座で開かれた「空間から環境へ」展に参加した。
 70年に開催された大阪万博では、日本館内での展示「統計の森オルゴラマ」、85年のつくば科学博覧会では展示「ブレインハウス」を手掛けており、ここでも万人に対する視覚伝達を空間から追及した。姫路文学館(1991年)、大分マリンカルチャー(1992年)等の色彩や展示、サインの計画に関わっているほか、自身の個展や奈良原一高「華麗なる闇 漆黒の時間<とき>」(2017年)の展示計画も行っている。
 初期より最新技術から生まれるグラフィック表現に強い関心を向けた。60年代には紙幣の特殊印刷に用いる彩紋彫刻機を用いて、円や三角、四角といった単純な図形を緩やかに変形させて作る形態群「ギョームパターン」を生み出した。70年代後半にはデジタル・レイアウト・スキャナーを用いて色光「デジタルテクスチャー」を生み出した。新しい試みから生まれた表現は、数々のデザインワークで用いられている。それらは幾何学、色、光、デジタル、メデイア、ヴァリエーションといった勝井の関心が強く反映されており、そこには一貫したデザイン的趣向を見ることができる。
 ブックデザインも多く手がけた。なかでも美術家の池田満寿夫の作品集は63年以降、作家が亡くなるまで継続して取り組んだ。『スペイン 偉大なる午後 奈良原一高写真集』(求龍堂、1969年) は、初期の代表的な仕事に位置付けられる。
 制作で関わった代表的なシンボルマークは、東京造形大学(1966年)、国立民族学博物館(1973年)、国際花と緑の博覧会(1987年)、武蔵野美術大学(1996年)、宇都宮美術館(1997年)、文部科学省(2007年)など。
 早くからデザイン教育にも関心を抱いており、61年東京教育大学に非常勤講師として勤務(~1978年)。66年に東京造形大学助教授に就任(~1971年)。1993(平成5)年に武蔵野美術大学視覚伝達デザイン学科主任教授に就任(~2002年)、同大学名誉教授。2004年、名古屋学芸大学造形学部教育顧問就任(~2008年)。
 受賞歴は72年講談社出版文化賞(ブックデザイン賞)、93年芸術選奨文部大臣賞、95年毎日デザイン賞、NY ADC賞金賞、96年紫綬褒章、98年通産大臣デザイン功労賞、04年旭日小綬章、05年亀倉雄策賞等多数。JAGDA会員、09年から12年まで会長を務める。東京ADC会員、AGI会員、NY ADC会員。
 なお19年に宇都宮美術館で開催された「視覚の共振―勝井三雄」展は、勝井が生前関わった最後の個展となった。

出 典:『日本美術年鑑』令和2年版(496-497頁)
登録日:2023年09月13日
更新日:2023年09月13日 (更新履歴)

引用の際は、クレジットを明記ください。
例)「勝井三雄」『日本美術年鑑』令和2年版(496-497頁)
例)「勝井三雄 日本美術年鑑所載物故者記事」(東京文化財研究所)https://www.tobunken.go.jp/materials/bukko/2041061.html(閲覧日 2024-04-29)

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