柳宗玄

没年月日:2019/01/16
分野:, (学)
読み:やなぎむねもと

 西洋中世美術を専門とする美術史家で、お茶の水女子大学名誉教授の柳宗玄は1月16日、急性呼吸不全のために死去した。享年101。
 1917(大正6)年2月18日、東京(千駄ヶ谷町大字原宿)生まれ。父は民藝運動の創始者・柳宗悦、母は声楽家の柳兼子。幼少期を白樺派の文人たちの集う我孫子を経て赤坂区青南小学校に入学、23年の関東大震災後は京都に移り真如堂付近で過ごす。京都府立一中から第一高等学校を経て、1939(昭和14)年、東京帝国大学法学部に入学。42年、法学部法律学科を卒業したのち、同大学文学部美学美術史学科に転入する。45年同学科を卒業し、47年東京大学文学部副手、ついで助手となる。52年フランス政府給費生としてパリに留学(エコール・デ・シャルト)、翌年にはベルギーのルーヴァン大学に移って研鑽を積み、55年に帰国。その後57年に東京藝術大学美術学部助教授に着任する。1962年フランス政府招聘による渡航研究、その折に得た知見をもとに66~70年にかけて、カッパドキア調査団を組織(文部省給費)、三回の現地調査を行った。68年、お茶の水女子大学文教育学部教授に就任。精力的に調査旅行や美術全集などの編集執筆を行いつつ後進の指導に尽力し、82年に同大学を定年退官、名誉教授となった。その後は武蔵野美術大学にて教鞭を執り、88年に退任。教壇を離れたのちも調査旅行を重ねながら旺盛な著作活動を続けた。
 初期の業績において注目すべきは、得意の語学力を駆使してなされた翻訳活動(モリヤックやルネ・ユイグの来日講演録など)、50年代の渡欧で得られた現地調査による新知見の成果である。各地に点在するロマネスク・ゴシック美術関連の史蹟巡歴を行い、自らの眼で確かめ記録を写真に収めての実地検分を重ねた結果、50年代後半に早くも透徹した審美眼と独自の史観を確立させていたことは、例えば「12世紀におけるモザン美術の役割」と題された学術論文(『美術史』19・20、1956年)や一般読者向けながら、キリスト教美術の本質を的確に把握し平易な言葉で綴られた「キリスト教美術の歴史」(『月刊キリスト』1959-60年、全12回連載)、『キリスト 美術にみる生涯』(現代教養文庫、1959年、2012年新版)などに明らかであろう。
 その学風にさらなる奥行きとスケールを加えたのは、上述カッパドキア調査であった。63年の渡欧中、単身トルコのカッパドキアへ赴き、イヒララ渓谷に残る壮大なキリスト教壁画に魅了され、その調査を目的に東京藝術大学で中世オリエント遺跡学術調査団を組織、メンバーには吉岡堅二平山郁夫平島二郎、眞室佳武、長塚安司らが名を連ねた。66,68,70年と三度にわたり実行されたこの学術調査は、67年刊行の『太陽と洞窟の谷』(朝日新聞社)、『カッパドキヤ トルコの洞窟修道院』(鹿島出版会)、『秘境のキリスト教美術』(岩波新書)という豊かな副産物をもたらした。
 70年代に入ると、西欧の美術・文化の古層へ向けて思索をさらに深化させ、最も充実した時期を迎える。名著の誉れ高い『西洋の誕生』(新潮社、1971年)をはじめ、「大系世界の美術」(学習研究社、1972-75年)、「世界の聖域」(講談社、1979-82年)、「岩波美術館」(岩波書店、1981-87年)などの大型企画の立案・監修等に従事、特に「大系世界の美術」では『ロマネスク美術』『初期ヨーロッパ美術』『東方キリスト教美術』の三部作を執筆し、斬新な章立てで知られる『ロマネスク美術』の巻は、第26回毎日出版文化賞(1972年)を受賞した。「世界の聖域」では『サンティヤゴの巡礼路』の巻を、「岩波美術館」では『天と地の賛歌』他計8巻を執筆している。
 現地踏破を重んじる学風はその後も変わることなく続けられ、80年代に入るとインド、中国、東南アジア、南米などに対象を拡げつつ毎年のように調査旅行を行った。東と西、古と今を自在に往還するこの時期の境地を示す著書として『虚空散華』(福武書店、1986年)が知られ、アジア・南米の「用の美」に関心を傾斜させた最晩年の遺作に『祈りとともにある形 インドの刺繍・染と民画』(みすず書房、2009年)がある。
 また生涯を通じて、フランスの画家ジョルジュ・ルオーに熱い共感を抱き、その紹介に努めたことも特筆に値する。『ルオー全版画』『ルオー全絵画』(共訳、岩波書店、1979、90年)はカタログ・レゾネとして資料的価値を有し、『ルオー・キリスト聖画集』(学習研究社、1987年)はルオー絵画の本質に迫る筆者渾身の作である。
 さらにまた、学界の枠を越え読書界全般への貢献として、岩波書店『図書』(1964-65、75-84年)、『学士会会報』(1965-2007年)表紙デザインと図版解説を長きにわたり担当し、人々の眼と心を愉しませた。
 参考資料として、『柳宗玄教授著作目録』(柳先生古稀祝賀会編、1986年)、『柳宗玄著作選』(全6巻、八坂書房、2005-11年)がある。

出 典:『日本美術年鑑』令和2年版(478-479頁)
登録日:2023年09月13日
更新日:2023年09月13日 (更新履歴)

引用の際は、クレジットを明記ください。
例)「柳宗玄」『日本美術年鑑』令和2年版(478-479頁)
例)「柳宗玄 日本美術年鑑所載物故者記事」(東京文化財研究所)https://www.tobunken.go.jp/materials/bukko/2040911.html(閲覧日 2024-04-22)

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