中川邦彦

没年月日:2017/02/21
分野:, (映C)
読み:なかがわくにひこ

 映像作家、アーティスト、東京造形大学名誉教授、日本映像学会会員、日本フランス語フランス文学学会会員の中川邦彦は2月21日に東京都新宿区にて死去した。享年73。
 1943(昭和18)年4月8日、新潟県に生まれる。68年、青山学院大学フランス文学科卒業。卒業後、71年から73年まで映画記事等の記者としてフランスに滞在。73年から東京造形大学非常勤講師を務め、75年より同大学専任教員となる。81年にフランス政府給費研究員として、パリ第三大学にて映画学者ミシェル・マリー指導のもと映画記号学を専攻。88年には東京造形大学海外研究員として、パリ社会科学・言語学高等研究所にて映画記号論の先駆であるクリスチャン・メッツの指導をうけた。1989(平成元)年より東京造形大学教授。映画理論や映画記号学による物語構造の研究や、自身による映像作品制作を続け、理論と制作の両面で後進の指導にあたった。
 主な論文や著書としては、フランスの作家・映画作家であるアラン・ロブ=グリエの作品を対象とした「アラン・ロブ=グリエの短編小説「マネキン」を映画によって読むことについて」(『映像学』1―13、1979年)、『難解物語映画-アラン・ロブ=グリエ・フィルムスタディー』(高文堂出版社、2005年)などがある。アラン・ロブ=グリエとは中川自身、親交が厚く、彼の小説を原作にした短編映画『浜辺、はるかに』(1977年、16mm/白黒 15分)なども制作している。さらに、『芸術の記号論』(加藤茂・谷川渥・持田公子共著、勁草書房、1983年)、物語を映画で述べることの形相研究として『Narratologie formelle du film(映画物語形相論)』(青山フランス文学論集 復刊2,79―94、1993年)など、映画記号学や映像理論分析的な面から論じたものがある。
 一方、映像作家としても、『L’ESPACE DE TRANSFORMATION(変身の空間)』(未公開、1968年16mm/白黒 20分)の制作をはじめとし、前衛的な実験映画や制作した各作品が70年代からグルノーブル国際短編映画祭(1976年)、リール国際短編映画祭(1977年)、ベルフォール映画祭(1978年)、モントリオール映画祭(1978年)などフランスやその他各国の映画祭で上映される。日本における実験映画作家の作品を取り上げる企画のなかで、81年には当時パリのポンピドゥーセンターにあったシネマテーク・フランセーズにて『日本の実験映画:中川邦彦』として、それまで制作した16mm映画全作品の上映が行われた。シネマテーク・フランセーズでは『距てられた部屋、あるいは…』(1975年、16mm/白黒 15分)、前述の『浜辺、はるかに』などの作品を収蔵している。近年ではドイツのボンでの『明日は今日はじまる』展(2000年)、オマーンのマスカットでの第一回国際美術展(2006年)等にインタラクティブムービー『DEF』シリーズの出品を行った。加えて、2006年からは春秋映画株式会社専務取締役として記録映画制作にも携わっており、実験映画だけでなく映像作家としても幅広く活動した。

出 典:『日本美術年鑑』平成3C0年版(433-434頁)
登録日:2020年12月11日
更新日:2023年09月13日 (更新履歴)

引用の際は、クレジットを明記ください。
例)「中川邦彦」『日本美術年鑑』平成3C0年版(433-434頁)
例)「中川邦彦 日本美術年鑑所載物故者記事」(東京文化財研究所)https://www.tobunken.go.jp/materials/bukko/824181.html(閲覧日 2024-12-13)

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