中部義隆

没年月日:2016/04/05
分野:, (学)
読み:なかべよしたか

 日本絵画史研究者の中部義隆は、4月5日、膵臓がんのため、大阪市の湯川胃腸病院で死去した。享年56。
 1960(昭和35)年1月29日、大阪府大阪市大正区に生まれる。78年3月に大阪府立市岡高等学校を卒業し、同年神戸大学文学部へ入学。その後、85年3月に同大学を卒業し、同年4月神戸大学大学院へ進学、87年3月に同大学院文学研究科修士課程を修了した。同年4月からは同大学院文学研究科博士課程へ進学、同年12月に同課程を中途退学し、翌88年1月に神戸大学文学部の助手となるが、同年4月に財団法人大和文華館学芸部員として採用される。以後28年間、同館での勤務を続け、2000(平成12)年6月に同館学芸部課長、06年4月に学芸部次長、12年に学芸部長となり、常に同館の展覧会を主導していった。
 専門分野は、広く江戸時代の絵画全般に及んだが、とくに俵屋宗達や本阿弥光悦、尾形光琳など琳派に関する多くの展覧会や研究は、ライフワークとして最も重要な業績である。研究面では、琳派の装飾技法における版木の活用を指摘するなど、きわめて実証的な手法を用いたが、同時に、琳派の工芸品等の持つ造形感覚への鋭い理解は、直感的でもあり、その冴え渡る大胆な直感を、緻密な作品観察によって、実証的に裏付けていく研究スタイルにこそ真骨頂がある。また、展覧会を通して、従来あまり注目されてこなかった画家を取り上げることにも意欲的で、大和文華館で企画した松花堂昭乗、渡辺始興、冷泉為恭の展覧会や図録は、美術史の研究上でも、とりわけ高い評価を受けた。
 一方、後進の指導や育成にも積極的にあたり、02年4月からは神戸大学大学院客員助教授、05年4月からは同大学院客員教授を務めたほか、奈良大学、京都造形芸術大学、佛教大学、大阪大学、大阪府立大学などでも非常勤講師として教鞭をとったが、むしろ、大和文華館のみならず、関西を代表する学芸員として各方面から慕われた点も見逃せない。繊細でありながらユーモアにあふれた作品への語り口は独特で、ギャラリートークは鑑賞者から常に好評だった。また、厳しくもあたたかい人柄に惹かれ、その薫陶を受けた学芸諸氏も多い。一流の研究者でありながら、作品と鑑賞者に親しく寄り添う学芸員らしい姿が、後進に与えた影響は絶大である。
 なお、企画に関わった主要な展覧会としては、「俵屋宗達―料紙装飾と扇面画を中心に―」(大和文華館、1990年)、「松花堂昭乗―茶の湯の心と筆墨」(大和文華館、1993年)、「東洋美術1000年の軌跡 福岡市美術館«松永コレクション»«黒田資料»の名宝を中心に」(大和文華館、1997年)、「渡辺始興―京雅の復興―」(大和文華館、2000年)、「松花堂昭乗の眼差し 絵画に見る美意識」(八幡市立松花堂美術館、2005年)、「復古大和絵師 為恭―幕末王朝恋慕―」(大和文華館、2005年)、「大倉集古館所蔵 江戸の狩野派―武家の典雅」(大和文華館、2007年)、「茶の藝術」(岡崎市美術博物館、2007年)、「大和文華館所蔵 富岡鉄斎展」(大和文華館、2007年)、「松花堂昭乗 没後370年 先人たちへの憧憬」(八幡市立松花堂美術館、2009年)、「女性像の系譜―松浦屏風から歌麿まで」(大和文華館、2011年)、「乾山と木米―陶磁と絵画―」(大和文華館、2011年)、「琳派 京を彩る」(京都国立博物館、2015年)などが挙げられる。
 また、主要な論文としては、「木版金銀泥刷料紙装飾について―版木とその活用法を中心に―」(『大和文華』81、1989年)、「伝宗達筆 草花図扇面散貼付屏風をめぐって」(『大和文華』87、1992年)、「新出の伝宗達下絵光悦書四季草花下絵三十六歌仙和歌色紙について」(『国華』1219、1997年)、「渡辺始興展望」(『大和文華』110、2003年)、「「舞楽図屏風」と「風神雷神図屏風」の画面構成について」(『美術史論集』5、2005年)、「新収品紹介 春秋鷹狩茸狩図屏風」(『大和文華』122、2010年)、「松花堂昭乗作品の木版雲母刷料紙」(百橋明穂先生退職記念献呈論文集刊行委員会編『美術史歴参 百橋明穂先生退職記念献呈論文集』中央公論美術出版、2013年)、「沃懸地青貝金貝蒔絵群鹿門笛筒の意匠構成」(『大和文華』126、2014年)、「光琳と乾山―町衆文化の精華―」(河野元昭監修『年譜でたどる琳派400年』淡交社、2015年)、「藤田美術館所蔵の光琳乾山合作銹絵角皿をめぐって」(『陶説』749、2015年)などがあり、江戸時代の絵画のみならず、漆工、陶芸など多様な分野の造形表現に精通していたこともうかがえよう。

出 典:『日本美術年鑑』平成29年版(539-540頁)
登録日:2019年10月17日
更新日:2023年09月13日 (更新履歴)

引用の際は、クレジットを明記ください。
例)「中部義隆」『日本美術年鑑』平成29年版(539-540頁)
例)「中部義隆 日本美術年鑑所載物故者記事」(東京文化財研究所)https://www.tobunken.go.jp/materials/bukko/818706.html(閲覧日 2024-04-19)

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