裾分一弘

没年月日:2016/02/17
分野:, (学)
読み:すそわけかずひろ、 Susowake, Kazuhiro*

 美術史家で学習院大学名誉教授の裾分一弘は2月17日、老衰のため死去した。享年91。
 1924(大正13)年11月21日岡山県に生まれる。1951(昭和26)年九州大学文学部哲学科を卒業、同年同大学大学院に入学、美学・美術史学を専攻しのち中退。同大学文学部美学・美術史学研究生を経て58年、同大学文学部助手(文部教官)に着任。61年武蔵野美術大学講師に転任、翌62年助教授に昇任。64年に学習院大学文学部助教授に就任、以後67年に教授昇任を経て1995(平成7)年に退官するまでの30年以上、同学にて教鞭を執った。同時に東京大学、慶應義塾大学、成城大学など数多くの大学に非常勤講師として出講したほか、93-94年には日独ベルリン・センターの招聘によりジェノヴァ大学科学史研究所客員教授を務めた。
 裾分は九州大学での学士論文以来一貫してレオナルド・ダ・ヴィンチを研究対象とし、とりわけレオナルドの手稿および素描・素画に関する研究に長年にわたり携わった。その分野においては国際的にも高く評価される存在であった。世界各地に散在するレオナルドの大量の手稿や素描を丹念に調査し、文字の読解、書誌学的検討から多岐にわたる図やモチーフの分類、同定、筆跡や描線の分析まで浩瀚な研究を手掛けた。その集大成は、『レオナルドの手稿、素描・素画に関する基礎的研究』(2巻、中央公論美術出版、2004年)として出版されている。また手稿研究に端を発してレオナルド及びイタリア・ルネサンスの芸術理論研究にも功績を残し、77年に『レオナルド・ダ・ヴィンチの「絵画論」攷』(中央公論美術出版)を、86年には『イタリア・ルネサンスの芸術論研究』(中央公論美術出版)を刊行している。同時に、『レオナルド「マドリッド手稿」』(共訳、岩波書店、1975年)、『レオナルド「解剖手稿」』(共訳、岩波書店、1982年)『レオナルド「パリ手稿M」』(岩波書店、1989年)、『レオナルド「パリ手稿L」』(岩波書店、1990年)などの訳書を通じ、レオナルドの手稿の日本語での紹介にも尽力した。
 裾分の言葉によると、手稿および素描・素画に対する関心は、絵画作品と並んでそれらの研究の上にのみ真のレオナルド研究は成立する、との確信に基づいていた。それは、「片や美術作品を凝視し、片や制作者の身辺あるいは周辺・前後に遺るリテラルな資料・記録を視野に加える」両眼を備えることにより、美術史は「作品の単なる印象批評による美術史」を超克し、「美術史学としての資格を得る」という、学問の最も基本的な問題にたいする厳格な意識に裏付けされていた(『レオナルドの手稿、素描・素画に関する基礎的研究』537-38頁)。
 裾分の真摯で密度の高い学風、誠実な性格と熱心な指導は、長年の奉職先であった学習院大学の内外を問わず多くの学徒を引き寄せ、とりわけイタリア美術史の分野を中心として数多くの後進を育てたことも特筆に値する。
 その履歴、業績については上掲の『レオナルドの手稿、素描・素画に関する基礎的研究』に含まれる「著者の履歴および研究業績等一覧(平成14年4月現在)」に詳しい。

出 典:『日本美術年鑑』平成29年版(534頁)
登録日:2019年10月17日
更新日:2019年10月17日 (更新履歴)
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