前田正明

没年月日:2015/10/17
分野:, (学)
読み:まえだまさあき、 Maeda, Masaaki*

 美術史家で武蔵野美術大学名誉教授の前田正明は10月17日、肺炎のために死去した。享年83。
 1932(昭和7)年3月3日佐賀県唐津市に生まれる。53年関西大学経済学部卒業後、大阪豊中市立第四中学校の教諭となり、5年間英語教師として教壇に立つ。教職に従事するかたわら、国立大阪外国語大学別科フランス語学科を56年に修了。その後学習院大学で美術史を学び、61年、同大学院人文科学研究科修士課程を修了する。修士論文は「ギリシア・アルカイック彫刻の研究」(富永惣一主査)。ほどなくして前田はギリシャに渡り、アテネ大学哲学部美術考古学科でニコラス・コンドレオン教授の薫陶を受け、さらにアメリカ・ミシガン大学に留学して研鑽を積み、63年に帰国。
 65年、武蔵野美術大学造形学部助手に着任、74年に同助教授、80年に同教授に昇任し、1999(平成11)年の定年退官に至る約34年の長きにわたり、同大学にて研究、学生指導、大学運営に尽力する。67年、「クーロス像の研究2―そのプロポーションについて」(『武蔵野美術大学研究紀要』4)、71年に「クーロス像の研究1―腹部の表現について」(同7)を発表し、古代ギリシャ彫刻の様式的発展の端緒を開いたクーロス像の研究に打ち込む。同時に、ギリシャ美術の最も重要なジャンルのひとつであるギリシャ陶器の研究にも勤しみ、71年、「ギリシア陶器の技法」(『陶説』218)を発表。するとやがて、前田の陶器への関心はギリシャを超えて欧米各地にも及び、「英国中世陶器の魅力」(同255、1974年)の発表を皮切りに、『西洋陶磁物語』(講談社、1980年)、『タイルの美・西洋編』(TOTO出版、1992年)、『西洋やきものの世界:誕生から現代まで』(平凡社、1999年)、『西洋陶芸紀行』(日貿出版社、2011年)等を刊行し、西洋陶磁器を中心とする工芸世界の魅力を生涯にわたり紹介した。
 古代ギリシャ研究においては80年、「クーロス像の研究3 膝関節部の表現について」(『武蔵野美術大学研究紀要』12)、98年に「彫刻とは何か:ギリシア彫刻の誕生―西洋美術の源流として」(『武蔵野美術』107)を発表して、クーロス像に始まるギリシャ彫刻を最重要テーマとする、一貫した研究姿勢を示す。その一方で、彫刻、絵画、工芸など種々のジャンルに表された数々の神話と多種多様な図像に関する「ギリシア神話の空想動物とその図像」(『世界美術大全集西洋編3―エーゲ海とギリシア・アルカイック』小学館、1997年)は、古代文化に対する幅広い視野に裏打ちされた研究の所産である。
 研究・執筆活動以外にも、72年に創立会員として日本ギリシャ協会に加わり、93年には同協会理事に就任したほか、78年、朝日新聞社主催「ギリシア美術展(仮称)」の対ギリシャ政府交渉代表としてギリシャに渡航し、展覧会の実現に寄与するなど、日本とギリシャの文化交流の促進に多大な貢献を果たした。
 その履歴・業績については櫻庭美咲作成「前田正明先生履歴・業績目録」(武蔵野美術大学造形文化・美学美術史研究室『美史研ジャーナル』12、2016年)に詳しい。

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出 典:『日本美術年鑑』平成28年版(556頁)
登録日:2018年10月11日
更新日:2019年06月06日 (更新履歴)
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