灰野昭郎
漆芸史研究者の灰野昭郎は、10月1日、心筋梗塞のため死去した。享年66。1942(昭和17)年、新潟県に生まれる。67年早稲田大学第一文学部美術専修卒業。69年より鎌倉国宝館学芸員として勤務、73年には同館図録第19集『鎌倉彫』を執筆し、特別展「鎌倉彫」を手がけた。同館在職時代の鎌倉彫の徹底した作品調査と、現代の工房で行われている技法の調査は、文献研究もふまえて『鎌倉彫』(京都書院、1977年)にまとめている。同書は現在でも、もっとも充実した写真図版と論考・資料を備えた鎌倉彫の研究図書となっている。76年より京都国立博物館に勤務し、資料管理研究室長、学芸課普及室長、工芸室長を歴任した。同館では「日本の意匠―工芸にみる古典文学の世界」展(1978年)、「高台寺蒔絵と南蛮漆器」展(1987年)、「18世紀の日本美術」展<竺翁細工>(1990年)、「蒔絵 漆黒と黄金の日本美」展(1995年)をはじめ、漆工芸関係の研究・展覧会業務に従事した。1999(平成11)年より奈良大学文学部文化財学科教授を務めた。2004(平成16)年より昭和女子大学人間文化学部歴史文化学科大学院生活機構学専攻担当教授となり、同大学光葉博物館館長を併任、2007年から逝去時まで同大学院特任教授を務めた。灰野は「私の漆」(『学叢』26、2004年5月)で述懐しているように、工芸研究者が少ない中で、着実に作品の調査を重ねながら、展覧会業務とともに、精力的に普及活動を行った。主な著作には次のものがある。『漆工―近世編(日本の美術231)』(1985年)、『婚礼道具(日本の美術277)』(1989年)、『近世の蒔絵―漆器はなぜジャパンと呼ばれたか』(中公新書、1994年)、『日本の意匠―蒔絵を愉しむ』(岩波新書、1995年12月)、『漆―その工芸に魅せられた人たち』(講談社、2001年)灰野の没後、その約5000冊の漆工芸を中心とする蔵書は、石川県輪島漆芸美術館に寄贈され、同館で灰野昭郎文庫として公開されている。
出 典:『日本美術年鑑』平成21年版(438頁)登録日:2014年10月27日
更新日:2023年09月13日 (更新履歴)
例)「灰野昭郎」『日本美術年鑑』平成21年版(438頁)
例)「灰野昭郎 日本美術年鑑所載物故者記事」(東京文化財研究所)https://www.tobunken.go.jp/materials/bukko/28433.html(閲覧日 2024-10-15)
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