逵日出典

没年月日:2013/11/21
分野:, (学)
読み:つじひでのり

 文化史学者の逵日出典は11月21日、死去した。享年79。
 1934(昭和9)年8月11日奈良県五條市に生まれる。同志社大学文学部文化学科文化史学専攻に在学中の55年には「室町時代の象徴的芸術精神について」(『美術史年報』1)、「法成寺―藤原寺院芸術の思想史的考察」(『文化史研究』2)、翌年には「一木彫成立の文化史的意義―日本彫刻史への一反省」(『同』3)、「法成寺の伽藍配置と諸堂宇の構造―文化史的研究の前段階として」(『同』4)を立て続けに発表する。57年3月の卒業時には「京都と庭園」、「室町時代―日本的庭園の源泉」(ともに『同』5)を発表。卒業後は郷里の奈良県下で教職に就くが、その後も「室生伝説成立私考」(『同』6、1957年)、「法成寺伽藍とその性格―修補再論」(『同』8、1958年)、「室生寺の真言宗系々譜完成過程について―宀一山記・宀一秘記・宀一山秘密記を中心として」(『同』14、1958年)などを精力的に公表する。この頃から論文発表の場も『文化史研究』から次第に拡大の傾向を示す。65年には京都精華女子高等学校教諭となり、以後は『同学園紀要』が論文発表の場の中心となる。70年には同学園からそれまでの成果をまとめ『室生寺及び長谷寺の研究』として上梓をみた。以後も『同学園紀要』ほかで精力的に宗教文化史の観点から論文を発表する。ことに奈良時代から平安時代に及ぶ山岳寺院研究を精力的に行い、文化史研究にとどまらずわが国の宗教美術研究を行ってゆくうえでも成果は注目されることになった。70年以降の数々の研究論文発表を踏まえ、87年には「奈良朝山岳寺院の史的研究」をまとめ、同志社大学より文学博士の号を得た。1990(平成2)年に岐阜教育大学教育学部教授に就任。91年には『奈良朝山岳寺院の研究』(名著出版)を刊行。95年頃から構想が具体化した日本宗教文化史学会を、文化史に留まらず、宗教史、美術史、建築史の研究者に広く呼びかけて97年に立ち上げるとともに初代会長に就任した。これにあわせて論文発表の場も同会の学術研究誌『日本宗教文化史研究』に移行する。その頃から発生期における八幡信仰成立にかかわる研究を精力的に進め、2003年には『八幡宮寺成立史の研究』(続群書類従完成会)として結実をみた。この間、98年には岐阜聖徳学園大学(旧称、岐阜教育大学)教育学部教授、同大学院国際文化研究科教授に就任。06年10月1日付で同大学名誉教授に、09年には日本宗教文学史学会理事長となる。主要論文・著作の全貌については業績を顕彰して略歴・追悼文とともに『日本宗教文化史研究』35、36(2014年)に収載されているが、上掲の文中で触れ得なかった主要単著として、『長谷寺史の研究』・『室生寺史の研究』(ともに巌南堂書店、1979年)、『神仏習合』(六興出版、1986年。のち臨川書店から93年に復刊)、『八幡神と神仏習合(講談社現代新書1904)』(講談社、2007年)がある。また、上掲の単著に収録をみなかった主要論文には、「天武・持統両帝の龍田・広瀬両社への御崇敬」(『くすね』6、1960年)、「神泉苑における空海請雨祈祷の説について」(『芸林』68、1961年)、「平安初期における国家的雨乞の動向」(『神道史研究』54、1962年)、「寺院縁起絵巻の構成内容に関する考察」(『精華学園研究紀要』4、1966年)、「平安朝貴族の“ものもうで”―特に浄土信仰との関連において」(『京都精華学園研究紀要』6、1968年)、「平安朝貴族の信仰形態―藤原道長の場合」(『同』8、1970年)、「『世継』の歴史思想」(『同』9、1971年)、「大丹穂山と大仁保神」(『神道史研究』168、1983年)、「龍蓋寺(岡寺)草創考」(『京都精華学園研究紀要』27、1989年)、「讃岐志度寺縁起と長谷寺縁起」(『日本仏教史学』25、1991年)、「神道習合の素地形成と発生期の諸現象―既存発生論への再検討を踏まえて」(『芸林』208、1991年)、「住吉神宮寺の出現をめぐって」(『同』227、1996年)、「『南法華寺古老伝』に見る『日本感霊録』の逸文」(『日本宗教文化史研究』3、1998年)、「天平勝宝元年八幡大神上京時の輿について」(『同』14、2003年)、「『石山寺縁起』に見る比良明神―長谷寺観音造像伝承とも関連して」(『同』16号、2004年)、「多武峯妙楽寺の草創」(『同』18、2005年)、「本長谷寺の所在に就いて―永井義憲氏説の妥当性と補遺」(『同』24、2008年)、「長谷寺創建問題とその後」(『同』26、2009年)、「室生寺の歴史―龍穴信仰から抗争のはて女人高野へ」『室生寺(新版古寺巡礼 奈良6)』(淡交社、2010年)、「古代神祇祭祀の基本形態―神体山信仰の展開」(『神道史研究』266、2012年)などがある。

出 典:『日本美術年鑑』平成26年版(470-471頁)
登録日:2016年09月05日
更新日:2023年09月13日 (更新履歴)

引用の際は、クレジットを明記ください。
例)「逵日出典」『日本美術年鑑』平成26年版(470-471頁)
例)「逵日出典 日本美術年鑑所載物故者記事」(東京文化財研究所)https://www.tobunken.go.jp/materials/bukko/236767.html(閲覧日 2024-04-26)

外部サイトを探す
to page top