飯田真
日本絵画史研究者の飯田真は、11月4日、肺がんのため、岐阜県立多治見病院で死去した。享年54。
1958(昭和33)年12月23日、徳島県鳴門市に生まれる。77年3月東海高等学校を卒業し、78年4月名古屋大学へ入学、83年3月同大学を卒業し、同年4月名古屋大学大学院へ進学、85年3月同大学大学院文学研究科を修了した。85年4月から岐阜市歴史博物館の学芸員として勤務するが、1990(平成2)年3月に同館を退職。同年4月からは静岡県立美術館の学芸員として勤務し、98年4月から同館の主任学芸員、2007年からは同館の学芸課長となり、2013年3月に同館を退職した。
岐阜市歴史博物館では美術、静岡県立美術館では江戸時代の絵画、とりわけ18世紀から19世紀の浮世絵や文人画などを担当し、岐阜や静岡といった勤務地の地域に根ざした美術や絵画に関する堅実な展覧会を精力的に開催したが、その一方で、「ホノルル美術館名品展」など、海外にある日本絵画の里帰り展も意欲的に企画している。同様に、研究面では、名古屋大学在学中から専門としていた葛飾北斎をはじめ、歌川広重や小林清親といった著名な浮世絵師の研究を進めつつ、安田老山や平井顕斎、山本琴谷、原在正、原在中など、従来あまり注目されてこなかったような画家を積極的に取り上げ、その作品や表現の詳細な分析に基づいた真摯な資料紹介もおこなった。また、江戸時代絵画における風景表現の展開は、長年の研究テーマでもあり、展覧会・研究の両面を通じてアプローチし、特に富士山を主題とした実景表現への考察には優れた研究業績が多い。一方、静岡県立美術館では、同館の運営や、他館との連携協力といった事業にも意識的で、同館の主任学芸員や学芸課長時代には、学芸課の体制づくりなどにも大きく貢献した。
企画にかかわった主要な展覧会としては、岐阜市歴史博物館で「美濃の南画」(1988年3月~4月)、静岡県立美術館で「平井顕斎展」(1991年1月~2月)、「広重・東海道五十三次展」(1994年1月)、「描かれた日本の風景―近世画家たちのまなざし―」(1995年2月~3月)、「ホノルル美術館名品展―平安~江戸の日本絵画―」(1995年9月~10月)、「明治の浮世絵師 小林清親展」(1998年9月~10月)、「描かれた東海道―室町から横山大観まで、東海道をめぐる絵画史―」(2001年10月~11月)、「江戸開府400年記念 徳川将軍家展」(2003年9月~10月)、「富士山の絵画展」(2004年2月~3月)、「心の風景 名所絵の世界」(2007年11月~12月)、「帰ってきた江戸絵画 ニューオリンズ ギッター・コレクション展」(2011年2月~3月)、「草原の王朝 契丹」(2011年12月~2012年3月)などが挙げられる。
また、主要な論文としては、「北斎読本挿絵考」(『美学美術史研究論集』4、名古屋大学文学部美学美術史研究室、1986年4月)、「資料紹介 安田老山の絵画」(『岐阜市歴史博物館研究紀要』4、1990年3月)、「作品紹介 山本琴谷筆 「無逸図」」(『静岡県立美術館紀要』10、1993年3月)、「原在正筆「富士山図巻」をめぐって―江戸後期京都画壇における実景図制作の一様相―」(『静岡県立美術館紀要』13、1998年3月)、「原在中筆「富士三保松原図」について―江戸時代後期の富士山図をめぐって」(『静岡県立美術館紀要』16、2001年3月)、「ロダンと浮世絵―『白樺』同人による浮世絵寄贈の経緯」(静岡県立美術館・愛知県美術館編『ロダンと日本』、2001年4月)、「日本文人画にみる点表現―池大雅を中心に」(静岡県立美術館編『きらめく光―日本とヨーロッパの点表現―』、2003年2月)、「谷文晁筆「富士山図屏風」について」(『静岡県立美術館紀要』19、2004年3月)、「歌川広重«不二三十六景»をめぐって」(『静岡県立美術館紀要』22、2007年3月)、「«武蔵野図屏風»―静岡県立美術館所蔵作品の紹介を中心に」(『静岡県立美術館紀要』25、2010年3月)などがある。
登録日:2016年09月05日
更新日:2023年09月13日 (更新履歴)
例)「飯田真」『日本美術年鑑』平成26年版(469-470頁)
例)「飯田真 日本美術年鑑所載物故者記事」(東京文化財研究所)https://www.tobunken.go.jp/materials/bukko/236765.html(閲覧日 2024-10-10)