山口昌男

没年月日:2013/03/10
分野:, (学)
読み:やまぐちまさお

 文化人類学者の山口昌男は3月10日午前2時24分、急性肺炎のため東京都三鷹市の病院で死去した。享年81。
 1931(昭和6)年8月20日北海道美幌町に生まれる。美幌尋常小学校、旧制網走中学校を経て、新制網走高校(現、北海道網走南が丘高等学校)を50年3月に卒業。同年4月から青山学院大学文学部第二部に入学し、在学中に展覧会と古書店に頻繁に訪れる。51年、東京大学文学部に入学。同学年に作曲家となる三好晃、美学者となる宇波彰らがいた。在学中は展覧会や演奏会に通い、毎週日曜日に黒田清輝の甥で光風会の画家であった黒田頼綱にデッサンを学ぶ。また、東京大学駒場美術研究会で磯崎新らと交遊する。55年坂本太郎の指導のもと、卒業論文「大江国房」を提出して同国史学科を卒業。同年4月から61年3月まで麻布学園で日本史を教える。同学園での教え子に川本三郎、山下洋輔らがいる。57年に東京都立大学大学院に入学し、社会人類学を専攻。60年、修士論文「アフリカ王権研究序説」を提出して同学大学院社会研究科社会人類学専攻修士課程を修了し、博士課程に進学。63年10月からナイジェリアのイバダン大学社会学講師となる。66年東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所講師、翌年助教授となり、通称「AA研」と呼ばれた同研究所を拠点に、69年に「文化と狂気」を『中央公論』に、「道化の民族学」を『文学』に連載、「王権の象徴性」(『伝統と現代』)、「失われた世界の復権」(『現代人の思想 第15巻 未開と文明』解説)を執筆して注目される。70年6月から「本の神話学」を『中央公論』に連載。71年に『アフリカの神話的世界』(岩波新書)、『人類学的思考』(せりか書房)、『本の神話学』(中央公論社)を出版。同年9月にパリ高等研究院客員教授となり、レヴィ・ストロースのゼミで「ジュクン族の王権と二元的世界観」と題して発表する。73年、「歴史・祝祭・神話」を『歴史と人物』に、「道化的世界」を『展望』に掲載。74年、『トリックスター』(ポール・ラディンほか著、晶文社)に解説「今日のトリックスター」を掲載。77年「文化における中心と周縁」を『世界』に掲載し、また、同年、『知の祝祭』(青土社)を刊行する。これらの著作で述べられた「中心と周縁」理論や、道化に社会秩序をかく乱する役割を見出す「トリックスター論」などは、70年代以降の思想界を牽引するものとなり、山口と同じく青土社刊行の『現代思想』や『ユリイカ』で活躍し、構造主義や記号論なども紹介した中村雄二郎とともに、西洋近代的知の体系への懐疑を促す大きな力となった。1989(平成元)年、東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所所長となり、94年に同研究所を定年退職。この間の92年、電通総研で「経営の精神文化史研究会」発足に尽力。94年静岡県立大学大学院国際関係学研究科教授および中央大学総合政策学部客員教授となる。また、同年、フランスのパルム・アカデミック賞受賞。95年、晩年の大著となる『「挫折」の昭和史』、『「敗者」の精神史』を岩波書店から刊行。97年に札幌大学文化学部長、99年同学長となった。同年2月、銀座の画廊「巷房」で「越境の人 山口昌男ドローイング展」、10月丸善京都河原町店ギャラリーで「山口昌男ドローイング展」を開催。同年、山口の描いたスケッチ1500点から100点を掲載した『踊る大地球 フィールドワーク・スケッチ』(晶文社)を刊行。2011年文化功労者となった。幼少期から漫画をはじめ、視覚芸術に強い興味を抱いていた山口は、60年代からアフリカ彫刻に関する論考を行い、70年代以降は学際的研究が盛んになる中、周縁や祝祭といった自説の観点から美術に関して多くの考察を残している。日本の思想界全体に西洋的な知的枠組みの再考を促し、既成の学問領域の横断から生まれる新たな思考を提起し、美術についても狭義の「美術」の枠組みにとらわれず、また、美術史学とは異なる方法によって美術や視覚芸術に関わった人々についての調査・論考を行った。大著、『「敗者」の精神史』(岩波書店、1995年)は、日本人の全員が「敗者」となった45年に次いで日本に多くの「敗者」をもたらした明治維新に着目し、久保田米僊ら美術家も含む「敗者」、すなわち佐幕派に属する個々人が、新たな体制がつくられていく中でどのように生きたかを丹念に記し、日本近代の精神の複層性を浮き彫りにするとともに、日本近代美術史に新たな視点を提示した。死去の約二ヵ月後、『ユリイカ』2013年6月号で「山口昌男-道化・王権・敗者」と題する特集が組まれ、山口の弟子である高山宏と中沢新一による追悼対談ほか、多くの関係者による追悼の論考が掲載された。年譜と著作目録は同誌に詳しい。

出 典:『日本美術年鑑』平成26年版(451-452頁)
登録日:2016年09月05日
更新日:2023年09月13日 (更新履歴)

引用の際は、クレジットを明記ください。
例)「山口昌男」『日本美術年鑑』平成26年版(451-452頁)
例)「山口昌男 日本美術年鑑所載物故者記事」(東京文化財研究所)https://www.tobunken.go.jp/materials/bukko/236740.html(閲覧日 2024-04-19)

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