桜井武
美術評論家で、熊本市現代美術館長の桜井武は、胃がんのため熊本市内の病院で6月4日に死去した。享年75。
1944(昭和19)年1月2日、静岡県藤枝市に生まれ、66年に慶應義塾大学文学部仏文科を卒業。同年より69年まで、東京画廊に勤務。69年から71年まで、シカゴ・アート・インスティチュートに留学。帰国後、71年から2004(平成16)年まで、英国の公的な国際交流機関であるブリティッシュ・カウンシル(東京事務所)に勤務。アート担当者として、演劇、音楽、美術等の文化事業に従事し、とりわけ英国の近代、現代美術の紹介に尽力した。その功績から在職中の91年には、大英勲章MBEを授与された。2004年に、日本美術評論家連盟会員となり、同年より08年まで、慶應義塾大学大学院の非常勤講師を勤めた。
その間に、『英国美術の創造者たち』(形文社、2004年)を刊行。同書は、それまでに雑誌、カタログ等に寄稿した評論をまとめたものだが、平易な語りで16世紀から1990年代の現代美術までを歴史的に概観した内容となっている。さらに『ロンドンの美術館 王室コレクションから現代アートまで』(平凡社、2008年)は、それぞれの美術館の特色が歴史的な背景とともにコンパクトにまとめられている。
08年4月に、熊本市現代美術館長に就任。09年、「花・風景 モネと現代日本のアーティストたち ―大巻伸嗣、蜷川実花、名知聡子―」展をはじめ、ジャンルや地域、時代にとらわれない同美術館の意欲的な企画展に取り組み先導した。在職中の2016年4月におこった熊本地震では、被災による休館後にいち早く復旧を指揮し、一か月後には再開した。美術館が市民の寛ぎと癒しの場であり、広範な文化活動がコミュニティー復興の契機になったことを実証し注目された。この活動をまとめた報告書『地震のあとで 熊本地震記録集』(熊本市現代美術館、2018年)の巻頭で、桜井は、「熊本市現代美術館は、美術活動を主軸に据え、しばしば美術の領域を超えて、被災した市民県民や他の文化施設と緊密に連携し、創造的復興に繋がるべく、多様なアートの活動の場となってきました。」(「熊本地震と美術館」)と記し、社会における美術館とその役割の重要性に対する確信が述べられている。14年に美術館連絡協議会理事となり、同年熊本県文化協会常務理事等に就任するなど、熊本県、熊本市の文化活動全般に関与した。
長年、英国における美術等の文化活動が、いかに社会に寄与するかを学び、実見してきた経験を背景に、熊本市現代美術館をベースに果敢に活動をつづけた美術館人であった。
登録日:2023年09月13日
更新日:2023年09月13日 (更新履歴)
例)「桜井武」『日本美術年鑑』令和2年版(493頁)
例)「桜井武 日本美術年鑑所載物故者記事」(東京文化財研究所)https://www.tobunken.go.jp/materials/bukko/2041036.html(閲覧日 2024-11-03)
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