栄木正敏

没年月日:2019/02/27
分野:, (工)
読み:さかえぎまさとし

 陶芸家、プロダクトデザイナーの栄木正敏は2月27日、くも膜下出血のため死去した。享年75。
 1944(昭和)19年1月3日、千葉県旭市に生まれる。60年、高校2年生の栄木と陶磁器デザインの出会いは、日本橋三越で偶然目にした美しい土瓶を買い求めたことであった。この年、日本で初めて世界デザイン会議が開催され、『美術手帖』176(1960年7月号増刊)では「グッドデザインへの招待」が特集された。その雑誌で、栄木は紅茶ポットとして愛用していた土瓶が陶磁器デザイナーとして活躍していた森正洋のデザインによるものだと知り、いつか自分でも作ってみたいと思うようになった。63年、武蔵野美術短期大学工芸デザイン専攻科に入学、フィンランドのアラビア製陶所で活動していた加藤達美や、日本のクラフトデザイン界を牽引した芳武茂介らに学ぶ。66年、武蔵野美術大学短期大学工芸デザイン専攻科を卒業。同年、加藤達美が顧問を務める名古屋市の瀬栄陶器デザイン部に入社。翌67年、輸出陶磁器デザインコンクールで初入賞。69年、茨城県笠間市の會田雄亮研究所の助手となり、建築陶器やモニュメント制作を学ぶ。この頃より瀬戸に移り住み、瀬戸と名古屋のタイル、ノベルティー、食器を専門にする小規模の各製陶工場を渡り歩く。73年頃まで特定の工場に在籍せず日雇いの陶工として働き、工場ごとの技術や製造工程を学び、夜は自主制作に励んだ。72年、絵付け職人が再現しやすいよう、明快な要素を組み合わせた模様を取り入れた«手描きの食器»で、瀬戸の陶磁業界で初となるグッドデザイン賞を受賞。モダンデザインにおいてはその価値が顧みられなくなり、衰退しつつあった手描き模様ならではの温かみを量産陶磁器で実現することに成功した画期的なシリーズとなった。制作に必要な技術や素材を熟知して73年、杉浦豊和らとともに、陶磁器の企画・製造・販売会社「セラミック・ジャパン」を設立。1977年、栄木とセラミック・ジャパンが第5回国井喜太郎産業工芸賞を受賞。陶磁器のデザインにとどまらず、原型造りから職人の養成、流通まで含むすべてを、より広い意味での「デザイン」の名のもとに進めてきた栄木らの「加飾の健全性を目指す企画生産及び販売の総合的推進」が評価の対象となった。81年、第11回バレンシア国際陶磁器ガラス・デザインコンクールで「天目ディナーウェアー」がグランプリ(スペイン国際大賞)を受賞。83年、陶磁器デザインコンペティションで「ブルーライン(キッチンポット&テーブルウェアー)金賞受賞。86年、第16回バレンシア国際工業デザインコンクールで「テーブルウェア「COMPACT」」がグランプリ(スペインLlama Joven賞)を受賞。88年、この年より奈良市に本社工場のある国際化工の仕事を開始、長年やりたかったメラミンを使ったデザインに着手する。翌1989(平成元)年「プラスチック食器「U-STAGE Q-su」」がグッドデザイン賞受賞。90年、第3回日本現代陶彫展‘90で初めて手がけた大型モニュメント「OUTSIDE INSIDE」が陶彫展優秀賞受賞、土岐市総合公園に設置される。翌91年より建築用タイルのデザインに着手。93年、土岐市笠原町陶ヶ丘公園の「陶壁」を制作。95年、第4回国際陶磁器展美濃’95で「表面張力シリーズ「ボーンチャイナのランプ」」が岐阜県知事賞(銀賞)受賞。96年「白マット土瓶と湯飲み」がロングライフデザイン特別賞受賞。97年、ファエンツァ国際陶芸展第50回記念特別展「DESIGNER DAL MONDO(世界のデザイナー10人展)」に招待出品。98年、第5回国際陶磁器展美濃’98に「テーブルウェアー「circle円・ellipse楕円」」などを出品、同作が銅賞受賞。98年から2009年まで、愛知県立芸術大学教授。99年、デザインフォーラム1999公募展で「テーブルウェア―「WAVE」」が佳作となる。2001年、大韓民国第1回世界陶磁ビエンナーレ国際公募展に「箸置き小皿と組み合わせプレート」を出品し銀賞を受賞、同時開催の世界陶磁デザイン展に「白マット釉ティーセット」等を招待出品。滋賀県立陶芸の森にて招待制作を行い、モニュメント「CLIMB BLUE」を設置。03年、社団法人日本クラフトデザイン協会副理事長に就任、翌年まで務める。04年、欧州陶磁器・デザイン研修で、デッサウのバウハウス、マイセン、ドレスデン、フランクフルトなどを訪問する。09年、愛知県立芸術大学非常勤講師となる。10年、愛知県立芸術大学名誉教授に就任。11年、東京国立近代美術館にて「栄木正敏のセラミック・デザイン―リズム&ウェーブ」展が開催される。同年、台北国際工芸デザイン展で準グランプリ(創新賞)を受賞。13年、平成24年度愛知県芸術文化選奨で文化賞(個人)受賞。製図から原型製作、生産立ち上げまで一貫して手がける陶磁器デザイナーとしての活動と芸術文化の振興と向上に貢献したとして評価されるなど、日本の陶磁器デザイン界を長く牽引した。

出 典:『日本美術年鑑』令和2年版(483頁)
登録日:2023年09月13日
更新日:2023年09月13日 (更新履歴)

引用の際は、クレジットを明記ください。
例)「栄木正敏」『日本美術年鑑』令和2年版(483頁)
例)「栄木正敏 日本美術年鑑所載物故者記事」(東京文化財研究所)https://www.tobunken.go.jp/materials/bukko/2040946.html(閲覧日 2024-10-10)

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