直木孝次郎

没年月日:2019/02/02
分野:, (学)
読み:なおきこうじろう

 大阪市立大学名誉教授で日本古代史学研究者の直木孝次郎は、老衰のため2月2日に西の京病院で亡くなった。享年100。
 1919(大正8)年1月30日、兵庫県神戸市に米穀商を営む父・憲一と母・とよのあいだに次男として生まれた。第一神戸中学校(現、神戸高等学校)を経て1938(昭和13)年4月、第一高等学校文科乙類に入学、41年3月に同校を卒業し、同年4月に京都帝国大学文学部史学科に入学、43年9月に同大を繰り上げ卒業する。同年10月土浦海軍航空隊に入隊。45年9月に京都帝国大学大学院に復学し、46年3月に同大学院特別研究生、50年3月、大阪市立大学法文学部に助手として着任する。52年6月同大法文学部講師、55年1月同大文学部助教授、66年10月同大文学部教授。69年5月、『日本古代兵制史の研究』(吉川弘文館、1968年)により文学博士(京都大学)を授与される。81年3月、大阪市立大学を退職。同年4月、岡山大学文学部に教授として着任し、84年3月同大を退職、同年4月より相愛大学人文学部教授、1989(平成元)年3月同大を退職。同年4月甲子園短期大学教授、98年3月同大を退職した。
 89年大阪文化賞。2004年第11回井上靖文化賞受賞。また、続日本紀研究会代表、橿原考古学研究所所員、財団法人高麗美術館理事、条里制研究会会長、財団法人大阪市文化財協会理事などを歴任した。
 中学時代に『万葉集』に触れたことで古典への関心を深め、一高生時代には和辻哲郎の『古寺巡礼』を読み、法隆寺の百済観音像に強い感銘を受けたことで当初は美術史を志して日本史を専攻したという。京都大学在学中に「法隆寺資財帳の食堂及び延長焼亡以前の講堂に関する研究«法隆寺の食堂と講堂»」(『美術史学』80、1943年)を発表する。卒業論文のテーマは「上代神祇思想に関する二、三の考察」。
 直木の学問的姿勢は歴史学者・津田左右吉の古典批判を継承するもので、文献を精力的に渉猟して晩年まで実証的な古代史像を提示し続けた。天照大神を祀る伊勢神宮が地方神から皇祖神、そして国家的神への転換を論証した研究や、応神・仁徳天皇の頃に大和を中心とした政治勢力に代わって河内地域に新政権が成立したとする河内政権論は、いずれも『古事記』・『日本書紀』を批判的に検証したもので、直木の代表的な研究テーマと言える。歴史や古典の歪められた解釈が政治的あるいは思想的に利用されることを危惧し、65年に家永三郎が起こした教科書裁判には家永側の証人として出廷、67年に神武天皇即位を建国記念の祝日として制定した紀元節問題では、反対の立場から各地で講演会を行い公聴会で意見を論述した。また、50年代から本格的な発掘が始まった難波宮跡をはじめ、平城京跡や大和古墳群、飛鳥池遺跡、吉野や和歌の浦など多くの遺跡や歴史的景観の保存活動で主導的な役割を果たした。2000年には長年の文化財保護活動の功績に対して第1回和島誠一賞を受賞。古代史のみならず美術史や文学にも高い関心を持ち、特に一高時代に土屋文明の指導を受けた短歌は生涯にわたって創作を続けて三冊の詩集を出版、16年には第32回朝日歌壇賞を受賞した。
 代表的な著作は『日本古代国家の構造』(青木書店、1958年)、『持統天皇(人物叢書)』(吉川弘文館、1960年)、『壬申の乱(塙選書)』(塙書房、1961年)、『日本古代の氏族と天皇』(塙書房、1964年)、『奈良時代史の諸問題』(塙書房、1968年)、『奈良―古代史への旅―(岩波新書)』(岩波書店、1971年)、『倭国の誕生(日本の歴史1)』(小学館、1973年)、『夜の船出―古代史から見た萬葉集―』(塙書房、1985年)、『日本古代国家の成立』(社会思想社、1987年)、『飛鳥 その光と影』(吉川弘文館、1990年)、『新編 わたしの法隆寺』(塙書房、1994年)、『山川登美子と与謝野晶子』(塙書房、1996年)、『古代河内政権の研究』(塙書房、2005年)、『額田王(人物叢書)』(吉川弘文館、2007年)、『直木孝次郎 古代を語る』全14巻(吉川弘文館、2008~09年)『日本古代史と応神天皇』(塙書房、2015年)、『武者小路実篤とその世界』(塙書房、2016年)ほか多数。その経歴と論文・著作は『直木孝次郎先生年譜・著作目録』(「直木孝次郎先生追悼のつどい世話人会」編集、2019年)に詳しい。

出 典:『日本美術年鑑』令和2年版(480-481頁)
登録日:2023年09月13日
更新日:2023年09月13日 (更新履歴)

引用の際は、クレジットを明記ください。
例)「直木孝次郎」『日本美術年鑑』令和2年版(480-481頁)
例)「直木孝次郎 日本美術年鑑所載物故者記事」(東京文化財研究所)https://www.tobunken.go.jp/materials/bukko/2040926.html(閲覧日 2024-04-28)

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