梅津次郎

没年月日:1988/02/21
分野:, (学)

日本の絵巻物研究の基礎を築く優れた多くの業績を残した、元文化財保護審議会専門委員、元京都国立博物館学芸課長、文学博士、梅津次郎は、2月21日午後10時32分、呼吸不全のため京都市東山区の洛東病院で死去した。享年81。
 明治39(1906)年10月19日、三重県宇治山田市に生れた。昭和7(1932)年、東京帝国大学文学部美学美術史学科を卒業、同10年5月から21年3月まで帝国美術院付属美術研究所(現東京国立文化財研究所美術部)嘱託として日本古代中世絵画史研究に従事し、21年4月からは、当時は恩賜京都博物館と称した京都国立博物館に勤務し、同43年3月、学芸課長として定年退官した。退官後は、同年4月から大谷大学講師、奈良国立文化財研究所調査員を兼ねる一方、同年8月から62年3月まで文化財保護審議会専門委員をつとめた。
 生涯を通じて追求した主題は絵巻物研究であった。「実証的な基礎に立たない発言は殆ど無意味である。啓示もそこから生れる。」という姿勢に貫かれた研究からは絵巻の絵と詞に関する異本との詳細な校合が行なわれ、多くの作品が日本絵画史の上に新たに意義づけられていった。研究活動の後半は、絵巻物を説話画の一形態と認識する視点から研究を続けたが、実証的研究を標榜した研究成果は鋭い感性と鑑識に支えられていた。絵巻物研究の水準のみか日本絵画史研究の水準を引上げた目覚しい研究業績の中から定期刊行物所載の論考を中心に発表順に次に記す。
新名所絵歌合攷(美術研究29、昭和9年5月)
男衾三郎絵詞(美術研究38、10年3月)
天狗草紙考察(美術研究50、11年2月)
池田家蔵弘法大師伝絵と高祖大師秘密縁起(美術研究78、13年6月)
地蔵院本高野大師行状図画-六巻本と元応本との関係(美術研究83、13年11月)
東寺本弘法大師絵伝の成立(美術研究84、13年12月)
能恵法師絵詞について(美術研究104、15年8月)
光明真言功徳絵詞(美術研究112、16年4月)
伊保庄本並に津田本天神縁起絵巻に関して(美術研究114、16年6月)
魔仏一如絵詞考(美術研究123、17年3月)
天神縁起絵巻-津田本と光信本-(美術研究126、17年9月)
帝室博物館蔵地蔵縁起絵巻考(美術研究131、18年4月)
隨身庭騎絵巻雑記(美術研究136、19年5月)
法然寺蔵地蔵縁起絵巻について(美術研究143、22年9月)
是害坊絵巻の変遷、上・下(国華、675、676、23年6月、7月)
義湘・元曉絵の成立(美術研究149、23年8月)
池大雅筆楡枋園図(国華685、24年4月)
秋夜長物語(国華687、24年6月)
熊野影向図(国華701、25年8月)
石清水八幡宮曼荼羅・八幡若宮像(国華704、25年11月)
新出の法然上人伝法絵について(国華705、25年12月)
善妙神像讃(大和文華1、26年3月)
滝口縁起絵(国華718、27年1月)
石山寺縁起絵考(美術史6、27年7月)
八幡縁起絵巻(国華740、28年11月)
後土御門天皇宸賛の墨画庚申図に就て(国華743、29年2月)
フリア画廊の地蔵験記絵と探幽縮図(大和文華13、29年3月)
大和絵(平凡社「世界美術全集」15、29年8月)
高野大師行状絵の零巻について(国華752、29年11月)
鎌倉時代大和絵肖像画の系譜-俗人像と僧侶像-(仏教芸術23、29年12月)
五趣生死輪図に就いて-絵解の絵画史的考察その一-(美術史15・16、30年4月)
「子とろ子とろ」の古図-法然寺蔵地蔵験記絵巻補記(ミュージアム50、30年5月)
志度寺絵縁起に就いて(国華760、30年7月)
変の変文-絵解の絵画史的考察その二-(国華760、30年7月)
有馬温泉寺絵縁起に就いて(大和文華17、30年9月)
謝蕪村筆桃源行図(国華771、31年6月)
正嘉本天縁神起絵巻について-その出現並びに弘安本との関係-(国華779、32年2月)
平安時代の美術(京都国立博物館特別展目録)(32年10月)
徳川美術館の掃墨絵について(大和文華25、33年3月)
鳥の物語絵巻断簡(国華793、33年4月)
初期融通念仏縁起絵について(仏教芸術37、33年12月)
東大寺本善財童子絵巻私考(大和文華29、34年4月)
天理本源氏物語絵巻について(ビブリア14、34年6月)
伝光信筆平家物語絵巻(美術史35、35年2月)
日本の説話画(京都国立博物館特別展目録)(35年5月)
華厳入法界品善財参問変相経(大和文化研究31、35年11月)
矢田地蔵縁起絵の諸相(美術史39、36年1月)
硯破絵巻その他-「小絵」の問題-(国華828、36年3月)
瓜子姫絵巻の断簡(ミュージアム125、36年8月)
版本の絵巻物-融通念仏縁起と高野大師行状図画-(講談社「日本版画美術全集」1、36年9月)
粉河寺縁起絵と吉備大臣入唐絵(角川書店「日本絵巻物全集」5、38年8月)
絵巻物残欠愛惜の譜(日本美術工芸316~334、40年1月~41年7月)
吉備大臣をめぐる覚え書-若狭所伝の三つの絵巻-(美術研究235、40年3月)
弘法大師行状絵巻の系譜(日本美術工芸319、40年4月)
藤原兼経像(国華884、40年11月)
上野家の法華経冊子について(大和文華44、41年1月)
常謹撰「地蔵菩薩応験記」(大和文化研究101、41年9月)
長谷雄双紙(角川書店「日本絵巻物全集」18、43年7月)
十二類合戦絵巻(角川書店「日本絵巻物全集」18、43年7月)
福富草紙(角川書店「日本絵巻物全集」18、43年7月)
絵と絵詞(文学42-3、49年3月)
山王霊験記絵巻雑記(国華984、50年9月)
なお、これらの論考の大半は、『絵巻物叢考』(43年6月、中央公論美術出版)、『絵巻残欠の譜』(45年1月、角川書店)、『絵巻物叢誌』(47年2月、法蔵館)に収められている。

出 典:『日本美術年鑑』平成元年版(254-255頁)
登録日:2014年04月14日
更新日:2023年09月13日 (更新履歴)

引用の際は、クレジットを明記ください。
例)「梅津次郎」『日本美術年鑑』平成元年版(254-255頁)
例)「梅津次郎 日本美術年鑑所載物故者記事」(東京文化財研究所)https://www.tobunken.go.jp/materials/bukko/10204.html(閲覧日 2024-03-29)

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