小口八郎

没年月日:2002/03/04
分野:, (学)

 保存科学研究者で東京藝術大学名誉教授の小口八郎は3月4日午前2時48分、肺炎のためさいたま市の病院で死去した。享年85。 1916(大正5)年12月2日、栃木県那須郡烏山町に生まれる。北海道大学理学部物理学科を卒業後、中谷宇吉郎の下で雪の結晶の研究を続け、1948(昭和23)年に同大学大学院特別研究生を修了し、理学博士となる。この当時、過冷却された降水が森林や物に当たって着氷する「雨氷現象」について研究を行う。62年に中谷宇吉郎死後、中谷静子と共に「中谷宇吉郎年譜」(『中谷宇吉郎随筆選集 第三巻』所収、1966年 朝日新聞社)を編纂する。49年、東京藝術大学美術学部に移り一般教養(自然科学)を担当し、伝統技術に関する科学的研究を行う。65年、東京藝術大学大学院美術研究科に、我が国で最初の文化財保存に関する教育課程として保存科学専攻が設立された際、初代教授となり84年に退官するまで学生の指導に当たる。教え子には沢田正昭、三浦定俊らの保存科学研究者がいる。68年に完成した新宮殿銅屋根の人工緑青に関する基礎研究を行い、「噴霧法による銅屋根の化学的着色法」(『東京芸術大学美術学部紀要』第1集 1965年)として発表し、74年に日本銅センター賞を受ける。また古美術材料について研究を行い、「日本画の着色材料に関する科学的研究」(『東京芸術大学美術学部紀要』第5集 1969年)、「天平塑像の科学的研究」(同第6集 1970年)、「土紋装飾の材質及び技法について」(『三浦古文化』20号 1976年)、「墨の研究」(『古文化財の科学』第20・21号 1977年)、「X線マイクロアナライザーによる古代青銅器の組織と材質の研究1、2」(『東京芸術大学美術学部紀要』第14・15号 1979・1980年)などの論文を発表し、これらを『古美術の科学―材料・技法を探る』(日本書籍 1980年)として公刊する。特に墨の研究は、史料に当たりながら実際に古い硯で明・清の名墨をすり下ろし、その墨粒の結晶を電子顕微鏡で観察して、松煙墨、油煙墨や墨色の違いを考察していて、現在でも墨に関する基礎的な文献となっている。国際的にも東京藝術大学が組織した中世オリエント遺跡学術調査団の第三次調査団(1970年)の団長として参加し、カッパドキヤ地方(トルコ)にある中世キリスト教の岩窟修道院壁画の総合調査を行い、壁画の材料及び技法に関する科学的研究を行った。この研究は中国へと広がり、後に『シルクロード―古美術材料・技法の東西交流』(日本書籍 1981年)として公刊された。1984年3月に東京藝術大学を定年退官し名誉教授となる。退官後も古文化財科学研究会(現文化財保存修復学会)の監事として活躍した。

出 典:『日本美術年鑑』平成15年版(241頁)
登録日:2014年10月27日
更新日:2015年12月14日 (更新履歴)
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