本データベースでは中央公論美術出版より刊行された『黒田清輝日記』全四巻の内容を掲載しています。なお、デジタル化にともない、正字・異体字・略字や合成文字は常用漢字ないし現行の字体に改めました。



1896(明治29) 年3月20日

 三月二十日 金 気車が一時間計遅れて六時頃東京ニ着た もう丸でくらく為つて居た 途中では静岡のステーシヨンで天沼源三郎ニ逢ひ又国府津から珍らしい人が乗つた 橋村豊代さんニハ十二三年振であつた 実ニ小供の時の事を思ひ出した 先生ハ横浜へ下りた オレが仏蘭西へ立つ時ニ「かりのたよりハ忘れざらなん」と読で呉れた事を覚へて居らるゝか知らん ステーシヨンから直ニ久米の処ニ行き九時半頃迄話して内へ帰つた 母上様ハ風邪で寝てお出だつた

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