1920（大正9） 年1月1日
一月一日 木 晴 拝賀（午前十一時）
本データベースでは中央公論美術出版より刊行された『黒田清輝日記』全四巻の内容を掲載しています。なお、デジタル化にともない、正字・異体字・略字や合成文字は常用漢字ないし現行の字体に改めました。
1920（大正9） 年1月2日
一月二日 金 晴 来賀者 仲 午後二時ヨリ荻原 和田三造 吉岡 太田資英ノ四氏 皆十時半マデ語ル 和田氏ノ印度談ハ大ニ興味ヲ覚エタリ
1920（大正9） 年1月3日
一月三日 土 晴 午前十時四十分参集所ニ到リ参拝 十一時頃退出ス 午後九十一翁宮本包則氏子息同伴来訪 自作ノ短刀一口ヲ寄セラル 序ニ伝家ノ刀剣数点ノ鑑定ヲ請ヒタルニ郷義弘ハ正宗トモ称ス可キ名品ナリトノ事ナリ 記念トシテ鶴足ノ杖ヲ贈ル 翁ハ先考ト同年ナルノミナラズ容貌ト音声ノ酷似セル所アリテ懐シサニ堪ヘズ
1920（大正9） 年1月4日
一月四日 日 晴 正午研究会ノ事務所ニ於テ新年午餐会催サレ出席ス 席上始メテ前田利定子ヲ知ル 又食後徳川頼倫侯 蜂須賀侯 小笠原伯 大給子等ト居残リテ暫時談話セリ 宮本翁ヨリ鑑定書郵送シ来ル 在銘ノ太刀ハ正真ノ三條宗近ニシテ無銘ノ刀ト短刀ハ正宗（伝義弘）ト貞宗ニ決定ス 本日ハ風アリテ寒サ強シ
1920（大正9） 年1月5日
一月五日 月 晴 吉例ニ依リ午後一時頃庭前ニテ梯子乗ヲ演ズ 四時過和田英作君来ル 亦仲君来ル
1920（大正9） 年1月6日
一月六日 火 曇 夜中井精一氏来賀 此休暇中ニ京都ヘ赴キタリトテ土産ニ江州立木観音画像ノ守ト千枚漬ヲ寄送セラル
1920（大正9） 年1月7日
一月七日 水 曇 夜雨 仲氏ヘハ巴里ナル児島氏宛為替ノ発送ヲ頼ム 金子一氏ハ葵橋研究所員ナリ 渡米旅行券下附ノ援助ヲ求メタレバ府庁在勤ノ野村氏ヘ差向ケタリ 今朝猿回来ル （欄外 出勤始御写真部）
1920（大正9） 年1月8日
一月八日 木 曇 照憲皇太后陛下御筆ノ幅ヲ蔵メテ林和靖ノ図ヲ懸ク 午後渡辺氏来リテ中村君ノ容態ヲ語ル 其レニ付テ処置ノ方針ヲ打合セタリ 夜 Dostoevskii=Niétotchka Nezvanova ヲ読ム
1920（大正9） 年1月9日
一月九日 金 晴 岡野君ヘ電話ニテ尹ノ事ヲ頼ム 岡田 白瀧ノ二氏ヨリ丹羽氏ノ遺族夫レゾレ極リタル由ヲ聞キ安堵セリ 町井氏 中村君ノ始末ニ付相談ノ為来訪 夜二三ノ雑誌ヲ読ム
1920（大正9） 年1月10日
一月十日 土 晴 午食中ヨリ訪客アリ晩餐時ヲ除キ夜半ニ及ベリ
1920（大正9） 年1月11日
一月十一日 日 晴 十時半ヨリ先ヅ飯倉片町ノ西園寺家ニ悔ヲ述 次ニ喪中ノ佐野君ヲ森元町ニ訪ネ一時頃帰宅ス 玄関ニテ久我貞三郎氏ニ遇フ 引見シテ二時半迄語ル
1920（大正9） 年1月12日
一月十二日 月 曇 夜雨 午後二時女子学習院ニ到リ直ニ院長ニ面会シ新制度ニ適応スベキ図画ノ授業法ニ関シテ意見ヲ交換ス 後チ小林主事ヘ大給子ノ希望ヲ告ゲ又同氏ヨリ学校選定上ノ注意ヲ受ク 夫レヨリ教務ニ入リ橋本 岡野ノ二氏ト半時間許雑談シテ四時頃退出ス 上野精養軒ニ五時ヨリ開催ノ調度寮新年会ニ出席シ十時過寮頭及事務官ト自動車ニテ回ル （欄外 故三好氏肖像画依頼 留守中澤柳政太郎氏 故三好傳育官長写真携帯来訪）
1920（大正9） 年1月13日
一月十三日 火 晴 夕雨 町井氏ヘ電話ニテ中村氏作品ノ処置ニ付参考トシテ所見ヲ述ブ 又此序ニ同氏ヨリ佐介谷別荘ノ話ヲ聞ケリ 漸ク進行ノ運ビニ向ヒタルガ如シ 小林萬吾君学校ヨリ電話ヲ掛ケ授業開始後ニ於ケル生徒及ビ教員ノ情況ヲ報告ス 西園寺夫人告別式執行ノ事ヲ広告ニテ知リ二時頃同邸ヘ赴ケリ 同三時ヨリ仏国大使館ニ開催ノ慈善演芸会ニ出席シ七時頃帰宅セリ 長原孝太郎君ノ母堂年末ヨリ病気ノトコロ昨朝遂ニ死亡セラル
1920（大正9） 年1月14日
一月十四日 水 晴 細川侯爵母堂宏子刀自告別式麹町ノ邸ニ於テ執行セラル 式場廊下ニテ日清ノ役ニ第二軍司令部附タリシ依田氏ニ遇ヘリ 午後二時御写真部ニ到リ今回御下命ノ御写真八種ニ対シ更ニ修正上ノ注意ヲ加ヘ八色氏ヨリ問合セノ澄宮殿下ノ分ニ付見本提出 期限ヲ予定シ五時前宮城ヲ出ヅ 帰途ジヤパン・タイムス 靴屋 丸木邸ニ寄ル 夜青木子爵ヨリ第一歩ノ知ラセアリ 澤柳氏ヘ返答ス 小林萬吾君来談 十二時半去ル
1920（大正9） 年1月15日
一月十五日 木 晴 霞関離宮（三時ヨリ四時マデ）大食堂ノ壁並ニ彫刻模様ノ配色ヲ批評ス 亦路易十六世式装飾図案ヲモ観タリ 本日ハ渡邊式部官欠席 青木子爵ヲ昨夜ノ謝礼トシテ又原田男ヲ母堂逝去ノ悔トシテ訪問ス 以上自動車 夜流逸荘ニ於ケル国民美術ノ評議員会ニ出席ス 八時頃家ヲ出十二時帰ル
1920（大正9） 年1月16日
一月十六日 金 晴 答礼年賀状五十枚追加投函ス 明日子爵議員選挙ニ付投票用紙同封筒及委任状ヲ榎本子爵宛ニテ尚友会ヘ送ル 大坂角治政女八十二歳ニテ死亡セル由通知ニ接ス
1920（大正9） 年1月17日
一月十七日 土 晴 原田熊雄男母堂照子殿告別式裏猿楽町ノ邸ニ執行セラル 因テ四時頃同邸ヘ赴ク 夫レヨリ築地水交社ヘ回ハリ故有栖川宮殿下御銅像建設委員会ニ出席ス 委員長出羽大将 委員井出中将 有坂中将其他ト参考館敷地内ノ建設予定地ヲ検分シ又設計ニ付種々意見ノ交換アリ 技術家側ヨリハ伊東 塚本ノ二博士来会 製作者ニ新海氏ヲ推薦シ晩餐後八時過辞去セリ（本日モ往復共自動車ヲ使用ス）
1920（大正9） 年1月18日
一月十八日 日 晴 三善事務官ノ親戚平田氏所蔵ノ伊太利油絵聖ジヨルジユノ図一面鑑定ノ為メ搬入 薄拙太郎奈翁一世時代ノ風俗及服装ニ付相談ニ来レリ 酒場用ノ見本トシテ煙管掛ヲ貸与ス 曾我迺家五九郎丈ヨリ観音劇場優待券ノ寄送ヲ受ク （欄外 寺尾壽先生母堂葬儀）
1920（大正9） 年1月19日
一月十九日 月 曇 両陛下御避寒ノ為葉山ヘ行幸啓遊サル 午前九時半御出門同四十五分御発輦ニ付東京駅ニ奉送ス 午後佐野君流行感冒ニ罹リタルノ電話ニ接シ折好来診ノ渡辺氏ヲ伴ヒテ見舞フ 自動車ノ序ヲ以テ渡辺氏ヲ仲氏方マデ送ル
1920（大正9） 年1月20日
一月二十日 火 晴 午前十一時登校 今年最初ノ授業ナリ 而シテ学期末ノ競技ト郊外写生ノ日取 卒業製作ノ搬入ト採点 入学試験委員 岡四郎ノ件等ニ関シ協議ヲ遂ゲ午後二時半過退出セリ 梶山氏 小川氏来訪 子爵一柳末徳氏ノ辞職去十七日御允裁アラセラレタル趣夕刊ニ見ユ 右ニ付曾我君ヨリ電話アリ 後チ渡邊子爵トモ語ル