本データベースでは中央公論美術出版より刊行された『黒田清輝日記』全四巻の内容を掲載しています。なお、デジタル化にともない、正字・異体字・略字や合成文字は常用漢字ないし現行の字体に改めました。
一月一日 晴 (伊豆旅行記) 羽根つきの音を聞きながらうとうとして漸く九時頃に起き湯に入り宿屋よりの馳走の雑煮を二杯平げ範頼の墓を観に行き川に沿ふて下り修善寺ホテル前の橋を渡り一と廻りして帰る 今日は少し風が有るが東京などは随分寒いだらうと思ふ 一時半頃に牛鍋を命じて食ふ 食後一同打倒れて眠る 覚めて湯に入る 間も無く夜と為る 治平老人の台湾 琉球 奥州地方旅行中の見聞談などを面白く聴く 夜食にハ猪肉を取り寄せて食ふ 謹賀新年を二十余枚書き湯に入り寝る 十一時半也
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一月二日 晴 (伊豆旅行記) 九時に起て直に湯に入る 温泉場の愉快は朝の面洗を別にやらず寝ぼけ面の儘にて湯に入ることなり 夜寝る前に一と風呂やつて来るのも決して悪くない 今朝も御馳走の雑煮二杯で腹を太くした 今日帰途に就くことゝ極つて勘定を云ひ付く 三十一日の午後より今日迄まる二日二た晩の費用は総計十二円五十二銭 席料は八畳二た間にて一円 湯浅五人分四十四銭 夜具五人分八十銭なり 別に茶代三円下女に一円を与へたり 序に途中の汽車馬車等の賃銭を記せバ東京より三島までの汽車一円十六銭 三島より大仁まで二十銭 大仁より修善寺までの馬車は一人前七銭なれども六人乗の馬車を五人にて借り切りたることゆへ割前少しく上りたり 修善寺にハ牛乳も牛肉も亦シガールも売つて居るから不便は無い 又箱根其他の流行場のやうに悪ずれに為つて居ないから席料其他も程のいゝ所にて吾々の程度に適当なり 十二時前にがたくりに乗つて立つ 帰りハ下り路だから十二時半頃に大仁の停車場に着く 大仁と修善寺間に危嶮な場所が二ケ処有る 一は横瀬の森の横手の坂路と一ハ水昌山の下の橋だ 此の二ケ処でハ度々馬車を覆すと云ふ事だ 橋の方は最もあぶない 今は橋の欄干が四五間も落て仕舞つて居る 之れも馬車を打つけて破潰したのだそうだ 用心深い人は徒歩するに如かずだ 小供の時に修善寺から大仁に饅頭を買に来た事が有つたが其頃にハ此の水昌山下に橋は無く渡し舟であつた 不思議な岩山が有つて其下を深い川が静に流れて居るところが有つたと思つて居たのは即ち此の水昌山に狩野川だ 城山などハ少しも覚えて居なかつた 汽車の出るまでに半時間あるから停車場前の中清といふ茶見世に立寄り茶漬を食ふ 十六銭なり 酒も命じて長尾兄弟と飲む 十八銭なり 茶代五銭置く 一時十分頃に発車す 二時頃に三島に着き長尾兄弟と別れて久 佐と三人連に為る 磯谷 長尾は興津へ向ふ 一と寝入りして目を覚ました時は山北にて佐野が吾々の為めに鮎ずしを買つて居るところであつた この鮎ずし余り美味くなかつた 国府津に来て又弁当を一つ食ふ 馬入川の辺より暗くなる 七時新橋に着く 久米は品川にて下車し佐野にハ新橋にて別れたり
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二月二日 日 午後偕行社ニ於テ催サレタル日清戦争第二軍紀念宴会に出席す
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二日三日 月 午後文部省に於て図画取調ニ就第一会の会議
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二月七日 金 巴里パンテオン会の飛火会を午後七時より築地三ノ十五同気倶楽部に開く 来会十一人
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二月十日 月 文部省会議
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二月十二日 水 母上午後二時過の汽車にて鎌倉橋口家へ向け御出発
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二月十三日 木 小林新一郎氏に招れ柳橋亀清楼に行く 昨夜より雪
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二月十六日 日 久米 合田 佐野 中丸 伊藤の五人と自転車にて雑司ケ谷辺ヨリ飛鳥山へ出田畑根岸へ廻る
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二月十七日 月 自転車修繕の為合田同道三田四国町へ行 午後二時より文部省ニ於て会議
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二月十八日 火 午後五時過より斎藤甲山先生来 漢学稽古
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二月十九日 水 夕刻押川氏 鈴木貫一郎氏を訪ふ 夜自転車にて三河台町小代方まで行く
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二月二十日 木 夕刻より漢学
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二月二十一日 金 始めて自転車にて学校へ行 帰路山口勝氏 仏公使館 Andre 氏夫妻ニ逢ふ
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二月二十二日 土 自転車旅行の催有り 午後一時を期し品川停車場前の茶見世に会す 来る者久米 佐野 菊地 小代 中丸 小林 合田及拙者の八人也 旧東海道筋を走り横浜を経杉田に到る 此処にて月の出を眺め山を越え金沢東屋ニ一泊
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二月二十三日 日 今日も天気よく至て暖か也 十一時頃金沢を発し十二時頃逗子に着 養神亭別荘に休み夫れより鎌倉ニ行き角正にて昼飯 三時前同処を立出つ 戸塚近くなり自転車破損 小 菊の二人と汽車にて帰る(五時二分発)
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二月二十四日 月 午後文部省へ行
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二月二十五日 火 午前学校 夜六時過より溜池にて仏語教授
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二月二十六日 水 午後かりんとうやを相手に画をかく
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二月二十七日 木 午前一時間許かりんとうやを画く 夕刻より漢学 午前午後及び夜の十二時まで客有り 〔図 春秋図画稿―秋〕
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